向こう岸で…
ーコウ視点ー
『秋の国』の風景の美しさは、格別だ。
湖の向こうの山々には紅葉のグラデーション。
それを湖面に写し、風に水面が揺れる。
なのに…。
何でこんな事に??
俺たちは、無事向こう岸に辿り着いてホッとしたのもつかの間。
めっちゃ張り切るバリーが出口探しを始めて!
青い洞窟を通って、と。
記憶を辿っていたら…。
囲まれました!!
物凄く弱々しい一団にです!
まず。
ちっさい。
小学生低学年くらいの背しかない。
しかも。
身体は貧弱とか。
俺でも突き飛ばせば、コロンと行けそうな感じだし。
但し、ひとつだけおかしな風体なんだよ。
顔。
顔が無い。
いや、違うか。
顔に葉っぱのお面みたいなの付けてるんだ。
デッカいやつ。
目の穴は空いてるから、見えてると思うけど。
子供の悪戯か?
ワラワラとそんな葉っぱの悪ガキ達に囲まれて困ってるんだ。
いやぁ。
何を話しかけても。
避けて先へ行こうとしても。
ダメ。
無言で通せんぼ!な訳。
スタンさんとレイバンが話し合いをした結果。
え?
武器いる?
脅かし作戦らしい…。
悪ガキ相手で??
ブッブブ。
ブッブブ、ブッブブ。
俺が首をひねる間も無く、葉っぱの悪ガキ達から変な音がし出して。
やっと喋ったら、ふざけてるし。
おや?
音は段々と大きくなるな…あ!!
スタンさんとレイバンが突然、スイッチが切れたように倒れた?
慌ててルスタフの方を見れば。
お前もか…。
アレ?
バリーだけ大丈夫??
バリーは素早く3人の無事を確認。
「意識を失っているだけで、身体に問題はありません。」
落ち着いたバリーの声に、びっくり状態の俺はやっと立ち直る。
ふぅ。バリーだけでも無事で良かったよ。
その間も
ブッブブ。
ブッブブ、ブッブブ。
変な音は、どんどん大きくなって耳に煩いくらいで。
耳が痛いなぁと思ってた俺の目に。
コガモ軍団の姿が目に入った!!
あれ?
勝手にあちこちで、ご飯中じゃなかったのか?
地面ツツいてたのに。
や、やめろよ!
葉っぱの足元で何してるんだ?
あーー!
その紐なに?
お母さんに見せなさい!!
葉っぱの足元の紐をコガモ軍団が次々と引っ張ってたら、パタン。
ええ?
こっちも倒れたし。
不味いだろ。
お前たち何したんだ?
コガモを睨めど、どこ吹く風で。
お?コガモ①は得意げとか。
俺は駆け寄って、とにかく傷薬と気つけ薬をかけてやる。
いやね。
顔にくっついた葉っぱ取れないんだよ。
バリーが後ろから
「あ!!や、やめてください。その葉っぱ。
絶対取らないで!!」って叫ぶから。
足元に傷薬。
葉っぱに気つけ薬。
む?
葉っぱの色が?
不味いぞ。
か、枯れちゃうのか??
パリパリ…。
ちっさいけど、嫌な音がするんですけど!!
ブワッとその瞬間一陣の風が吹いて。
はぁ。
凄い風だったよ。
あ!
葉っぱ取れちゃったかな?
と。恐る恐る見ると…どなたです?
大人の葉っぱ登場でして。
全員が屈強な大人の葉っぱに。
しかも葉っぱの大きさが小型化して顔半分しか隠れてないし。
『お前。
右手を出せ!』
俺?
あー。違うの。
バリーか?
素直に出そうとするバリーを俺が焦って引き止める。
「ちょっと、バリー。
もう少し思慮深くなろうよ!」
バリーの苦笑いに誤魔化されてる間に。
バリーの腕に、葉っぱの奴らが触れた。
い、刺青??
葉っぱの手から蔓のようなものが伸びてバリーの腕に絡みついたと、思ったら。
皮膚と一体化をしたよ。
マジか?
