買い出しに行きます!
「それじゃあ行ってきます。」
見送りに来てくれたプレストンさんに手を振って3ヶ月に一度の買い出しに出かける。
この世界では移動は馬か馬車となる。
まあ馬と言っても大きさは前世の馬の約2倍。
当然、乗る人を選ぶ難しさだ。
と言うことで俺はロバの引く馬車で出かける。これで大きさは馬並みかな。
移動も意外に大変なのだ。
「プレストンさん、ちゃんと留守番するのよ!」
馬車で隣に座るマーラさんの声にプレストンさんも苦笑いで手を振っている。
今回の買い出しは、マーラさんとリーさんも一緒だ。お二人から自分達も買い物があるから一緒に行かせて欲しいと頼まれたのだ。
馬車の少ない世の中だ。
もちろん快諾したよ。
お得意様は大切に、だよな。
「コウさん。猫ちゃんはお留守番なの?」
猫好きのリーさんは、いつもツィーを気にしてる。だけど俺にしか懐かないからいつも申し訳ない気持ちになる。
「うん。アイツは買い物とかは絶対来ないよ。
不思議と買い物の頃になると姿が見えなくなるんだ。野生の勘かな?」
マーラさんが一言。
「頼もしいお留守番ね。」
買い出しの目的地マルス帝国の首都は、かなりの距離がある。丸一日走り続ける事になる。
「マーラさんもリーさんも中に入ってて!
危険な場所へ入るよ。」
走り続けて約1時間。
隣の国『テーレント』は荒野の続く場所が多い。
隣接する場所にある俺の店は、この街道を走って行くのが一番早い。
早いが…荒野には闇影獣が稀に出る。これはこの世界で人間の最大の敵。
毒も魔力もある。
出会ったら戦う術を持たない俺ではラドフォードさん特製の武器を投げる以外方法はない。
ラドフォードさんからは大丈夫だと言われてるが不安は尽きない。
ふう。
今回もなんとか出会わず通り抜けたぞ。
街道を抜けると幾つもの村や町を通り過ぎて半日くらいで目的地だ。
よし!ここいら辺でお昼ご飯だ。
「あら、お弁当?」マーラさんの声が弾む。
「コウさん特製ね。」リーさんも嬉しそうだ。
二人に木枠で作ったお手製の弁当箱に入ったお弁当を手渡す。
内容は、お握り3つと肉の甘辛煮と卵焼きとなっている。
実はこの世界にお弁当はない。
たまに俺の店ではお得意様に限って依頼があればお弁当を作る事もある。
お二人はこのお弁当のファンだ。
あー、青空の下で食べるお弁当はやっぱり美味しい。
この先もまだ長いけど元気が出たぞ!
やがて、聳える大門が見えてきた。
首都『ムルゼア』に到着だ。
長い検問の列に加わるとのんびりと順番を待つ。
そろそろ俺の番だ。
俺はラドフォードさんから預かっている『メダル』を取り出して待つ。
この『メダル』は、どこの誰かを証明する道具のひとつで旅先ではこれ無しでは何処へも行けない。
俺の場合『養父ラドフォード』と書かれていると聞いた。特殊な機械が無いと読み込めない。
「次!」
門番の声に進むとメダルを差し出す。
門番の厳つい顔がメダルを見て
「ん?これは妙な…」と言いながら機械に当てる。
毎回これだ。
ラドフォードさんが、少し悪戯したとか言ってたからかな?
「ん?んん??
。。。
さっ、どうぞお通り下さい。」
いつもこのやり取り。
メダルに何をしたのやら。
意外にお茶目な俺の養父は今頃何処の旅の空やら…
マーラさんとリーさんもメダルを出すと、色が違う。そりゃそうだ。
『ヨーゼスト』の住人だしな。
機械には通さないでいいみたい?
やっぱり外国は違うのか。
敬礼する門番に敬礼を返しつつ、ムルゼアへ。
溢れ返る人に、いつもように圧倒されながら定宿へと急ぐ。
ーリーの視点ー
遂に来たわ。
コウさん買い出しへの同行のチャンスが!
ライバルは多いけど、今回は留守番部隊にやる事が多くてプレストン隊も動けない。
珍しくプレストンさんからもこちらへ「頼む」の一言があったくらいだもの。
あら、またマーラがプレストンさんを煽ってる。
彼女は本当に彼が嫌いね。
私はさりげなく『白猫』の居場所を聞く。
残った部隊に聞こえるように…
ふー。
やっぱり知らないか。
あの『ツィー』に我々から接触するのは無理難題だとマーラも知っている。
だけど、望みは繋がなきゃならない。
祖国で待つ『ピピランテ』の仲間たちの為にも。
やがて、街道へと差し掛かる。
早速『防護魔法』のひとつ『バリア』を最大限にかける。
私の得意分野だ。
もちろん『田中食堂』にも出かけに掛けてきた。
コウはびくびくしてるけど、彼を襲うものはいないだろう。
たぶんギルド辺りが、彼の移動に合わせて影部隊を放っているはず。
レイバンが指揮を執るなら最高部隊が出ているだろうけどね。
あっ!
この旅のお楽しみ『お弁当』
今日の付加は更に凄いわ。
彼の付加で視野が広がる。
それにもちろん物凄く美味しい!
彼の作る料理は付加が無くても価値ありと私は常々思ってるわ。
彼は相変わらず気がつかないまま青い空を眺めているけど、視野の広がりはより風景を美しく見せてるはずよ。
やがて、首都『ムルゼア』が見えてきたわ。
油断ならない。
既に2時間前から見張りがつきだしたものね。
現王の差し金と言うところかしら?
コウが持つ『メダル』
その特殊な事。
ラドフォード辺りの差し金ってところね。
さあ、我々も『メダル』を出さなきゃね。
『ピピランテ』ヨーゼストの魔法部隊の名前。
それはこの世界最強の呼び名を持つ。
そしてそこに所作する魔法使いはランク別に分かれている。
魔法使いのランクは。
白。。。レベル1
青。。。レベル2
緑。。。レベル3
赤。。。レベル4
そして金。。。最高値レベル5
『メダル』は、そのレベル5の金色を示している。
世界でも数人しか持てない『金色』
ふふふ。
コウは呑気に敬礼を返しているけど、門番の足は先程から震えている。
気の毒だけど、あとでひっくり返るわね。
人々の中へと進むコウは、このボロンテがランクアップしてボロンデーテに進化したと知らないらしい。
振り向く人の驚く顔を横目に見張りの数は容赦なく増加する。
やはり我々の役目はこれからのようね…