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ウェス拘束ーナット視点ー

ー宿屋にて ナット視点ー


「領主より呼び出しがあるかもしれません。その際は私が代表として赴きたいと思います。」


初日の疲れからコウが眠った後の話し合いでウェスが言い出した。

あの門番とのやりとりが問題になるとの考えからだ。


「そっちは任せていいか?

実はレイバンからの提案で、コウの身体が寒さに慣れてからボルタ入りした方が良いとの意見があってな。」


ガイ殿は先を急ぎたいお考えのようだが、確かにコウ殿の風邪は治ったとは言えまだ油断は出来ない。



翌朝、結局はこのまま留まるとの結論となり、かなり遅くに起きてきたコウ殿は我々だけでなく宿屋の客にまで『リゾット』を配っている。

こういう所がとても真似できないと思うところだ。


しかし、のんびり朝ご飯を食べていたのはその日限りとなった。


その日の午後に事が急激に動いたのだ。


まずはウェスの予測が当たり領主からの呼び出しがあった。かなり物々しい呼び出しだったが。


引き摺られるように連れ出されるウェスが私に囁く。


「決して乗り込まれてはなりません。

そして、何があっても御身分を明かされてはなりません。」かなりの眼力に事の重大さを感じ始めた。

もしや、かなり危険が伴うのではと。


引き摺られていくウェスを見送りながらラオ殿がぼそりと呟いた。


「コウがレイバンと買い物に行ってる隙でよかったよ。」


確かに大騒ぎになる予感がします。

でも、そのラオ殿達にも次なる事態が発生した。


そのすぐ後にこの街にあるギルド長自ら訪れて頼み事をしてきたからだ。

その内容は大型の闇影獣が数体街の近くに現れたというのだ。


闇影獣は、普段あまり街の近くに現れない。

しかも、大型ともなれは異常事態だ。

街に万が一にも入ればどれ程の被害が出るか予想するもの恐ろしい。

当然の事ながら引き受けたレイバン殿達だけなくガイ殿も同行される。

事は緊急事態だと。


コウ殿の護衛としてカリナ様がつく。

神官でもかなりの武術の達人と聞く。安心して3人は出かけた。


コウ殿は何やら『出店』なるものをするのだとか。街の住人の方様子からどれ程の力添えかを思うと当然私も弟子として手伝うべきなのだが。


私は領主の元へ向かった。

ウェスの引き摺られる姿が気になるのだ。


だが面会すらままならず、毎回門前払いとなる。

当然陛下へはウェス経由で連絡済みなのだが私も何かしたいのだ。


1週間経った頃、レイバン殿達も帰ってきたのでホッとしている所にようやくウェスが解放されるとの通知を受けた。

コウ殿達の出店も終わり皆んなにようやくウェスの事態を話した。


コウ殿は驚きのあまり唖然となりガイ殿の口からは「不味いな。」の一言。

1週間は長すぎて予断の許さない事態だと全員の認識が一致した。


コウ殿が出店をしていて知らなかった事を気に病まれるがガイ殿から助言が入る。


「こういう場合、我々に出来ることは少ない。

だが、コウが出店は間違いなくこの街の多くの住人の役に立ったのだ。それは大切な事だ。もちろん、我々の仕事も必要な事だと後悔はない。

コウ。これからどう動くかではないのか?」


コウ殿が深く頷いた。



翌日、皆んなで駆けつける。


しかも、それは罠だったのだ。

そう。逆らえばどうなるか思い知らせる。

それこそが目的だった。



そうとも知らず私は期待を胸に大門が開くのを待った。

ウェスの姿を探そうと。


ところが出てきたのは大量の衛兵ばかり。

その後ろからゆっくりと出てきたのは、領主のデレクだ。

片手で引き摺るのはボロボロになったウェスだ。


頭から足先まであらゆる場所から血が流れる。



こんな……。


弱り切っているのかピクリともしないウェス。

こんな。

こんな事になるなら私が動けば良かった……。


私が叫ばないで済んだのはコウ殿が叫んだからだ。


「ウェス!ウェス!!

な、なんでだ!なんでこんな酷い事をするんだ!!」


叫ぶコウ殿ににやけ出した領主のデレクは満足そうな顔で笑いながらこう言った。


「生意気な態度を取るとこうなるのだ。

お前たちのように馬鹿な連中は皆こうなると思い知るが良い!」


悔しさと浅はかな自分への怒りで目の前が真っ赤に染まった。



その時だ。


「許さない。許さないぞ。」


駆け寄ろとするコウ殿をレイバン殿が必死に止めている横で誰かがそう呟いた。


振り返ると、いつの間にか大勢の人が押しかけていた。

先頭には宿屋の主人の姿もある。


「コウ殿のお仲間にこんな事をするんだなんて許さない!!」


その叫びがキッカケだったのだろう。

群衆となった人々が一斉に叫び出す。


止めようとする衛兵なんて問題にならない数の人が集まっていて、まだまだ増えている。


「お前達!こうなりたいのか!!」

ウェスの髪を掴んで腫れ上がった顔を上に向ける領主。


絶句する群衆の上で次の事件は起こった。


空を真っ黒に染め上げる鳥の群れがいる。

これはいったい……。

そしてその後いっせいに大小様々な鳥が衛兵目掛けて攻撃を加え始めた。


その姿に勇気を得たのか群衆も再び押し寄せ出した。

揉み合う双方。

この場合がまるで戦場さながらとなる。


「あ、危ないよ。皆んな待って。」

と、叫ぶコウ殿の声など誰にも届かない。


すると鳥達が突然攻撃を中止して一斉に鳴く。

驚く一同は、一点に集まる鳥達の姿を目で追うと。

鳥達の集まる先には整然と並ぶ兵士の姿があった。

先頭にはアンドレアお兄様と近衛隊が。


それからは怒涛の展開だった。


あっという間に逮捕された領主や衛兵達。当然門番も逮捕され今は近衛隊が街を守る。


助け出されたウェスは何とか命に別状はなかった。

重傷だが暫くすれば完全に元に戻ると言われてホッと胸をなでおろす。

重傷のみで済んだのは、カリナ殿の神官としてのお力と、ウェスが連行される時隠し持っていたコウ殿の『飴』のお陰だと言われた。



それにしても今回は改めてコウ殿の凄さに気づかされた。

コウ殿へ向けるこの街の人々の感謝の姿に私自身深く感銘を受けた。

沢山の人達が押し寄せる姿に。

衛兵に立ち向かう勇気に。


これは宿屋の主人の発案らしい。

曰く…『コウ殿のお仲間のピンチを救え。今こそ恩返しの時!』と。


コウ殿は「なんて良い人達の住む街なんだろう。旅人に優しいよね。」

と、相変わらずの頓珍漢。ふふふ。


それにしても、誰一人怪我なく済んで良かった。

レイバン殿によれば、あの鳥達は主様の加護であっただろうと。

それが街の住人も守ったのだろうと。


今少しウェスの怪我が治るまでお礼の食堂を宿屋で始めたコウ殿の手伝いをしながら、色々考える。


私は何をすればこのご恩に報いる事が出来るのかと。




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