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田中食堂へ

ーコウ視点ー


やっと見えてきた。

隣町の『レーベ』だ。


小さな村だった記憶だけど、記憶違いだったみたいだな。

結構な大きさの村だ。


その上、この辺りの農地と言ったら…。

見渡す限り農家だな。

気さくな農家の人達が手を振ってくれてて、嬉しくなる。


なんとなく「ただいま〜」と声掛けたい気になるよ。

ニコニコした人が多い村では、知り合いにも会ったよ!


ザイドさんだよ。

俺が「お久しぶりです。覚えておられますか?」と聞いたら…うぅ。


うぅ??


どうしてんだ?具合が悪いのかな?


「いえ!全く元気であります!

お久しぶりでございます。あの時頂いた沢庵の味、忘れた日は一日もありません!!」


「あ、ありがとうございます。

こんど、新しい料理も提供しますから是非また来てください」


おおー!!


ん?

後ろのほうが賑やかだな。

何かあったのかな?


しかしザイドさん。

ちょっとオーバーリアクションだよ。


沢庵如きでそんな。

誘ってたら、めっちゃ直立不動の姿勢から直角にお辞儀をされたからビックリしたし。


きっと、いいとこの坊ちゃんなんだな。

何だよ。

ルスタフのやつは、何かとため息ばっかだな。


「コウ殿。素晴らしい村ですね」

とスタンさんに言われて、ちょっと頬が緩むよ。


まあ、隣町とは言え自分の故郷を褒められるのは嬉しいよな。


近くの川沿いに船を停泊して、『田中食堂』まで歩く事にしたから。

だったら『レーベ』へ寄り道を頼んだ。

近いけど、あまり出掛けない俺は不案内で。

お得意様が沢山いるから、あちこちで声がかかって嬉しいよ。


長く『田中食堂』を閉めていたからな。



レーベ村から出て、1時間くらい歩いた辺りで異変に気付いた。


あれ?

もしかして、俺の店。


無くなっちゃったとか?

まさか…。


不安が増す。



何故なら長い長い白い塀がズラーッと続いていたからだよ。


もしかしてお隣さんとか出来たかな?

それにしても、豪邸だな。


う、羨ましい……。



あまりに長い塀が終わった所からは、見た事もない大きな御屋敷が見えて俺は正直びびったよ。

お隣さん。

まさかのお偉いさんか?


こんな田舎にか?


あ!

もしかして、セカンドハウスか?


なんと。


偉い人でも、怖くないといいけど…。


御屋敷の隣に懐かしの『田中食堂』があった。

でもさ。隣にも店が出来てたし。


何の店かは、分からないや。

看板にカバーが掛けてあり見えないしな。


ガラガラ。

懐かしい匂いがした。


お腹いっぱい息を吸い込んで、ただいまと言おうとしたら、


「ニャー」

先におかえりなさいって言われたよ。


「ツィー。ただいま」

久しぶりに抱きしめたツィーは少し痩せてた。


「長く留守にしてごめん。今晩は美味しいもの作るからさ!」


「あのー」

後ろから、遠慮がちな声がして思い出した。


不味いぞ。

スタンさん達を待たせてたんだ。


「皆さま。田中食堂へようこそ!」

ゼンさんやスタンさんはよく知る店だが。


バリー達は、キョロキョロしてる。

凄い変な顔でルスタフがあちこち見てたし。


「小さいだろ。俺の実力じゃこの大きさが限界でさ。

でも、隣に凄い人が越して来たみたいだ。

良い人だと助かるけど…」



俺が不安から良くない妄想に励んでいたら、

気配なく人影が近づいて来た。



「コウ。おかえり。

長らくご苦労だったな。スレッドから詳しく聞いてるからな」


全く変わらないプレストンさんが後ろにいた。


マジビビるし。

お茶目なとこも変わってない。

いつものプレストンさんに会って、一気に実感が湧いた。



帰って来たんだ…と。



「さあ、コウに是非とも自慢をせにゃな。

案内するから、付いて来てくれ」


プレストンさんのあの笑顔…。

イタズラ好きの少年の顔だよな。


皆んなと一緒に店の奥に進むと、見慣れないドア発見!