「バリー!バリー!
痛かったら、傷薬をかけるから!!」
俺が慌てて傷薬を構えると…
『失礼な。
それは其奴の使う『武器』になる。
敵が突然現れても、其奴を守るだろう。
まあ…礼だ』
照れ臭そうな声をさせて、説明してボン!
消えました。
ぎゃーーー!
お化けだったの?
バリー。
言ってくれなきゃ。
慌てる俺の横でレイバン達が意識を取り戻したよ。
良かった。
何処も怪我とか無いみたいだ。
(だって…俺の手に持つ傷薬をやたら、遠慮してるから)
とか、やってたら。
あーー!!!
ピィピィ、ピィピィ!!
コガモ軍団よ。
勝手に一列に並んで何処行くんだよーー!
コガモ→俺→バリー→ルスタフ→スタンさん→レイバンで走ります!!
コガモを追いかけてるうちに…
いつの間にか『青の洞窟』到着!
お土産の『火石』を持って、ようやくボルタに到着したよ。
さぁて。
カエルのところへ行くか。
(まぁ…約束だから。な!)
ーバリー視点ー
あの時から。
人生初の希望を持ったあの時から様々な体験をした。
信じられない。
人間自体が嫌いな俺が。
何故もコウをこんなに大切に思うのか。
自分でもよく分からない。
ルスタフのヤツなど、馴染んでコウと常に共にいる。
他のメンバーも、穏やか顔をする事が増えた。
だが、俺は少し違う。
何かしっくりこない。
光魔法なんて言うギフトも貰ったが、どうしても違和感がある。
そう。
『役に立って無い』だ。
コウの周りには驚くべき能力や、立場の人間が多い。
その上、コウと深く関わっていく。
俺は…。
中途半端な自分自身に時折、ため息が出る。
そんな時だ。
国境の街で倒れたコウ。
真っ青なルスタフ。
改めて。
馬鹿な俺は気がついた。
もう。いつの間にか一員なんだと。
色々考えても、失うのは絶対嫌だとココロが勝手に騒ぐと。
そんな心境の変化があった時。
また、ひとつのチャンスが来た。
突然の魔力の向上。
だが、運命は面白いものでそれに留まらない。
危険を承知で『氷の橋』を掛けようとして、差し出された『枇杷の果実酒』を飲んだ途端!!
ぐぅーー。
胃の腑が焼けた。
いや、焼けたように感じた。
と、思ったら身体中が熱く燃え上がり立っていられない。
ようやく、痛みも焼けつく熱さも過ぎ去ると。
俺は、莫大な魔力を有していた。
コウ。
いったい何を作ったやら。
(アレ。劇薬じゃぁ…後で聞いたら薬酒と混ざって変化したらしい。奇跡のひと瓶だとか…)
氷の橋を渡って、現れたのは精霊。
恐らく草木の精霊だ。
(コウだけが、何故か悪ガキとか…何時もながら危機感が…)
だが、変質している。
危ういものを感じたのだろう。
レイバン殿とスタン殿が武器を構えたその時、彼らの攻撃が。
俺以外全員が倒れた様子を見て、先程の魔力向上の効果かと考え事をしていたら。
ほろほろ鳥の幼鳥が彼らを倒していた。
良かった…。
あ!コウ!!
いつの間にか、ほろほろ鳥の幼鳥が倒した精霊に、薬をかけているし。
や、やめてくれ。
精霊の葉っぱを取ろうとしないでくれ!
消滅してしまう!!
結果的に。
彼らの変質は、コウの薬で完治した。
そのお陰で。
最後にお礼に武器を…俺にくれた。
俺が感激して手を差し伸べていたら、ぶちぶちとコウが文句を言っている。
まさかの『思慮深く』とは…。
しかし。
何とも凄い武器だ。
消えてゆく精霊に向かって。
俺はココロの中で約束をする。
必ず、コウを守ると。
貴方達の思いを生かしますと思いを込めて。
手を胸に当てて頭を下げた…。