勘違いって…誰か教えてよ!!
ー『ミズルド』 コウ視点ー
美しい景色に見惚れていたけど、落ち着いて眺めたら気になる事が。
湖に生き物の姿がないのだ、
いや、この辺りにも虫も鳥も何もいないか?
違和感が半端なくなりだんだんと落ち着かなくなった。
なんで?
「ようやっと気づいたか。
この湖は本来なら透明ではなく翠色。鳥や魚の泳ぐ場所なのだ。
だが、水に毒があるため生き物は絶えた。
其方も息苦しいだろう?」
そう言われて湖を覗くと、嫌な気分になる。
でも、息苦しくはない。
「本来ならば、我の力で何とかするのだがそれも今は出来ぬ。せめて『琥水』さえあれば。」
聞けば祠とは、石で出来た何かではなく『湖そのもの』なのだとか。
その後『琥水』の説明を改めてされて俺は固まったよ。
ちょっと穴を掘って埋まりたくなる。
か、勘違いとか。誰か教えてくれよ。
超恥かきじゃん!
「『琥水』とは月の光を浴びた石がその中に溜める水の事。」
なんと!
この世界にとって月は特殊。
なぜなら、この世界の月は1年に3回しか姿を見せない。
しかも晴れた夜だけ。
その月の光を集める??
む、無理だよ。
『琥水』を作るのは膨大な月日が!
俺が騒ぐと更に石についてレイバンが一言。
「その石は特定の場所にしかない。」
えー、余計無理ゲーだ。
はー。
『ビール』だとか言って勘のいい自分に自信モリモリだった過去は消去したいよ。
落ち込んでるときつねが珍しく慰めてくれたよ。
「其方の作る料理は、中々のもの。
ま、ここら辺で弁当とやらにしよう。」
そこで湖畔にシートをひいて、ピクニックにする。グジグジ悩むのは性に合わないからな。
よーし、今朝早くから皆んなの頑張りの詰まった渾身の料理を出すぞー!
パン系はサンドイッチを量産。
ローストビーフサンドや、ジャムサンド。
卵も当然入れたよ。
俺は出汁巻卵を挟む派。
お握りも欠かせない。
ガイおじさんは米派。
唐揚げや肉団子なんかも出す。
それにせっかく持って来たんだから、間違いとはいえ『ビール』も。
青空の下での乾杯は最高だよ。
シートに次々出す俺にレイバンから一言。
「もう、乗せる場所がないじゃないか?」
大量に詰め込んだ料理を全部見て欲しくてつい、並べ過ぎた。
で、うっかりした。
『ビール』の瓶が一気に倒れた!
あー!
間に合わず何本も犠牲になるよ。必死に抱きとめたけどびちょびちょに。
拭いたり片付けたり、必死の俺を誰も手伝わないとか!
なんだよもう!
ちょっとむくれて振り向くと、立ち尽くした皆んなが『湖』を見て固まってる?
あれ?
あんな色だったっけ?
ビールが溢れた辺りから『翠色』が広がっていく。
ゆっくりと広がる『翠色』を見てたガイおじさんが「コウ!全てのビールを湖に入れてくれ。」って。
おー、リトマス試験紙みたいな劇的変化が面白い。
『コウよ。其方の作るものはまこと論外よの。
しかし良くやってくれた。これで暫し保つであろう。『琥水』は其方の用事が終わり次第頼んだぞ』
きつねは?
声だけするけど姿派見えず。
「コウ。上を見ろよ。」ラオの一言で見上げると
えー!小高い山くらいの大きさになってるけど?
これ本当に肩に乗せてたきつね??
『青い洞窟から帰る際は良くみて帰れ。其方の探し物があるやもしれぬ。
この礼に持ち帰るが良い。』
デッカい姿のきつねは、その言葉と共に薄くぼやけて最後はまるで空気に溶けるように消えた。
ちゃっかりピクニックシートの食べ物は無くなってだけど。
俺たちはちょっと動揺しつつも、来た道を帰る事にする。
きつねに言われたように『青い洞窟』をじっくり見るけど、何も見つからない。
痛!
コケました。
よそ見してたから、足元の足に蹴つまずいて。
「大丈夫か?」レイバンが手を貸してくれる。
起き上がろうと手を壁についた時、何か違和感を感じた。
??
良く見ると、壁に亀裂があってその奥が見える。
亀裂に俺が手をいれたら、ボロボロと壁が崩れて奥の洞窟が現れた。
「びっくりした〜。手をついただけなのに。
怪我の功名か?」
と苦笑いで今一度立ち上がると、デジャブ。
また、全員が立ち尽くしているじゃないか。
後ろから覗いてお悩み解決!
真っ赤な石の壁が!
『火石』で間違いないね!
石の壁を崩すのをどうするか話し合ってたら、俺が触るたびにボロボロと崩れるし!
他の誰かじゃダメらしい。
んー。俺にもしや魔力が??
期待してたらガイおじさんが。
「コウ坊や。楽しそうに期待してるところ悪いんだが、これはきつねからのコウのビールのお礼だろうよ。間違いなく魔力はないよ。ラドフォードも言ってたろ?」
はー。やっぱダメか。
結構期待してたんだけどな。
『火石』を大量に入れて、いよいよ洞窟の外へ。
あれ?
人がたくさんいるような…?
洞窟の前には、スタンさんとゴリラの群れが。
あっ、違うぞ。
筋肉ダルマが大量に。
しかも見知らぬ偉い人っぽい鎧を着た人物まで。
なんか入っちゃダメだったとかでまさかの牢屋?
俺だけプルプルしてると、ガイおじさんが前に出て。
「これは無双騎士団の皆様。
何事ですかな。」
すっげー。余裕な態度だ。
単なる甘党の宿屋の主人と思ってだけど、やるときゃやります!かな?
「宜しければ城までおいでください。」
その言葉に重なるようにスタンさんが。
「コウ殿。この通りお頼み致します。私のこの身に変えましても傷一つおつけすることなくお返し致します。どうかご同行下さいませ。
出来ましたら、我が王の願いを。」
と言うなり土下座。
や、やめろよ。土下座は半端なく違和感だよ。
前世の記憶から違和感しかない。
とにかく、一緒に行く事になった。
でもやっぱ洞窟の外は寒かった。
ーラドフォード視点ー
「だから、兵を引かせろ。
民衆に危害を加えたら俺が許さない。いいか!
貴族連合が如何に討伐の名目で軍を集めようと挑発に乗るな!」
元老院のうち、コックス家を除くドーソン家・ディルク家は貴族連合についた。
近衛隊は王太子を守って静観している。
プレストンが集めたのは辺境伯と国境警備隊。
首都の警備隊も我々の味方となり、緊張が高まる。
望みとはかけ離れた方向へ向かう今、打開策はひとつだ。
「スレッド。以前からの要望は叶いそうか?」
珍しく愉快そうに笑うと「御意。」と一言。
「では、明日王宮に乗り込む。
当然極秘にて兄上と直接対決するぞ。良いな。」
「「「お待ち下さい!!!」」」
プレストンやジェレーラなど周りからの反対など無視をする。
無血以外は、絶対認めない。
兄上ならばきっと。
それに俺には奥の手があるのだから。
明日はデレクトのみを従えて、乗り込む事にする。彼奴なら10人前くらいは、働くだろう。
それにしてもガイから便りがないが、ボルタ王と接触出来ただろうか。