甕、甕、甕!!
ーコウ視点ー
ブハッ!!
はぁ。
ちょっと、川の端っこが見えたから!
危ないなぁ。
で、
ここはどこでしょう?
目の前に広がるのは、一面の甕たち??
なんで??
大小様々な甕が、ずらっーと並んでる景色は前世のコマーシャルで見た風景にちょっと似てた。
でも。誰もいない?
いや。責任者出てこい!
何だよ。青い魚は?
甕の中には、行けない訳なのか?
「いや、先ほどから足元にいますから。
さあ、早く行きますよ!
ほら、後ろの人も付いてきて下さい。グズグズしてると置いてきますよ!!」
な、何??
足元を見れば、青い魚がピコピコ跳ねてる?
は!
それより後ろって。
「俺ですよ。まあ、何故だか巻き込まれました。
また…」
暗っ!!
ルスタフ。
なんちゅー暗さを醸し出してるんだよ!
とにかく、俺とルスタフは陽気にピコピコ跳ねてる青い魚の後を追った。
この魚。
とにかく、マイペースだな。
この甕だらけの場所に居たって、どうしようもないから良いけどさ。
青い魚は、器用に甕の間をすり抜けながら進んで行く。トックスさんの言葉から急いでいるのは俺も感じたけどさ。
しかし。グングン行くなぁ。
しかし、甕たちよ。
美味い物が入ってそうだなぁ。
ちょっと欲しいなぁ。
甕って…前世では調味料や漬物を入れたりお酒を入れてた。甕で発酵をさせると…てさ。
歩き回っても甕のない場所には出ない。
つ、疲れたよ。
やがて足がパンパンになり始めた時!
目の前に巨大な木が見えてきた。
まだ遠いのにこんなに大きく見えるという事は?
まだ、歩くのか…はぁ。
あれから数時間。
足は怠いし、甕も段々と少なくなる。
でも大きな木にかなり近いたようだ。
それは間違いない。
かなりの大きさの木の下に、ひとつ甕が見えた!
やっと着いたか…。
あ!甕の上に誰かいる?
『よく来たなコウよ。
ザザが迷惑をかけた。ワシを心配しての事なのだ。出来れば許してやって欲しい』
甕の上に座ってる爺さんが俺にそう言って頭を下げた。
和かな顔は皺だらけで、頭はツルツル。
「私は、コウ殿の護衛のルスタフと言います。
失礼ですが貴方はどなたでしょうか?
そして、ココは…」
爺さんを見たまま、無言の俺に変わってルスタフが聞いてくれた。
何となく爺さんにから目を離さずにいたんだよ。
俺…。
何処かで…?
「そうか。
かなり無茶したな、ザザよ。
ココはな。ちょっと特別なこと所でな。
だが、そうさな。お前さん達の言う所のムーラだよ」
「ム、ムーラ!!!」
ルスタフどしたの?
『ムーラ』と言う言葉で固まって。
『ムーラ』って何?どこの国なんだ?
「そうか。お前さんは知らんのか。
ムーラは、キヌルとボルタの境にある国だ。
まあ、言うなら『国だった』が正しいか。
詳しい事はそこのルスタフ君に聞くがいい。儂らには人間同士の事はあまり分からん」
えーと。ツッコミどころ満載なんですけどー!
『ムーラ』って存在しない国なの?
滅んだとか?
意を決した顔のルスタフが振り向いた。
「俺も正確に分かっていません。
ただ、今から20年前に『ムーラ』はこの世界から消え、人々はその国の名を口にしなくなりました。争いがあったとは聞きません。
そもそも、『ムーラ』は特別な国で失われたモノが残されていると聞いています。
それくらいしか‥」
うーん。全く分からん。
結局、急に消えたんだな?
そのムーラに今なんでいるんだ?
あ!それよりこの爺さんは一人ムーラに残った村人か?
「ふはは。そうか。
コウよ。ワシはな。この甕と共に在るものだよ。
しかし、最後にお前さんに会えて楽しかったよ。
噂は本当だったの」
「その様な事を言わないで下さい!!
