ガイ視点
ーガイ視点ー
実際、この目で見るまで信じられなかった。
最悪の想定の範囲内なのか…これが。
スレッドから聞いてはいた。
だが、人間が闇影獣になる。
そんな事を想像するのを、何処か心が拒否したのだろう…。
またもや、後手に回ったのか…。
後悔よりやるべき事だと、部下に光魔法で防御態勢を敷かせ、仲間の回収を命じた。
傷ついた国家警備隊や、騎士団。
その数の多さ…。
先日の過酷な戦いのすぐ後だ。
手薄な場所を狙い撃ちにされたせいで、現場の状況は悲惨そのものだった。
光魔法の展開で今は、いっときの猶予が出来た。
だが、光魔法による防御一辺倒の状況はやがて行き詰まるだろう。
それまでに…。
殿下は無表情で次々と命令を下すが、そんな様子が余計に気になる。
あの時、遂に自分の身分をコウに打ち明けると言い出したのに。
あのダメダメな馬鹿親の殿下が、ようやく決心したその時、あの伝令だ。
通り過ぎた時のコウの驚きの表情が目に焼き付いたままだ。
俺とて、殿下と同じ…。
考え込んでいた俺に、部下が近づいてきた。
何だ?
まさか、防御線が破られたのか?
「隊長!
味方です。レイバン殿始め皆様が援軍として駆けつけ、既に殿下と合流」
見れば、スタン殿始め城で見かけた頼もしい助っ人の姿に部下達から響めきが上がる!
助かる…レイバン殿の強さは最早人のソレではないから。
と、思ったのも束の間。
新種は、人間の闇影獣を更に増産し続ける。
攻撃命令は、まだ下ってない。
殿下は、まだ待つつもりだ。
ラクゥド殿の提案したモノを。
防御一辺倒は、こちらばかりに被害が出る。
人間の闇影獣は、傷など気にしないのだ。
例え、腕がもげても戦いをやめない。
最早、人間の顔をした兵器だ。
だが、戦う我々は普段見知った者達の変貌ぶりに、躊躇いばかりが生まれ…。
俺は殿下の元へ行く決意をした。
後方で待機する光魔法の使えない俺は、抜刀した姿で殿下の元へ。
振り返った殿下の顔に影がさす。
「ガイ…やるしかないのか?」
俺は頷いた。
俺がやろうと…。
辛い仕事なら、隊長である俺自身が先頭に立つしかない。
「闇影獣を殲滅せよ。
例え、それが人間の姿だとしても躊躇うな!」
殿下の顔から、表情は消えた。
俺は跪いて「命に代えて殲滅したします」と答えると
踵を返した。
前線への道を部下を連れて進みながら、伝令を飛ばした。
俺達が、着いたら光魔法の防御線を解くように。と。
ソレが何を意味するのか、仲間達が知らぬ訳はない。
目の前のみを見つめた俺は、誰とも目線を合わせる事なく進む。
そして、
光魔法の防御線が解けるのを待って一歩を踏み出そうと…え?
「ですから、新薬です!!
『麻酔玉』は、『防虫煙玉』の改良品で人間の闇影獣を気絶させます。
ラクゥド商会から大量に届きました!!」
伝令が歓喜の声共に駆け込んで来た。
コウ!!!!
俺はすぐさま刀を『麻酔玉』に持ち変えると、再び前線へ。
『麻酔玉』を敵に向かって投げつける。
すかさず、風魔法使いのバリーかその煙を行き渡らせる様に補助してくれる。
(コイツ…本当に使えるな…)
結果は…
なんと、一緒で数十人の単位で無力化したではないか!
いや、もっとか?
歓喜の声が後ろから聞こえてくる。
少し、ほんの少し希望が見えた!!
俺達のやり方を見た部下達とレイバン殿達は、次々と『麻酔玉』で敵を倒し始めた。
殿下が部隊を二つに分け、無力化した人間の闇影獣を回収するように命じる。
「目覚めれば再び襲うだろう。
安全に無力化してくれ」
一気に有利に運び始めた戦いは、気絶して人間の闇影獣が溢れる事のみが問題なだけとなる。
しかし、
安堵は長く続かなかった。
そして、そこからが本当の地獄だったのだ。
新種は、なんと本物の闇影獣に気絶した人間の闇影獣を襲わせ始めた。
倒れた人間の回収するのは困難を極め、安易に『麻酔玉』が使えない状況となる(『麻酔玉』は普通の闇影獣には効かない)
いり乱れる戦場は、いったい誰を攻撃すれば良いか分からない程、混乱を極めた。
隣にいる者が、遂に闇影獣となる危険まで。
仲間に、闇影獣への恐怖か募り攻撃の手が弱まる。
俺の頭をひとつの言葉が掠める。
全滅…。
その言葉が現実味を帯びたと覚悟を決めようとしたその時!!
俺は、目を疑った。
そこに現れたもの予想だにしないものだったからだ。
現実ならば、後の世まで語り継がれる物語となるもので(現実なのか…)
俺はその時見た光景を一生忘れる事はないだろう…。
「キヌル、シュワイヒ。
ただ今参上!!
これより、キヌル騎士団以下ラドフォード殿下のお味方いたす」
「ボルタ、メルセデス。
ただ今参上!
当方、無双騎士団以下ラドフォード殿下にお味方いたす!」
「ヨーゼスト、パナヤ。
ただ今参上しました。
ピピランテ並びに我が軍もお味方しましょう」
「テーレント、トラッデ。
ただ今参上!
レイバン殿の指揮下に入ります」
各方面から、現れた味方の軍勢のあまりの錚々たる様子に俺達も、そして闇影獣すらそのまま固まっていた。
全ての国が揃った。
夢のような光景に俺も固まっていると、後ろからスタン殿の独り言が聞こえてきた。
「ようやく来てくれた。
コウ親衛隊の仲間たちが…」
。。。。
。。。
俺は暫くそのまま絶句した。
そして、いま聞いた事を誰にも話さないと決めたのだ…。
さあ。怒涛の反撃の開始だ!!