俺はドキドキしながら、ドアを開けた。


カチャ。


おぉーー!


ドアを開けると長い廊下が見えた。結構続いている。


廊下の先には、家?蔵?

とにかく、沢山の建物が並んで建っている。


何人の人が越して来たのか?


「この並びは、食料の蔵達だな。

勿論、納豆小屋や、乾物作りの小屋など

それと、道具小屋や、馬屋だよ。


右側は、倉庫系になる。

さあ、こっちだ」


え、えぇーーー?

い、意味が、意味が分からないよ。

たぶん…

石造りや、木の小屋などが見えるから恐らく用途に合わせてだと理解したけど…。


この景色は料理人の夢だ。


だってさ!

食料毎に蔵を持つ。


そんな夢みたいな事。

本当に起こるなんて思わないじゃん!普通…。


な、納豆小屋と乾物小屋だけだったのに。

こんな。

こんなに沢山の建物が。


1、2、3…8。8!!!


えー。

まさかの八棟か?


涙ぐむ俺に、プレストンさんが追い打ちをかけて来た。


「ほら、あっちにも続いているよ」


指差した逆方向を見てあんぐり!



な、なにーーー!!



廊下。長過ぎでしょ。


木で作られた廊下は、前世の京都の寺の渡り廊下に似ている。

その長さは、それ以上かもだけど、さ!

更に!

背景に『デレントの原生林』の木々。

美しさもありつつ、この大きさとは…。



ほら、後ろのルスタフなんか顔色すら悪いしね!

まあ、俺もかもしれないけど。



長い長い廊下は、御屋敷と繋がってたし。


「プレストンさん。不味いよ。

人の家に勝手に入るのは、トラブルの元だから!」



つ、通じない?

ヘラっと笑ったプレストンさんが更なる爆弾発言をした。



「大丈夫ですよ。

ここは、ぜーんぶコウ殿の田中食堂の一部ですから」


何?その笑顔。

そりゃ。やられましたよ。

マジで、驚きの連続でもう、ふらふらだし!


でもさ。

これは不味いしょ!


ここは、『デレントの原生林』


主様のお許しが無い場所まで勝手にしたらダメだよ。

この場所は、元々義父さんが主様から分けて頂いたものだから。


「主様からお許しは頂いたので御心配には及びません。それよりこちら側は住まいになります。


この田中食堂裏手の家は、コウとラドフオードさんの家。

あ、いや。

コウとツィーと義父殿の家。


そして、こちらの御屋敷は20部屋あります。

そちらの、バリー殿達や、お弟子さんやらの部屋も。

恐らく、かなりの大きさがあるのでご満足頂いけると思いますが」


プレストンさんてば!バリー達を見て、またもやニヤリとするし。

完全に遊ばれてる?


バリー達も呆気にとられてた。

良かった…仲間発見出来たし。


最後に田中食堂の横にあるこのお店の説明だ。


「ここは、聞き及んでいるところによるとルスタフ殿の木彫りの彫刻を飾って売る場所と」


「ひ、ひぇーーー!!」

悲鳴だな。

完全な悲鳴で決定!


ルスタフが説明に俺が答える前に、悲鳴を上げた。

でも、ここだけは俺は頷いた。


こじんまりとした全て木で作られた小さな店は、ルスタフの木彫りにぴったり!

あったかい感じが良いな。



それにしても…。

コレマジで良いのかなぁ。


プレストンさん。

完璧に、大商人の地位を最大限に利用したよな。


でも。


やる過ぎ間違いない。


ないけど…。


頭撫でないでくれよ!!

(昔みたいに、さ!)



俺が俯いていると、ツィーが近寄って来た。



「二、ニャー」


まるでツィーが「良いんだよ」って言ってくれたみたいだな。




「美味しいものを作りたい」

心の底から湧き上がる気持ちを込めて。


俺は久しぶりの田中食堂のキッチンへ入った。


埃もないキッチンに、改めてプレストンさんに深い感謝を述べたら…



「いや、それは違うから…。

いや。それも違うか。

とにかく、この食堂を守ったのはツィーだよ」


得意げなツィーに俺は腹の底から笑った。


ツィー。ありがとう。





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