マルス帝国、皇城へ
ーコウ視点ー
やな予感はしたんだ…。
「あー。やっぱり行くのやめる!」
俺は一言叫ぶと、一気に走り出し…たかった。
ラオ〜。
止めるなよ。
無理。
俺、無理だから家に帰してくれー!!
俺の向かう先に見えてきたのは…。
一つの街より更にデカイ城。
『マルス帝国、皇城』
その荘厳な城は、今まで見たどの城よりその巨大さでまずは人々を圧倒する。
威圧的な雰囲気を醸し出しているのは、城ばかりではない。
ぐるりと囲む城壁、そして正門。
なんとその門自体が、既に城。
マジか…。
その防御力は、この世界一番と言われるものだと、見た者誰もが納得するだろう。
(門だよ!城とかじゃないのに。)
そして、その門をくぐって、またドン引くハメになる。
何…この道の長さ。
万里の長城か!!
苦行の歩行大会を思い出すよ。
はぁ。帰りたい…。
しかし、景色は魅力的だった。
木々や草花が咲き乱れる並木道。
その向こうには、畑に作物が実るのが見える。
あっちの丘には果樹園かな?
ここだけで暫く生活出来る。
そんな風景に、ふと義父さんが言った事が頭をよぎる。
『コウ。この国の歴史は戦いの歴史なんだ。
だから、皇城の大きさはその象徴だ。
その歴史が作った城は、あらゆる対策が施されている。防御力は高い。
高いが…俺は、そんな城はあまり好きではないがな。まぁ、まだコウには難しかったか?』
戦いの歴史。
なるほど。そう考えると綺麗だった風景が別のものに変わる。
考え事をする俺の前方から馬車が走ってきた。
横に避ける俺の目の前で馬車は、止まった。
中から出てきた人にびびって、後ずさる俺をルスタフが手をついて前に押し出すし!!
ルスタフ!お前っ!
え?
迎え??
「いいから!考えても無駄だからとにかく乗ってくれ。このままじゃここで夜明かしになるから!」
ラオの悲痛な叫びに、皆んなが頷いてる?
むー。
そりゃ、キョロキョロし過ぎて前に進んでないし。逃亡を狙ってるし。
でもさ。
馬車とか。
あ!!
アレか?
バスみたいなヤツ!
アレ?疲れ切った表情のラオが
「ソウデス。ソノトオリ。」
なんだよ!
まあ、足も痛くなってきたからお邪魔します!
乗り込むと、馬車は城への道をひた走る。
俺が、ちょっとウトウトし始めたその時!
馬車は、優雅に止まった。
不味いぞ。
寝こけてた…ココはどこ?
ええーーー!!!
目の前の景色に、ドン引く。
マジで!ドン引く。
ズラーッと並んだ騎士がいる?
あ!!!
レイバン!!
向こうに立ってるのは確かにレイバン達で。
無事だった…良かった。本当に良かった。
俺の願いをいつも叶えてくれるレイバンでも、今回はお願いを言葉にする事は出来なかった。
だって、危険が段違いで頼むなんて…。
義父さんが心配だけど。
(俺に出来るのは、薬を作るくらいで)
レイバンは、いつも俺の気持ちを察してくれる。
『田中食堂』で出会った頃からずっとだ。
美味しいと、怪我したのに褒めてくれた。
俺にとって、初めてのお客様。
(義父さんは、家族だからね!まぁ、親バカの見本みたいなの人だし…)
ゼンさんとアーリアさんの姿も見える。
良かった。
ココにいるという事は…もしかして…
あの闇影獣の来襲を、新種を。
倒したのか…?
「コウ。
無事で良かった。色々持たせてくれたから助かったよ。
もちろん、ラドフォード殿もガイ殿も皆さん無事でお待ちかねだ。
行くぞ!」
ホッとした俺の目に、ゴミが!!
ありがとうと、お辞儀をした俺はそのまま城の中へ。
騎士さん達の目線がめっちゃ気になったけど、義父さん達の無事の方が嬉しくて。
必死に、レイバンの後を続く。
巨大なこの城で迷子だけは、避けたい。
俺…やりそうだ。
む!
ルスタフまで頷くなよ!!
そんな和やかな雰囲気があるのは、正直助かったからだ。
あの視線…。
不躾と、言うのだろう。
ジロジロ…と視線を受けるが気にしたら負けだ!と。
必死に、ルスタフ達とふざける。
まぁ。分かるけど…さ!
汚れた庶民が潜り込んでるんだ。
目立つよな。そりゃ…
そんな苦渋の時間も、やがて一つのドアの前で終わりを告げた。
「ここだよ。
ココにラドフォード殿がいるから…」
久しぶりの義父さん!!
ワクワクした俺が、その扉のノブに手を掛けようとしたその時!!
『伝令!!
緊急伝令!!
一大事です。至急皇帝陛下に御目通りを!!』
立ち尽くす俺の横から、傷だらけの伝令が部屋へ駆け込んで行く。
沢山の人が並ぶ中、一段高い人の元で伝令は跪いて。
「闇影獣多数現れました!!」
「そんな事は、緊急伝令では、ないわ!
ここを何処と心得ておる!!!」
周りにいたおじいさんが怒鳴る。
こ、こぇー。
「いえ。緊急伝令で間違いございません!!
新たに現れた闇影獣。
それが問題なのです。
なんと。
ムルゼアの民。
新種は、遂に人間を闇影獣にする事に成功!!
人間の、しかも無辜の民の闇影獣の姿に騎士団や、国境警備隊は為すすべもありません!」
ま、まさか…。
その場にいた者達、全員がおし黙る。
すると。
「とにかく、私達が参りましょう」
前方からそのセリフと共に出口へ来たのは…。
義父さん!?
ガイおじさんの姿も。
チラッとガイおじさんがこっちを見た?
じゃあ。本物?
義父さんは…いったい…。
「俺も行く。ルスタフ、後を頼むぞ!」
レイバン達が続いて駆け出す。
ラオも。バリーも。
皆が出口へ…。
じゃあ俺は?
こんな場所で一人なんて…嫌だ。
俺だって…
「コウ殿。
コウ殿は、こちらへお願いします。ラクゥド商会で頼み事があります。
この戦いの鍵となります。恐らく…」
オリドさん??
俺は、パニックの頭を抱えたままで、オリドさんについてその場を後にした。
だから涙脆いおじさんの姿が一番高い席にあった事も。
その人が、鋭い瞳で見ていた事も気づかないままだった…。