レイバン視点
眼下に広がる風景に、胸が熱くなる。
山々から流れる川は、満々たる水を湛えて大地を潤す。森はあちらこちらで大きく広がりそこには沢山の生き物の姿が見える。
これがテーレントか。
本当に、荒野ばかりの我が故郷テーレントなのだろうか。
上空から、コウ達一行がボルタへ向かう姿を見つけて、こっそりと追いかけた。
狐に会うと言うコウらしい一言にクスリと笑った。
本当に久しぶりに…。
約束を守る。
それを当たり前の事だと言うコウだから。
俺とて必ず約束を守ろう。
いち早く、テーレントの混乱を鎮めて今一度ギルドのレイバンとなり彼の元へ。
約束を果たすために…。
これも、太古の姿を取り戻したお陰だろうか。
精神を統一すれば、コウの様子が僅かに分かるとは。
アーリア様の言葉を借りれば、それだけ精霊に近い存在が獣人だったと。
だからこそ、今までテーレントは許されなかったのだと。
力の使い方を伝授してくれるこの方がいなかったら、どれほど時間がかかっただろう。
アーリア様のお陰でようやくコウの元へいける身になった。
(物凄くスパルタではあったが…)
コウは、ボルタからキヌルへ。
そして、ヨーゼストへとそれこそ旅を続けていた。
五大食材探しと推定するが、中々の困難続きだったようだ。気配から必死のコウが伝わってくる。
やがて『田中食堂』へ戻りホッとしたのも束の間。
なんと『ムーラ』への道を開いたと聞いて驚いた。
それを共に聞いたアーリア様は真っ青になり、急ぎコウを追うように迫って来た。
何故?
「コウは知らないでしょうが、あの土地は特別な場所。精霊が息づく場所なのよ。
コウの身に危険が迫るわ!」
精霊は、間違いなくコウの味方。
それが何故危ないのだろうか?
「ええ。コウの力が増加するとなると必ずや新種が妨害するでしょう。
ヤツなら、コウを狙うわ!」
新種…。
それは不味いだろう。
コウは、これまでの行動で新種にかなりの恨みをかっている。
。。。
俺は立ち上がると、トラッデの仲間に告げた。
「時は来た」と。
仲間達は、心からコウに感謝している。
それは、トラッデの長たる俺への忠誠心を超えるほどに。
だから、全員に見送られコウの元へと向かう事になった。
「コウを頼みます!」
頭を下げて見送る気持ちに押されながら、『ルーゼン』へ。
近くにつれて、事態は最悪の展開になっていると思った。
闇影獣が、『ルーゼン』への全ての道に大量に居たからだ。
八方から集まるその数。
マトモじゃない。
これは…。
新種の本気が見た。
俺は、最大級に羽に無理をかけて急いだ。
ジワリとコウの焦りが強く感じるようになると、夜どうし飛び続けてやっと『ルーゼン』へ。
は!!
血の匂いがする。
コウ!!!!!
扉を蹴破って入った部屋には、コウが新種に掴まれ血を流す姿だった。
その途端。
俺の中の殺気が高まる。
妙に頭の中が冷え切ったままで。
その殺気にビビる新種の一瞬の隙をついてコウ救出!
血の匂いが濃い。
アーリア様に教わった治癒をするしかない。
身体の中の気を練り、体外へ放出しコウを包み込む。染み込むように気のレベルを徐々に上げて行く。
上空高く飛びながら、眼下の闇影獣を殲滅しつつアーリア様のスパルタが思い出される。
『まだ甘い!!
身体の気は、単に出しても無駄!!
いい?
貴方の治癒を受けるのは、恐らくコウ。
彼の膨大な気を補充するこの治癒方法は貴方の命に関わる方法なの。
ぼやぼやしてたら、誰も助からないわよ!!』
背中のコウの暖かさが徐々に回復してきている。
そこでようやく、高めていた気を緩める。
地上へ向かうのも、死力を尽くしたので気が不足してフラフラした。
だが、約束を守る。
コウと同じく。
元気になったコウは、相変わらずだった。
水の精霊から貰った秘薬で医療院を訪れ、欠損した身体の冒険者を次々と治して回る。
笑顔満面で。
驚きと歓喜が溢れた医療院の雰囲気をまるで無視したコウが。
「ヘビハンパネェー」
と、分けの分からない事をいつものように呟いていた。
彼らにとって、それが何を意味するか彼は知っているのか。
冒険者としての死を告げられた彼らが、今!!
生き返った。
と、言うことを。
キョトンとしたコウは、ヘビヘビと繰り返していた。隣のアーリア様の笑顔が見た事のない柔らかなもので。
スパルタに密かに感謝しながら。
俺も共に笑った。
彼らと同じく感謝をしつつ…。
さて。
『ムーラ』へ俺も同行しよう。
護衛として。
(それにしても、コウの料理は凄い。
身体から失われた気が一瞬で満たされるとは…)