戦場では…。
ーその頃…戦場ではー
「今こそ、無双騎士団の真価を見せる時。
恩人に報いるべくその名に懸けてチカラを尽くせ!」メルセデスの号令が響き渡る。
その声に呼応して怒号が上がり、馬に跨った騎士達は一糸乱れぬ統率のもと一斉に闇影獣へと襲いかかる。人間の闇影獣を巧みな馬捌きで躱し刀でひと刺し!!
闇影獣は一撃必殺で倒れて行く。
躊躇いなく、正確なる攻撃…。
あっという間に、不利な状況は一変してゆく。
「我が名に於いて、その真価を示せ!」
その声に呼応するように、水柱があちこちに上がる。
その横では、竜巻が次々と闇影獣のみを攫って一瞬で砕く。
ピピランテの長ゼンは一切動かないまま。
魔法は、戦場の隅々まで広がって闇影獣のみを狙い撃ちにする。
ピピランテの本気が、戦場に吹き荒れる。
「我が部隊は、救出活動に専念せよ!」
キヌルの部隊の並外れた身体能力は、人間などまるで軽石の如く易々と運んで行く。
いつの間にか到着したウェスは、近衛隊隊長としてその場の指揮を任されていた。
レイバン達との連携もウェスならば、との抜擢だ。
トラッデは、その間も神出鬼没な動きに終始する。
機動力の高さを誇るトラッデは、新種を主に相手にして撹乱を続けた。
それは、無論レイバンの力に頼るところが多いが彼らの能力はモーリフなど音楽で新種の能力を弱体化させる事に成功したのだ。
『ウ、ウウゥーー!』
時折上がる呻き声こそ、新種の苦しむ声でありトラッデの音楽による攻撃が齎したもの。
そして…。
「防衛戦の展開をせよ!
我が部隊は、光魔法を中心にして後方部隊を守れ!!」
ラドフオードの声に、呼応してハーフ軍団の光魔法は助け出された人々の安全を守る為の展開となる。
後方部隊…そこには。
そう。
アーリアを始めとする神殿の者達の姿が多数見受けられた。
駆けつけてたのだ。
国中から集まったと思われるその神官の数。
神力を持つ者は、今全てここに集結していたのだ。
そして、戦場と同じく…
いや、治癒・浄化などそれこそ血眼の戦いがここでこそ行われていた。
神力だけでは、不十分とみたカリナがコウの薬の配布を開始する。
「問答無用で飲ませなさい!!
不味いとか、言ったものを押さえ込む為に援護をガイ殿にお願いしてあります」
重傷者の多いテントでは呻き声が、絶えない。
(後ほど、ガイの部下がその時の光景を夢に見ると言うほど壮絶な現場だったと)
『コウ印の薬』は、後の世まで奇跡の薬と伝わる(が…但し、有り難いだけではないとの噂も絶えないまま…)
やがて、
戦場にようやく、目処が立ってきた。
ホッと肩の荷を降ろすそんな時だ。
ひとりの
傷だらけの人間がテントへ駆け込んで来た。
それは…予測不能な事態の始まりを告げるものだった…。
「た、大変です!
デーレット(鼠…ロイスの使役動物)が…デーレットが反乱を起こしました。ム…ムルゼアの住人を襲っています…」
彼はそう言うなり、そのまま倒れこんだ!!
「「「ロイス!!!」」」声が重なる。
倒れているロイスは身体中から、血を流れ出していた。
その様は、まさに満身創痍。
カリナが駆け寄り服を剥がしてその酷さに周りから声があがる。
咬み傷と思われる傷はそれこそ、身体中を覆い尽くす状態で。
カリナの神力と『気つけ薬』『傷薬』など複合的な治療はまさに時間との戦いとなる。
それほど、ロイスの状態は酷いものだ。
よくぞ…ここまで。
ガイの握り拳に力が入る。
ガイは、その治療を無言で眺めているとまた、新たな伝令が駆け込んできた。
「ムルゼアの街で猫や鳥などの小動物が、反乱を起こし住人に多数の負傷者が出ています。
街は、正にパニック状態。
城から近衛隊が駆けつけるも、あまりの数に避難誘導すらままならず。
救難信号が、発せられました!!」
『救難信号』
それは、捨て身の王の発する信号。
国の存亡に関わる事態を示すもの。
「我が部隊は、すぐさまムルゼアへ向かう。
装備を整えて集合せよ!」ガイの真剣な表情はそのまま、緊張感を持って部下達へ伝わる。
誰もが顔を引き締め。
ムルゼアの街中へと向かう。
ーコウ視点ー
あ!
なんだろう。悪い夢みた気がする。
うたた寝しちゃったよ。
嫌な汗掻いたなぁ。
なんか悲鳴や呻き声が木霊する夢だったような…。
義父さんを心配してるからかなぁ、俺。
俺は、嫌な夢を払うように頭を横に振った。
あれから。
ヨーゼストの研究室をお借りして本を頼りに必死に薬を作ってる。
だけど。
どれも単なる薬でしかなくて。
闇影獣を元に戻す薬なんて…。
もしかして、無いのかも知れない。
本には…
『闇を遠ざけるモノ。
それは各地に散らばる伝説の食材のみ。
その食材を知る者は、主様のみ』
とだけあるんだが…。
参考になるか!!
無理ゲーだ。
伝説の食材って?(しかも各地って…今更…)
だいたい、主様とか知らないし。
人に会わないので有名なのに。
どうすりゃいいんだよ…。
頭を抱えている俺の横でルスタフが居眠りをしていた。
め、珍しいなぁ。
気を張って、俺が休むまで一睡しないで見張ってたから疲れたんだよ。
また、行方不明になったら困るからって。
休めよと言っても聞かないから。
俺が呻いていたら、突然バサ!っと音がした。
振り向いたら…。
どしたんだ?
お前たち…。
太郎・麗・狐・黒猫・ちっさなペンギン?
それぞれが、手に食べ物を持って差し出してくれてる??
何?
あー!!
これって…。
俺が集めてた五大食材じゃないかぁ。
もしかして…主様に…。
頼まれたんだな!!
テーブルに五大食材を乗せたら…太郎が近づいて来たよ。
『これを使え。
いいか。お前の力を信じている…頼んだぞ、コウ!』
太郎…喋り方がおっさんだし。
まぁ。有り難いけどな。
もしかすると、出来るかもしれない…。
俺の心に希望の光が灯る。
しかし、ルスタフはよくて寝るなぁ。
(普段は気配に敏感なのに…)
テーブルの上には…
光るキノコ
火タコ
笑み卵
米の水風船
そして…樹液。
全てが…形を変化させ食べられるように変化していた。
耳に残る悪夢の呻き声を振り払い。
一心不乱に。
『薬』を…いや。
美味しい料理を作る。
食材が教えてくれる。
前世では…『料理人は、食材のその声を聞く』と言われている。
耳をすまして…。
俺は無我夢中で、ひたすら料理に続けた…。