点々の魚を追いかけて?
ーコウ視点ー
やっぱり圧巻の景色だな。
一面の甕。
大小様々な甕が並ぶ風景は、ちょっと楽しい。
爺さんは、何だかラクさんと話し中だし。
青い魚は、いないし。
(爺さん曰く『帰ったよ』と…何処へ??)
蓋を開けたい衝動に駆られるなぁ。この場所ってさ。
つい、手が伸びそうになる衝動を押さえて甕を眺めていたら青い魚のヤツがいたぞ。
「おい。待てよ。
久しぶりじゃないか!
お前のおかげでめっちゃ美味い酒を手に入れて礼を言おうと…」
あーー!
何でだ?
逃げてくし。
天邪鬼なのかなぁ。
逃げられると、追いたくなるんだよな。
甕の沢山ある場所での、追っかけっこは中々楽しい。夢中で追い回してるうちに、ある事に気づいたよ。
アレ。
青じゃないような…。
緑に青の点々があるみたいだな。
人?違いか?
ま、不味いなぁ。
「おーい。
ごめんよーー!
人違い。いや魚違いをしてさ。
追いかけ回してごめん」
俺が頭を下げて謝っていたら、向こうも逃げるのをやめて立ち止まった。
ジッと見つめ合っていたら。
ぽちゃん…
水もないのに、水音を立てて点々の魚は消えていた。
俺が消えた場所に近づくと、魚のいた場所には小さな水溜りがある。
それ自体は別に驚く事でもないが。
問題は…
臭い。
何故?
こんな腐臭のような臭いが?
魚…大丈夫だろうか。
追い回した申し訳なさと、魚の佇む様子の儚さに胸騒ぎがした。
もしかして『泉』に異変が?
『ムーラ』は、精霊を失ってだいぶ経つ。
その間に何かあったのかな。
胸騒ぎはより強いものになる。
早く。
急がなきゃ。
ポンポン。
ひぃ!
誰が俺の肩を叩いた??
な、なに?
レイバンか。
「コウ。何かあったのか?
こんな場所に来て」
こんな場所?
あれ?
いつの間にか甕の並んでる場所ではなく、小さな林の近くにいた。
遠くに大きな木が見える所を見ると、かなり追いかけて来たみたいだな。
「レイバン。よく気がついたな。
俺も知らずにここにいたよ」
レイバンが真面目な顔で
「ああ。目くらましが彼方此方に掛かってる場所だからな。『ムーラ』は我々の領域の国ではない。精霊の国に人が共に住む場所だからな」
えー?
そうなの?
ラクさんって。
あんなに煩悩の塊なのに精霊の親戚?
「とにかく、戻るぞ!」
レイバンに促されるが。
この林。
物凄く小さな林が気になる。
木々がポツポツとあるが、小径も見えて何も変なところは無い。
でも、どうしてもこの先に行きたい。
俺がそう言うと、レイバンの手のひらから一羽の鳥が飛び立った?!
「気にするな。
皆を呼んだのだ。これ以上の単独行動は皆の負担がな。
行くならば皆でな。」
頷く俺の前に、すぐさまスタンさんが!!
早!
どうやら、俺の気配を常に探しているんだとか。
く、苦労をおかけします!!
間もなく全員が集合してレイバンから林の中へ行く旨が告げられた。
「こんな場所…あったのか?」
小声なラクさんの呟きは張り切る俺の耳には届かない。
小さな林だ。
数十分すれば一周出来る。
全員がそう思った。
だが。
行けども行けども道に終わりがない。
「おい。戻ってみよう。そうすればハッキリする」ルスタフの言葉に戻ろうとしたら…。
林が。
林の様子が変わった!!
光溢れる木立が、急に大木になり光の射さない暗い森が出来上がる。
俺は周りを見渡した、その時!
臭!
この臭いは…。
俺は森の道なき道へ突き進んだ。
葉や枝が俺の顔や手に傷を作るが、気にする間もなく。
臭いのする方へと。
進むにつれて、臭いが強まる。
澱む臭いに全員が気づいた頃、やっと木々の切れ間が!!
あった。
それは『泉』
いや。元『泉』か。
ヘドロのようなものが浮かんだ泉の側には…新種!!
