奇跡の大逆転!!
トントン。
「寝てます」
返事をした俺の肩を再び叩く。
トントン。
眠いのに…。
トントン。
はぁ。
仕方ない…。
渋々…諦めた俺が起き上がると、目の前に人がいたよ。貴方、誰?
何故俺のベットの側に子供の姿が?
慌てて周りを見ると、仲間たちはスヤスヤ寝てる。
僅かな気配ですぐ起きるレイバンも。
気配を読むことに、特に長けているスタンさんも。
だーれも起きない。
。。。
あ!
わかった。
コレ夢の中っていう、ベタなやつだな。
やっと状況を理解した俺は、元気よく寝床から起き上がる。
『一緒に来て!』
子供の声に、軽く頷くと外へと飛び出した。
緑が増えた大地の風景に、満足感いっぱいでいると…トントン。
またか。
しかも、足をトントンとか。
下を向いてひとつ気づいた。
大地のあちこちは、未だあちらこちらが、荒地のままで。
ん?
しゃがみ込んで、その荒地である場所をジッと見ていると…何だ…コレ?
点々と落ちている何かを見つけた。
お?粒々発見!!
コレ。たぶん…種だよな?
しかし、なんでこんなに渇ききってるんだろう。
この種。
そう思いながら辺りを見回せば、遠い所まで種は満遍なく発見出来た。
俺は手に取ると、ひとつため息を零した。
何故なら…この種はもう芽が出ないやつだからだ。
いや、どれもかもそうかもしれない。
ん?
なら何でこの子はここへ俺を連れてきたんだ?
何を頼もうと、とそこまで考えていたら声が聞こえてきた。
あの子だ。
『この種蒔いて。花を咲かせて』と。
いや、俺は花咲か爺さんじゃないし。
しかも、初めて話した言葉はソレなの?
種を見つめ、やはり無理だと断ろうと思って顔をあげたら…。
何故!!
何故なんだよ。
子供達の姿がわらわらと増えて。
おぉ。
俺の周りをぐるりと取り囲んでいる?
しかもだ!!
見れば沢山の子供達の手のひらには、あの種が!!
えーー。
皆んなで揃って俺へと差し出すとか。
その表情を覗き込んで、ちょっとゾワッとした。
虚ろな瞳。
細い腕。
それに、だいたい此奴ら誰なんだろと考えて、立ち止まる。
変だろう。どっから湧いて…
と、そこまで考えて、ちょっとゾッとした。
改めてそう思うと余計に嫌な想像が!!
まさか…
まさか。。本当のゆ、○○れい?
ひぃーー!!
震え上がる俺の目の前、見慣れた姿が。
太郎!!
お前…このタイミングで登場とか…。
ありがとう!!
地獄に仏とは、お前の事だよ。
『コウよ。此奴らの頼み聞いてやれぬか?』
真面目な太郎が首を垂れた。
太郎…まさかお前まで…。
『阿呆!!
生きてる者が、幽霊になるか!!
それより、もう時間がない。
月が出てる今だけ。
今だけなんだ!!』
必死な太郎に、俺も怖さを押し殺して真面目に頷く。
怖がってる場合じゃないのか…。
そう思い直して、今一度、手のひらの種を見つめなおす。
この涸れた種をどうやって…。
うーん。。
考え込む俺の目に、白い風船が見えた。
あれは…。
そう、変質した米。
そうだよ!!
あの米の汁が詰まってるっぽい風船…アレを割ってこの種にかければ?
うんうん!
自分の名案に頷きながら、白い米の風船を手に取ると種にかけようと、割る!!
。。。
いや。
割ろうと思った。
割ってます!!
もち…
俺の必死の!渾身の!!全力の力で!!!
結果…
割れません。
ため息をつく俺に、聞き慣れた声が。
『貸してみよ。我が割ろう』
太郎。
太郎が爪をかけた。
その時!
パシャン!!
すげーよ、太郎。簡単に割れたし!
歓喜してる暇はなかったよ!
割れた風船から、予測どおり汁が、出て…いません!!
出ないとか…マジか?
白い煙?