この人間を連れて来たのは、助ける為です。
諦めたらそこで終わりだと教えてくれた貴方が!!」
おぉ。今まで静かだった青い魚のヤツ。急に叫び出したし。
でも、最後とかは聞き捨てならないな。
「お願いです。この甕を!この甕を直してください!!」
へ?
甕?
爺さんじゃなくて?
せっかく『気つけ薬』を出そうとしたのに。
(『気つけ薬』の瓶を見る度に青くなるな。ルスタフ…なんでだ?。。。苦い薬とかダメなんだな…ふふふ。子供みたいだ)
しかし、甕って。
爺さんの具合が悪いんじゃないのか?
あー、分かった。
子供の様に愛してるってヤツだ。
前世でも、大切そうに仕事道具を『命の次に大切だ』って言ってる人見たし。
アレだな。
近づいて、よくよーく見れば。
コレか?
もしかして、このちょー小さなヒビ?
「あのですね!甕に取ってヒビは一大事なのですよ。中身が失われるのですから!!」
青い魚が、また熱くなってる。
まあ、でも理解出来るよ。確かに中身が漏れたら不味いよな。
俺だって、もし味噌とか漬けてるのがダメになったら…あーー!
ダメ。
絶対許せないよ。
よし!
こんなト・キ・ハ!
「ルスタフ〜!継ぎをお願いします〜」
ルスタフ。何で青い魚と戯れてる?
ん?
「分かりましたよ。出来るか自信ないですけどやります」
声ちっさ。
聞こえないし。
「で、コウ殿。ツギとは?
あ!絵でなく言葉で…はぁ。分かりました。
では、両方で!!お願いします」
継ぎこそ、絵じゃなきゃ分からないだろ!
もう、ルスタフめ。
俺だって、よく知らないんだから。
え?
陶器の説明から始めた。
何かこの世界とはちょっと違うから。
土の選定。粘土の捏ね方。
見よう見まねとはこの事で。
金継ぎとか高級なイメージがあるよな。
でも、この世界では金は安い。
(まあ、どこにでもある普通のものだから)
窯作りからだと大変と思えば。
窯作りしなくても、魔法でやれると。
チートだ!!
魔法…俺だって本当は使いたいよ!
と、ルスタフが動き出したから俺も別の用事をしなきゃ。
え?
そりゃ、この甕だよ。
美味しいもの探すしょ!!
青い魚も居ないし。
その隙に…と。
沢山の甕が並んでる場所に戻って、ちょっとびっくりした。
だって。
甕が!
みんな同じに変化した??
「ふふふ。
この中にひとつだけ違う甕がある。見つけられたらソレをやろう。
但し、蓋を開けてはダメだ。
どうだ。やってみるか?」
いつの間に!!
爺さんは忍びか?
全く気配なく真後ろとか。
ホラーだから!!
断固抗議してる俺を他所にそんな魅力的な提案をしてくるとは。
爺さん…やるな。
俺は改めて頷いて「受けて立たねば男が廃る!」
と決めた。
え?爺さん??
もう、居ないし。
そこで俺は違う甕探しを始めた。
よーく見て。
でもさ。
数百とあるこの甕、甕、甕だよ。
しかも、斑らに土の模様っぽいのがあって。
分かりにくーいなぁ。
で、結果?
そりゃ。
飽き…いや、違うよ!
単に休みも大切って言うか。
あ、そうそう。
ルスタフに差し入れ作ってるだけだから。
料理で憂さ晴らしとかしないし!!
え?
気分転換?
そ、そんな事ないよ。もう、もうすぐ分かる予定…だ…し。
とにかく!!
俺は甕を見た時から作りたいものを作成してますーー!!
