レレベ村に到着!
ーゼン視点ー
コウ殿から遅れる事、数日でボルタ国内へと入った。
本来ならコウ殿に同行し今頃ならボルタの王城へたどり着いている頃なのだが、コウ殿たっての願いとしてキヌルに残った。
ナディム殿を始めとする隠れ里の手助けをする為だ。
かなりの収穫はあったので、いつかヨーゼストへ彼らを招く事を約束して別れとなった。
最近のボルタは極寒の荒地であると聞いた。
しかしこれは……。
甘く見ていた。
コウ殿の事だ。しかしここまでとは。
広い麦畑が広がりその先には、緑豊かな森が見える。聞けば種まきしながらの旅だとか。
どうやらカリナ殿がその手助けをしたようだ。
しかし蒔いた側から刈り取りも出来るほどの実りをつけたとか。
刈り取りながらも半信半疑であったと語った村の老人の言葉に深く頷いた。
そんな訳で、行く先々の村々では、コウ殿の名を聞くだけで感謝を捧げる者が続出していた。
もちろん『付加料理』もその一つだ。
荒地を見る事なくボルタのウィンゲルドまで着いた。
いや、途中で寄ったビアホールには触れまい。
衝撃とは突如やって来るものなのだな。
まさか無双騎士団が店員として出迎えるとは。
恐るべしコウ殿……。
ウィンゲルドで伝言を受け取る。
ラオ殿からだ。
「レレベ村で待ってます。」と。
伝言を受けてレレベ村へと急ぐ。
ようやく追いついた私は、見慣れぬものに迎えられる事になる。
「お兄さん。土産にこの『温泉饅頭』はどうだい?中に甘い餡子が入っていて美味いよ!」
出店の様だが、妙な旗を立てて店先にはいい匂いのする湯気が上がる。
これはまさしくコウ殿!
歩みを早める私の目の前に、揃いの上着を羽織った集団が現れた。
「さあ、旅の方。
お泊まりなら『温泉』に入れるこのベルシークはどうだい?
今なら夕食に『温泉卵』がついてくるよー!」
どうやら宿屋の者達らしい。
先程からしきりに聞こえてくる『オンセン』とは何だ?これもたぶんコ、
「あーー!
ゼンさんだ!良かった、良かった。
心配したよ。難しい事頼んでごめん。
ナディムさん達はもう大丈夫かな。」
叫びながら近づいて来るコウ殿も揃いの上着を着ているが、それ以上に気になるものが肩に!
「あっ、これね。
これはボルタの王城に住んでるカエル。
変わり者で喋れるクセに人見知りして俺としか話さないんだよ。」
コウ殿!
勘弁してください。
その肩にいらっしゃる方は、太古の時代から住むこの辺りの土地神様では。
我々の古い文献によれば、気に入った者に気まぐれに力を貸すと言う伝説があるが。
顕現された目撃例自体が数百年前だから、詳しくは分からないが滅多に人の前には姿を見せない。
見せないはず……。
あー、コウ殿といると自信が無くなりそうだ。
部屋に通されてガイ殿達から聞けば、なんでもレレベ村の村人と仲良くなり力添えを頼まれたらしい。
困ってる人を見捨てないのがコウ殿だからな。
しかも『温泉』を作ってからの張り切り具合は凄まじくノリノリらしい。
「ゼン殿。お待ちしていた。
コウのワガママを聞いて貰い、面倒な事柄を無理に押し付けて申し訳ない。
しかし、こちらも急ぎの用件。出来れば明日ソル山へ向かいたいと思います。いかがか?」
ガイ殿の言葉に否やはない。
「いえ。隠れ里の件では私も得るものがありました。ソル山の件も聞いております。
是非とも明日同行させて頂きたい。」
話し合いの最中にコウ殿の叫び声が!
「は、離せよ。やめろ!!」
コウ殿は今日5回目の温泉のはず。
宿屋の中だし、土地神様もご一緒だと誰も同行していない。
もしや!!
駆けつけたのは、私とガイ殿だけではない。
レイバン殿始め宿屋の者達も駆けつけた。
しかし、その場にはコウ殿の姿はなかった。
宿屋にも、レレベ村の何処にも姿がない。
「もしや、ラドフォード殿下の件では…」
考え込むガイ殿の言葉にスタン殿から問いかけが。
「もしや、ラドフォード殿下はとうとう決意されたのですか?」
頷くガイ殿。
「その件もあり、私はメルセデス陛下宛の親書を授かって参りました。コウを守ろうと。」
そこまで言うとそのままガイ殿は黙り込んだ。
重苦しい空気の中、突如土地神様が姿をお見せになった。
「心配はいらぬ。あの者なら暫くすれば自然と戻って来る。今頃は…」
ーとある場所にてー
「お前なぁ。んーーーー。。。
いいだろう。紐を解くが逃げるなよ!」
「分かってるって。
材料は何だい?よし!やるぞー!」
「「「。。。」」」
静まりかえったその場所には、鼻歌交じりの包丁の音だけが響いていた。