煙が詰まった白い風船って…もう既に米じゃないじゃん!いや、それどころか食品ですら無いし…。
なんだ…よ。。
がっくりしてる俺に太郎が急に大声を出す。
『これを!よく見ろ!!』
白い風船の畑は、見渡す限りの沢山実ってるんだが、それが今、畑中の白い風船が弾けて、その中身がふわふわ浮かび出したよ。
これ何?
もしかして、綿菓子とかか?
いや、違うな。
だって…
白いふわふわはやがて、上空へ登って行き集まると、なんと『雲の偽物』に変身!!
ぽつ。
ぽつぽつぽつ…。
おぉ?
まさかの雨??
(そこまでマネか?)
静かな雨は、子供達の手のひらの種をも濡らして。大地を潤して行く。
誰も口を開かない。
ただ、雨が当たる米が大地に落ちる度に、そこから木が突然生えた??
ええーー!!
大地に、次々と木が林立したし。
米って…木だった?
草じゃないのか??
すると…。
『ここで、生き延びるのはとても難しかった。
逃げたくても、封印で外へ出れず。
閉じ込められた。
生き延びれない。生き延びたい!!
相反する思いの中で、なんとか必死に生き延びたい俺達の前にあの米が現れた。
アレは、我々獣人には『命の米』
それでも困難は続いた…。
ある者は…毒に。
ある者は…栄養不足で。
そして最後は、獣人となった仲間を襲い、襲われて。
倒れた者達は、生き残った者達の数十倍いただろう。
それでも。
いつかは…。
待っていた。
ずっと…。
この大地の目覚めを。
ありがとうコウ…』
声のする方を振り返れば、そこにいたのは俺を起こしたあの子どもだ。
でも。
だいぶ姿が霞んでいるが…。
ぼんやりした姿になって、余計幽霊っぽいよ!
(足は震えますから!!)
でも。
俺には、分かる。
今は怖いより、彼等も向き合う時だと。
ずっと、この地を見守ってきた彼らと。
俺に、お辞儀をしては次々と、消えて行く子供達…。
「おはよ!もうソロソロ起きろよ!コウ!!」ルスタフの声に飛び起きた。
寝てのか…俺。
もう夢の中は、終わったのか?
周りの仲間たちを見れば誰もいない。
ハハハ…既に起きた後か。
さあ、俺もドアの向こうへ…と。
そこは。
変わらない風景だった。
やっぱり夢オチか。
『お前にはあの風景が見えぬのか?』
太郎?
お前も見たよな…夢?
首をクイッと曲げ、その先を見せようとする太郎!
なに?
あー本当だ!!
よく見ると、あの荒地だった部分から小さな芽が出てた。
その芽は沢山…。
本当に沢山あった…。
俺はにっこり笑って、ルスタフへ向き直ると昨日の夢の話をした。
そこにある…芽を指しながら。
そしたら…
「この芽は、きっと大きく育っていつか森になる。
この辺りも昔のように豊かな森にな。
昔、この辺りはテーレントでも最も豊かな森だったのだ。
だからこそ。
だからこそ。最初に捨てた者は僅かな望みを繋いでここへ来たのだろう」
レイバンの言葉にしっかり頷いた。
うん?
ちっさい鳥が煩いぞ?
あー。
夢の中で米の畑を荒らしたからか?
でも。アレは夢だし…。
ええーー!!
全ての実が、弾けてる?
やばいよ(冷や汗が!!不味いよ…現実だと思わなかったし…俺)
しゃがみ込んで米の白い風船のあった辺りを眺めてたら、草が鼻をくすぐって…。
ハ、ハ、ハクション!!
ん?
手に何か掴んだる感触が!!
あーー!!!
引っこ抜いちゃった!!
更にピーンチ!!
いよいよ、八つ裂きなの?
ちっさい鳥の集団に??
「コウ!これなんだ?」
びびってる俺にルスタフが指差した先は…、
あーー!!
根っこに何か実ってる??
じゃが芋っぽいけど…
へ?
ちっさい鳥がこの実に突進して来た!!
食べてる…。
「コウ殿。
それは恐らく米の一種かと。
しかも超高性能で、激ウマの…」
翻訳…レイバン!
奇跡の大逆転ーー!!
(棚からぼたもち)