『遂にここまで来たか。
お前のおかげで『ムーラ』まで復活したわ!
だが、ここまでよ。
ここで我の傷も癒えたわ。
さて。お前などにもう遅れを取らぬ!!』
この間会った時からは、一回り大きな身体になった新種は敵意剥き出しでレイバンを睨んでいる。
レイバンの額には汗が。
どうして?不思議に思うとアーリアさんが
「ここは澱みが酷いのでレイバン殿に不利なのです。精霊に近い者達はこの場所では生きていられないでしょう」
え?
じゃあ…レイバンは?
「大丈夫。彼は精霊ではありませんから。
でも、このままでは戦う事は出来ないかもしれません」
そう言うとアーリアさんが俺の前に。
「アーリア様。お下がりください。
ここは、我らが」
前にラオやスタンさんが構えていた。
俺の目の前にはルスタフが。
いつもの顔じゃない。
真剣なルスタフにかける言葉が見つからない。
ここでは役立たずの俺だから。
レイバンはその場にしゃがみ込んでいる。
俺の他にまだ、足手まといが増えた?
緊張感が高まり戦いが始まろうとするその時!!
ぽちゃん!!
水音が!
青い魚か?
いや。さっきの点々の魚だな。
『ふん!
ここに来ても、まだ抗うか。
いいだろう。ここは引こう。
命拾いをしたな!』
新種はそう言い残して姿を消した。
レイバンが肩で息をしている。
ちょっと顔色が良くなったか?
でも、魚は…動かないままで。
ラクさんが近寄るが。
首を横に振る。
え?
点々の魚?
あんなに追いかけっこしてたのに。
俺が近寄ると魚は確かにピクリともしない。
俺は意を決した。
ファ、ファ、ファーストキスを捧げる?決意をしたのだ!!
そうさ。人工呼吸は人助けの原点!!
魚の口に息を吹き込むぞ……!!
フーフーフーフー!
。。。
ぷっはー!!
息苦し!!
もう一度。フーフー!!
あんまり効き目が無いのか…。
そ、そうだ!
『気つけ薬』を口移しで。
(確かアニメでそんなシーンを見たような?)
ん?
あーー!とか聞こえた気がするけど?
あ!
魚がピクピクし出したぞ!
もう少し…と思ったら…。
バシャバシャ!!!
大きな水音がして、魚が突然暴れ出して俺の手の中から飛び出した。
ま、待てーー!!何処行くんだよ!!
あ!やべ。
零しちゃったぞ…「気つけ薬」
と、思ったその瞬間!!
目の前に美しい『泉』が出現した?
ええーーー!!
まさかのあのヘドロの泉なのか?
もしかして…この泉は『ムーラ』の?
「あぁ。これぞ我ら『ムーラ』の母なる『泉』。
この透き通る水は間違いない…。
なんと。
懐かしい…懐かしい風景」
呻くようなラクさんの声に胸が熱くなる。
やっぱり、この『泉』が探していたものか。
あの魚は?
泉に帰ったのかなぁ?
「あはは・あはは・あはは!!」
??
何?
このシーンに大笑い?
誰だよ?
皆んなを見ても、全員が首を横に振ったよ?
もちろん、俺でもないし。
えーー?
怖いよ。誰?
怒らないから言って!!
困った俺が『泉』をジッと見たら、点々の魚が泉の中から顔を出した。
良かった…。
無事だったか。
(俺のファーストキスは無駄にならなかったな。
出来れば…び、美人と…。)
『感謝する。
この泉は新種に汚され、我も消えゆく運命と諦めておった。
ザザに勧められお前さんに会いに行ったのだ。
。。。は、
誠であったな。ザザに感謝だ。」
良かった!
でもさ、途中があんまり聞こえなかったけど。
「あはは・あはは・あはは」
あ!まただ!!
誰だよ!!
『ふふ。
あれはふるふる鳥だ。
あの笑い声こそ、鳴き声。
そうだ。
お前達の探している『笑み卵』はこの鳥の卵だぞ!』
『ふるふる鳥』??
『笑み卵』??
もしかして…。
驚く俺の耳に、またもや笑い声がしたよ…。
この鳥の鳴き声…、
ちょっと疲れても仕方ないよな。
俺。。