国境の街『ルーゼン』
ーコウ視点ー
見上げる門は懐かしさを感じる。
国境の街『ルーゼン』だぁ。
キヌルとボルタの国境にあるこの街へ再び戻った理由は、ラクゥドさんの一言にある。
あ!
その前に面白い事があったんだ。
あれは、甕のところから戻ってすぐの事。
元気になったトックスさんが、俺の前に来て突然、土下座ですよ。
マジか?
何で?
「申し訳ない。自分の名を偽ってしまったのだ。
本当の名前は『ラクゥド』と言う商人だ」
ぷっはー!
は!しまった。
うっかり笑ってしまったよ。
でも、何もラクゥド商会に憧れて同名に改名までするなんて。
「いや。本当だから!!」
焦るラクゥドさん?を見てたら、また笑いが。
いや、だってさ。
大商人だとあのあの有名なラクゥドさんがさ。
青い魚に操られたりしないだろ?普通。
それに、無精髭。
清潔な感じは商売人の基本じゃん。
あ!不味いぞ。
真実は時に人を追い込むからな。
ラクゥドさんは、肩を落としてるよ。
(まぁ、その横でオリドさんが大爆笑してるけどね…)
そのラクゥドさん。
大発見をしてくれたんだ。
五大食材の本から次の食材のヒントを見つけてくれたんだよ!!
それが
『ムーラの泉』にあるみたいだと。
『ムーラ』と言う国には、そりゃ有名な泉があるんだとか。
その泉の近くにあるかも。
まぁ、行くっきゃないでしょ!
そこで『田中食堂』を一番弟子に任せてちょっと出掛ける事にしたんだ。
(二番弟子は居ないけど…)
ラオがどうしても行くって言うから。
ラオと、スタンさん。
ゼンさんは、ヨーゼストへ船ごと戻ったから今回は居ないんだ。
そして、ラクゥドさん。
バリーと、ルスタフ。
馬に乗って、一気に駆け抜ける荒技もこのメンバーなら可能でさ!
まあ、俺を除いてだけど。ハハ…(スタンさんに抱えられて。だけど……。)
あっという間に着いたのがこの『ルーゼン』なんだよ。
懐かしいなぁ。
宿屋はやっぱり『ロンゼイ』に決まりだな!
門番は、和かに笑って
「自由にお通り下さい」って!!
スゲー!
領主様が変われば、こんなにも変わるんだな。
小声でスタンさん曰く
「門番とは、闇影獣から街を守るのが本来の役目なのです。その意味で居るだけですから」
な、なるほど。
じゃあ、前のは論外な訳か。
そんな事を言いながら、歩いていると『ロンゼイ』のあった場所は、違う宿屋になってた。
物凄く立派な建物になってて、前のは二階建てのオンボロだったのに。
4階建の建物は、華美ではなく本物の美しさがあるよ。
横幅もかなり長く伸びて、部屋数が多いのが分かる。
でも。俺は違う宿屋に行くよ。
だってさ。
『ロンゼイ』の親父が必ずまた来てくれって言ったからな。
俺も約束したんだ。だから…
「コウ、コウーーー!
こっち見ろや。お前は何処を見てるんだ?
看板だよ。ほら!」
『コウの宿屋ー元ロンゼイー』
な、なにーー!!
俺の俺の名前じゃん!!
「おお。これはコウ殿!!
なんと、なんと嬉しいことでしょう!!
みんなぁー!
コウ殿だよ!コウ殿が見えたぞーー!!」
宿屋の中からワラワラと出てきたのは。
あの時『ロンゼイ』にいた冒険者とか商人なんじゃあ…。
「そうです。覚えていてくれたんですね!!
俺達は、ギルドに所属してた冒険者の端くれでして。
でも、『ロンゼイ』の親父がコウ殿直伝の『石狩鍋』を習得したと聞いて。
ここに勤めようと決めました!」
「まぁ。立ち話もこれくらいにして中へ案内させて下さい」
久しぶりの再会にウキウキしてた俺は、この後ビビりまくる事になる。
それは…。
「この部屋は無理だよ。だって。
スイートルームだよね、コレ!」
「スイートルーム??」
「あー。俺たちは普通の部屋で大丈夫だから。
空いてないのかなぁ?」
不安げな俺の顔を見て、親父が笑い出したし!
なに?
顔に何かついてる?
変な事言ってないし。
「あのな。コウ。
看板にお前の名前があると言う事は、この宿屋は…」ラオが珍しく言いにくそうだな。
「おぉ、その通りです!!
コウ殿の宿屋なのですから、当然タダです。
ダメです!それじゃ俺が頑張った甲斐がないじゃないですか!」
ま、マジか。
このゴージャスな部屋に泊まれるのか?
とにかく、親父の熱意が凄すぎて反論する間もなくてさ。泊まる事になりました。
(人間…諦めが肝心だな)
その夜は、甕のお酒を振る舞った。
あの甕のお酒は、いくら汲んでも中身が減らない。魔法の甕だったよ。
『今夜の客は、ラッキーだ!!』と親父が叫び続けてたし!
楽しい夜はそこまでだった。
翌朝、門番が何故か宿屋に飛び込んで来たから。
「た、大変です!!
闇影獣が。闇影獣が現れました。
そ、それも大量にです!!」
街の前に並んだ闇影獣。
埋め尽くす勢いの数は、間違いなく人間よりずっと多い。
戦いなんて、俺は全くの素人で役立たず。
「このままじゃ。ちょっと不味いな」
ラオの久しぶりのマジ顔に、事の重大さを感じた。
宿屋の親父も元冒険者達も、スタンさん達も。
全員が武器を構えて最前列にいた。
役立たずの俺だけ、後方待機だ。
新種がいた気がしたけど…。