甕は俺の中ではやっぱ、『酒』な訳で。
そうなりゃ。
やっぱ。ツマミでしょ。
ネギと味噌を混ぜたものを油揚げ風のものの上に乗せて焼く。
あ!焼きおにぎりも同じ具でね。
銀杏も炒っておこうっと。塩振って、と。
いい匂いだぁ。
あと。魚を焼いてほぐして。
ネギや薬味と混ぜて。
豆腐の上に。
ニンニクのみじん切りとバターの上に卵を乗せて。じっくり焼く。
タラリと、醤油。
うんうん。
お酒欲しいよね。
こんなの。やっぱ、酒なしでは食べれないよ!!
ん?
何?
爺さんか?
いや、違うよな。甕に隠れられる大きさって。
子供?
爺さんの孫か?
「それ、ちょうだい!!」
もみじの手のひらが、甕の影から伸びたぞ。
よし。ではと。
袋からマーマレードを。
え?
「違うの。そっちのだよ!」
マーマレードよりオツマミなの?
この辺の子って、飲んべえ決定だな。
改めて手のひらに銀杏とニンニク卵を乗せた。
パン!
パンパンパンパンパン!!!!
ふ、蓋が。
甕と言う甕の蓋が開いたぞ??
アレ?
「ルスタフ?爺さん?青い魚??」
一気に空が曇って、暗くなるのにだれの気配もない。
ぽつ。
ぽつぽつ…??
雨?
でも。この匂いまさかの…お酒の雨??
マジか。酒の雨とか…。
レイバンやガイおじさんがいたらなぁ。
「慈雨だなぁ。
これが噂のお前さんの力か。
それにな。お前さんのツレ。
中々良い仕事をしたぞ。御礼は袋に入れて置いた。今度はちゃんと来い。待っているとラクゥドに伝えておいてくれ」
頭の中に声がした。
爺さんの声。
暗い空に、滲んだ爺さんの影が見えた気がした。
あ!そうだよ。
爺さん。タコに似てるんだ。
そんな事を思った瞬間!!
目の前がグラっと揺れて眩暈がして、目を開けたら…
「「「コウ殿」」」
へ?
も、戻ったの?
青い魚は?
甕直ったのか?
「コウ殿。大丈夫だと思います。
何か青い魚が御礼などと、俺に小さな甕をくれましたから」
ル、ルスタフ!!
良かった、無事だ。
俺は、スタンさんやラオ達に囲まれて『田中食堂』にいるとやっと理解した。
その夜、袋に入ってた『御礼の甕』の中身のお酒に全員が酔いしれた。
ラオ曰く『極上の酒』なのだ、とか。
ールスタフ視点ー
また、だ。
何故俺…
なんで。
とにかく、コウ殿に連れられ甕の中へひっぱりこまれる。
目が覚めて甕の中ではなく、精霊のいる場所だと理解した。
目の前の数えきれない甕からは、力の鳴動をかんじからだ。
青い魚。
恐らく、偽装している姿だと思う。
御遣い様なのだろう。
やはりだ。
目の前の巨木の甕の上にいるご老人からは、唯ならぬ力の奔流を感じる。
俺がそんな事を考えてると何故かコウまで絶句してる?
珍しいが、恐らく俺の予想とは違う事で絶句中なのだろう、な。
そこで質問していたら、とんでもない方向に話が逸れて…ああ!!
また、だ。
またもや無茶振りで俺に…。
でも、ちょっと興味もあるな。
金継ぎ…また新しいものが生まれようとしてる。熱中して作業してたら…コウが居ない?
「焦らなくていいよ。コウならあっちで遊んでるから」と青い魚。
知らないな。
コウの料理の凄まじさを。
ほら、また何か作ってる?
いい匂いがしてきたなぁ。
や、やばいぞ。
ほら。
あぁ。目の前の大きな甕が。
金継ぎをした甕が、凄まじい大きさに!!
あ。
『田中食堂』に戻る寸前に、青い魚の声がした。
『ありがとう。本当にありがとう。
お陰様でムーラは取り戻せます。
狭間が守られましたから…金継ぎ。
貴方にも、これを』
頭の中に浮かんだ甕の感触が手のひらに感じたられた途端戻ったと、言う訳だ。
小さな甕の中身は、顔料だった。
その顔料はほんのり酒の匂いがした…




