ルスタフ視点ーラクゥド商会にてー
ールスタフ視点ー
このムルゼアで一番沢山の蔵を持つラクゥド商会。
その総本店は、有能な人間のみしか働けない事で有名だ。各分野での最先端の技術も情報も、ここにいて分からない事はない。
そう言われてた総本店で、総出の出迎えを受けるコウ。無論、ラクゥド殿が先頭にいた。
あ!コウ!!
「ラクゥドさん。ダメだよ。同じ名前だからってこんな場所に居たら怒られるよ!
オリドさんは、関係者と親しいらしいからいいけど。」
その小声…丸聞こえなんだけど…。
全員が固まっている横でオリド殿のみ大爆笑中で。
苦笑いのラクゥド殿は。
「緊急事態だから大丈夫だ。
一任されてるんだよ、これでも…」
まさかの誤魔化し??
あー、コウじゃ説明すると長くなるからな。
コウのヤツ、苦笑いして中へと向かったよ…。
はぁ。
周りのラクゥド商会の人の顔は、完全に馬鹿面でしたよ…。
でも、こんな雰囲気でもピリリとした緊張感は拭えない。
本当なのだろうか?
人間が闇影獣になるなんて…。
奥へと案内される我々の足は徐々に早まる。
焦りが足を前に前にと、急がせるからだ。
しかし、何故コウがココに呼ばれたのだろう?
もしや、この先は…。
俺がまだ貴族の犬として働いていた頃、聞いたことがあるぞ。
確か…ラクゥド商会の奥に秘中の秘と言われる場所があると。
そこへ潜り込んだ暗部で未だ戻って来たものは無いと。
あまりに無造作に案内されて忘れていた。
この人、ラクゥド殿だった。
この国のみならず、どの国の王も一目置いているという。
ガチャ。
改めてラクゥド殿を見ている内に、一つのドアが開いた。
中に入ったコウが喜びいっぱいに叫んでる。
「わぁお。
マジか。ココの施設すげーよ。
大学の実験室、顔負けのクオリティーとか。
おぉ!!
ココなら薬の精製するのに最高だね!」
なるほど…そう言う事か。
コウに、新種へ対抗出来る薬の開発を…。
「そうだ、
この設備はこの世界一だと自信がある。
コウ。防虫煙玉を改良して欲しい。
実は、アレを使ったら人間の闇影獣は単に弱っただけだったらしいのだ。
本物の闇影獣なら一発なのに、だ!
人間の闇影獣には少ししか効かないが、もし精製を強めたら…」
コウは珍しく考え込む風情でじっと黙っていた。
何か名案があるのかもしれない。
「麻酔成分を少しプラスしたら、もしかしたら気絶されられるかもしれない。
あの水なら…もしかして…」
マスイセイブン??
何の事か分からないが、あの表情のコウの時は少し違うんだ。
落ち着いた大人の雰囲気を醸し出す。
それは、頼もしく感じるが少し…少しコウを遠く感じる瞬間で苦手でもある。
コウは、ブツブツと独り言を繰り返し袋からテーブルに並べ始めた。
「何という量…。
しかも、貴重なものばかりとは…。
この袋で世界制圧が出来るぞ!!
あー。こんな時でなかったら…」
小声でぶつぶつ言うラクゥド殿の目つきが怖いから、一歩コウの側へと。
警戒心を募らせる俺にオリド殿が苦笑いで
「あー。これはほっておいて下さい。
商売になるモノを見つけると、ちょっと馬鹿になるので。
つける薬はありませんから」
オリド殿。
あくまでラクゥド殿へこの態度とは…。
「オリド。
そう言うならお前もだろ?
ムッツリスケベの無表情で、狙いを定めてだだろう?」
ラクゥド殿が悔しそうにやり返すも、相手にされず。この二人…似た者同士だな。
「出来た〜。
ふう。
ラクゥドさん。たぶんコレ『麻酔玉』を投げれば人間の闇影獣は気絶すると思う。
ただ…」
「ただ、なんだ?問題があるのか?」
ラクゥド殿ががぶり寄りでコウに詰め寄る。
「うーん。
問題と言うより、人間に戻す力はないから。
それを探さなきゃ…」
ラクゥド殿が絶句する。
俺もオリド殿すら、絶句したまま固まった。
戻すって?
そんな事が可能だと?
思う事すらしなかった俺達は、唖然としたままコウを見た。
掠れた声でラクゥド殿がやっと聞く。
「人間に戻すって…そんな事が可能なのか?
もしかして、作られるのか?」
「まぁ、絶対だとは約束出来ないけどちょっと当てはあるかな。
あ!自信がある訳じゃ…」
さすがのコウでも、場の雰囲気を感じたみたいだ。皆の期待の高さにちょっとビビってる。
「コウ。
可能性が少しでもあれば、それは今最大の希望なんだ。
俺の。
俺の知り合いも闇影獣になった。
出来たら…」
オリド殿も頷く。
暫く、俯いていたコウが何か決心した顔で皆を見つめた。
「俺、やってみる。
手伝って貰えるかな?ヨーゼストの図書館に行きたいんだ」
コウの言葉に、ラクゥド殿の目配せを受けたオリド殿がすかさず動く。
「最速の乗り物を用意する。
ラクゥド商会は、最大限の協力を惜しまない。
頼む…コウ。力を貸してくれ」
ん?
笑ってる?
なんでこの場面で??
「もう!!
最後にジョークとか最高だね、ラクゥドさん。
よそのお店の協力を約束したりして。
でも。
俺もやってみるから。
ラクゥドさんも、この商会の知り合いに頼んでくれよ!」
コウ……。
ここでそのセリフかぁ。
はぁ、やっぱコレがコウだな。
コウの作った『麻酔玉』は、袋に一旦戻して取り出す(袋の中では、モノが無限に増殖する)を繰り返し、早速最前線のラドフォード殿の元へ。
(風魔法が重要らしい…)
その効力を後から聞いた俺は、改めてコウの能力に背筋に寒いものが走った。
コレは人間技ではないと…。
そして、俺達はヨーゼストへと向かう。
もちろん、ラクゥド殿が同行した。
(オリド殿は留守番で怒ってた…アレさっきの復讐じゃ…)
しかし、移動手段はビックリするものだった…