青い炎?
ー宿屋にて ガイ視点ー
まさかの大喧嘩とは。
ゾーケルのオヤジは気難しいので有名だが、コウは穏やかな気質で喧嘩とは縁のない奴だと思って油断していた。
しかし『湯たんぽ』とは何だ?
あのコウの絵では何も分からないがな。あれを出したのは不味かった。
隠して何かしてると思ったが絵とは。
しかしクーパーは意外だった。大人しくどちらかと言えば気の強いオヤジの影になり無口な印象だったからだ。
それでもコウに頼み事をするとは余程この街の状態が良くないのだろう。
どこの国も問題があるもんだ。
俺が言うのも何だが……。
俺たちがコウに『湯たんぽ』について尋ねようとしたら扉を叩く音がした。
スタンだ。
スタンは、詫びを入れつつコウに頼み事を始めたので慌てて割って入る。
「まあ待てや。こういうものには順番というものがあるだろ。ちょっとこっちで話し合おうや。」
少し強引だったが、主様との約束がある。
スタンにとって、俺のセリフは予測の範囲内だったようで
「また、来ます。」
の一言を残して帰って行った。
たぶん『青の洞窟』から戻れば現れるだろう。
しかし、その晩の事件はそれでは終わらなかった。
寝静まった深夜に異変は起こったのだ。
扉は確かに閉まっていた。
その扉から何かが侵入してくる。
炎?
青い炎だ。
扉をすり抜けると部屋へと入ってきた。
ふわふわと青い炎は空中に泳ぐようにコウへと近づく。
不味い!
コウ!!
レイバンも俺も。
当然部屋にいた者は全員目が覚めていた。
ナットでさえだ。
しかし、金縛にあったかのように誰もが声ひとつ出ない。
炎はコウの真横に来た!
しかし肝心のコウは眠ったままだ。
全員が金縛から逃れようと必死だが誰一人どうにもならないらしい。
炎が一際大きくなった途端にコウは目を覚ました。
すると、炎とコウが会話を始めた。
「えっ!困ってる?
でも今は夜だし俺は弱っちいしな。外へ行くのはヤバイよ。
うーん。わ・分かったよ。行くよ。そんなに怒るなよ。」
普通に会話するコウに金縛になりながらも、寒気を覚える。
レイバン達も青い顔で見つめていた。
コウが立ち上がり、扉へと向かうのを見て一層焦る。ついて行くな!
どんなに叫んでも、心の叫びは誰にも届かない。
ガチャ。
ま・不味いぞ。
待て。コウ、行くな!!!
満身の力を込めても指一本動かせないままだ。
祈りも虚しく、コウは炎の後について部屋を出た。
その後も必死の戦いは続く。
焦りから汗が背中を伝うも瞬きすら出来ずにいたその時!
『解』
カリナ殿の鋭い声が飛んで全員の金縛が解けた。
「カリナ殿。助かった。」と俺。
あちらこちらから賛同の意思表示が示される。
しかし、あの炎は何だったのだ。
金縛を抜けた身体はグニャリと力が抜けて疲労感が凄い。
だがそんな場合ではないと喝を入れる。
全員が素早く着替えて装備を整える。
皆気持ちは同じだ。
一刻も早くコウの元へ。
一番に準備の整ったレイバンがドアへと向かい歩き出したその時、扉が開いた。
ガチャ。
「あれ?皆んな起きてたの?」
気の抜けたセリフと共にコウが戻る。
相変わらずのコウの様子に安堵の溜息が漏れる。
無事コウは戻ってきた。但し、一人ではない。
正確には一人と一匹だ。
コウが抱き抱えていたものは『怪我した狐』だ。
どこから?
炎の正体は?
唖然とする我々を余所に自分のベットに狐を乗せ甲斐甲斐しく世話を焼くコウ。
「あ、カリナ。
治癒をしてやってよ。怪我しててさ。」
カリナは全く動かない。
ん?まだ金縛なのか?
我々の金縛を解いてくれたけれど。
確かに一人だけ我々と違い未だ真っ白な顔色で立ち尽くしている。
「コウ殿。こちらは?」
金縛から立ち直り掠れた声で尋ねるカリナ。
良かった。声が出たようだ。
「なんか困ってるらしくてさ。さっき子狐が力貸してくれって俺のとこへ来たからちょっと出たんだよ。そしたらこの母狐を見つけたって訳。
あ、皆んな起こしちゃってごめん。」
バタン!
次の瞬間、カリナ殿が崩れ落ちた。
驚く我々にコウが一言。
「こら!脅かしちゃダメだろ。
カリナに酷いことするんなら俺力貸さないよ!」
『ご、ごめん。コウ、許して。』
カリナ殿をベットに運ぶ我々の耳に聞きなれない声がした。
振り返ると狐の目が弧を描いて笑っていた。