帰ってきた!
ー長の部屋で。フィオン視点ー
「と、言う訳だ。お前達の考えを聞こう。」
相棒であり幼子なら必ず泣かれる伝説の強面でもあるハリソン。
だが、その実は思慮深く穏やか気質。
その彼の答えはやはり慎重なものだった。
「私は正直不安です。
夢枕の主様。
これだけの展開が今起こる事態です。
間違いなく本物かと。
しかし、それと全てを主様に従うと言うのはまた、別の話。
私だけだはなく村人全員の命運が掛かる話。踏み切れない。
それが結論です。」
静かに聞いていた長は、次は俺に尋ねた。
「ふむ。してフィオンの考えを聞こう。」
根が単純な俺でも、即答はちと辛い。
なぜなら後戻りは出来ぬからだ。
「『カレー』いや、それだけではありません。
コウ殿の作る料理が無くば今頃は何人も犠牲になったでしょう。
それほど村の状態は悪かった。
栄養不良・魔力の暴発。既に大勢の犠牲者が出ております。
。。。
行きましょう。もう、我らに猶予はないかと。
コウ殿達に掛けてみましょう。」
噛み締めるような沈黙が流れて長が口を開く。
「では『脱出』を選ぶとする。
急ぎ村人へ伝達せよ。」
俺達は慌てて駆け出した。
次のステージは既に始まったのだ。と。
ー残された二人。ナット視点ー
「消えてしまった。」
あまりの事態に呆然とするウェスを見ながら、こ奴でも表情を変えるのかと驚いた。
鉄仮面とはヤツの事だと思っていたから。
残された私は今までを振り返った。
あの日。
父上や兄上達のなさりように歯痒さを感じて己がこの国の問題を解決できると信じ城を飛び出した。
もちろん現実は甘くはなかったが。。。
父上から城でも最高峰の隠密兼騎士であるウェスをつけられ、している事はコウ殿の料理を食べるだけ。
それだけの価値もないと、数ヶ月でやっと気づくが私にも意地もある。
そんな折、思いもかけないチャンスが来たのだ。
キヌルへ向かうコウ殿の一行の情報!だ。
なんとか合流に成功!
しかし。。
それからはひたすらに驚きの連続。
麓の村でのコウ殿の『清らかな水』作り!
闇影獣の襲撃!
主様の出現!
ナナルの真山への入山。
そして置いてけぼりの現在。
それにしても何一つ変わらないのは、私の実力だけだ。
次々と工夫を重ねるコウ殿とそして命懸け3人。
あまりにも違い過ぎる。
「コウ殿達が戻られたら、私は皇女に戻り正直にコウ殿へお縋りします。
それが私に出来る唯一の道。
もう少し力を貸して下さい。」
ウェスに頭を下げる。
漸く決心がついたのだ。
私の実力に見合った努力の先を進む決心が。
ウェスが騎士の礼をもって応えてくれた。
ホッとしたのも束の間!
「あー、いたいた。良かった。
置いてけぼりにしてごめん。」
何もない空間から突如現れたコウ殿!
いや。。。
謝るコウ殿の後ろに慌てるレイバン殿達と何やら大量の人の影が。。。
何処から来たの?
ーレイバン視点ー
昨夜。
主様に言われたのは二つ。
一つは出口を作れとのご命令。
これはコウの持っている主様の山の木の実に『厖』の気を当てると言うもの。
そして、もうひとつは意外なもの。
『先日コウを通してお主を助けた折、気が満ちたであろう。
あれは特別な事。
そうよ。お主は『満』の使い手となったのだ。
但し、これを使用するには重要な条件がある。
一つは。。。
使い手の体力が半分以下に下がる危機的事態である事。
もうひとつは。。
コウが側にいる事。
二つの条件が満たされれば『満』を放てる。
良いか!心して使え。』
二つの目の『満』については改めて考える事にしてとにかく長であるナディム様の部屋へ向かう。
村全体の退去となると了承は難しいと予測出来るし、村人全体の退去準備には更に時間がかかると予測したからだ。
ところが。。。
ナディム様は既に主様より夢枕にて指示を得て行動しており既に準備は完了していた。
改めてナディム様始めこの村の能力の高さを感じる。
ラオに声を掛けてコウを探していると、草原に行ったと村人に教えてもらった。
慌てて長に声を掛けて、村人全員と後を追う。
やな予感がするからだ。
草原の真ん中でコウが誰かを探すようにキョロキョロしながら、大声で叫んでいた。
「おーい、
ナット少年!
ウェス!
何処だーー!!」と。
あっ!
またか。やられた!!
「走れ!!」と俺は叫びながら走り出す。
コウが草原の真ん中でナナルの真山への空間を繋げたではないか!
不味いぞ。
置いてけぼりは、俺達にも死活問題だ。
怒涛の勢いで後に続く一行。
『我の力で暫し開いておく。その間に急げ!』
主様の後押しもあり、我らは誰一人欠ける者無く帰り着いた。
ナットとウェスに呑気に謝るコウを尻目に、疲れ切った一行と、目が点の二人が立ち尽くしていた。
またしても、コウを甘く見た俺の失敗だ。
ちょっと本気でビビった。