キキュウで脱出??
ーラドフォード視点ー
「で、おじさんはどうするつもりかな?
王座を奪取するとして、その先は?」と、ラシェット。
「王座を奪取する理由は、貴族連合の処遇。
そして民衆の生活改善だ。その後はこの国自身が決める。
兄上は隠居して頂く。決して害する事はしないと約束しよう。」
鼻で笑うラシェットに、彼の心の傷の深さを知る。
「あの人の事はどうでも良いよ。母上しか見えないんだから。」
ラシェットの答えを聞いて、更に決意は固まった。
「まずは逃げねばな。
どうかひと時彼らの目を引き付けて欲しい。
『キキュウ』と言うコウ発想の道具で空から逃げるつもりだ。」
スレッド以外見た事もないもの。
キョトンとするその表情に始めて年相応の表情を見た。
早速それを出して見せる。
畳まれたそれは、彼らの目には何の事かまだ分からないらしく詳しく説明をした。
風魔法を使う『キキュウ』の操作は意外に難しく、集中力が必要だ。
その為、彼らの協力は不可欠だ。
興味津々の様子にもう一押しする。
「『干し柿』だ。コウが送ってくれたもんだよ。美味いぞ。」
突然、表情豊かになるブルスタッド。
無表情で全く喋らない彼が始めて見せた歓喜の顔だ。
「やろうよ。ラシェットなら上手く考えてるでしょ。キキュウもちょっと見たいけど…」
双子の能力は壁抜けなど何でもない。
どんなものにも同化出来る。そんな不思議な能力は母親譲りか。
さすが『ビノワ』の主様を母に持つだけはある。
神出鬼没の双子に振り回されてバタバタする音を聞きながらベランダへ。
スレッドから説明を受けたデレクトはキキュウの準備をしていた。
飛び立とうと構えたその時、ゼストが呟く。
「感謝は本来ならコウ殿が受けるもの。
今回の件は、殿下の強い意志によるものだと覚えておいて頂きたい。
今後は、どちらにも加担しない。
殿下からの伝言です。」
「我が意志に従い、風よ顕れよ。
その力を持って我を連れ去れ!」
ゼストの言葉には頷く事なく飛び立つ。
ま、その直前にある物を投げた!
上空から「姉上に!目を覚まされる!」
それは本当の最後の奥の手。
コウのハーブティーと、大蒜の味噌漬け。
ツィーが教えてくれたのだ。
『主様』を癒せるのはコウの付加料理のみと。
だから、『約定』を破り人間と結婚した姉上が出産と同時に襲われた『深層睡魔』を解けるのもコウのみ。『ミズルド』の森の実りならばと。
ツィーの元へと。
俺一人では決して姿を見せぬツィーは、この大蒜の味噌漬けに現れて。
『これこそ、求めていたもの。』とだけ呟いて消えた。
まあ、大蒜の味噌漬けを咥えてだが……。
驚く表情のゼストとは、面白い。
上空から王宮を脱出する頃には、地上では警護隊から攻撃が加わるようになり、運転が安定しなくなる。
落下の危険が迫ったその時!
地上から悲鳴が上がる。
「ひゃーー!」「た、助けてくれー!」
いくつも聞こえる悲鳴は、攻撃していた警護隊のものだ。
あれはもしや『デーレット』か?
昔、家にでた時にコウが「ネズミだー!」とか叫んでいたが。
それにしても大量に現れて、警護隊のみを襲ってるとは何という幸運。
「陛下。あれは幸運ではありません。
部下のロイス達が飼い慣らしたもの。まあ、コウ殿の『パンプキンシード』とか言う物を利用してですが。」
コウ。また助けられたよ。
ところが本当に幸運が尽きたようで、突風が吹いてバランスがくずれた。
立て直す間のないうちに急降下が!
必死に軟着陸を狙うも、着陸地点までは考慮出来なかった。
不味いぞ。こんな場所では警護隊を躱せまい。
地上に降りた俺隊に迫る警護隊。
魔法で散らすのは簡単だが、出来ればやりたくない。彼らもこの国の民なのだ。
焦る俺に新たなる光が。
「こっちに来い!早く!!」
突如現れた男の後をついて行く。
その男はムルゼアでは知らぬ者はない者。
でもなんで彼が?
ケチで有名な彼は、利益の為にしか動かない筈では?
しばらく行くと大きな倉庫が見えた。
「取り敢えず、ここへ。」
礼を言う暇もなく彼は姿を消した。
俺の感じていた事は二人も同じらしく、デレクトが疑問を口にする。
「なぜ、ラクゥド商会のラクゥド殿が?」
ーコウ視点ー
目の前にいるのは、何なのだろう。
怖いよりも、全く動けないが正解!
3階建ての建物ほどの大きさのその身体はどう見ても『猫』
でも、鬣もあるし言葉まで喋るし。
牙見えてます!!
ん?本人?が名乗ったぞ!
『我らは『神火』の守護者なり。
その方らが、試練を受ける者達か?』
守護者?
試練?
どーなる?俺達??