名もなき村で…
ーコウ視点ー
気持ち悪い…。
そうです。船酔いです。
あー、なんでだ?
俺…今まで大丈夫だったのに…?
アレ?
ルスタフも??
ルスタフは、どうやらお尻にも打撃を受けたらしくて。
でもさ、あの滝壺の水を飲んで完治したって言ってたのに。
え?
帰り道が猛スピードだったから?
そうだっけ。
まぁ、とにかく俺ギブです!
「近くに村を発見しましたので、そこへ向かいます」スタンさんの命を受けたバリーが下船して探してくれたみたいだ。
あー!
到着した!!
あぁ。いいなぁ地面…
だってさ、地面って揺れないし!
ミックに支えられて、村へと降り立つけど村人らしき人が誰も居ないらしい。
無人の村かと、思っていたらだいぶ経って老人が一人家から出てきた。
かなりヨロヨロしていて、俺みたいだ。
「どこから来なすった?この村にゃ何の食べ物もありゃしないだよ」
痩せこけたその姿は、明らかに栄養失調だな。
どうしたんだろう。
俺はふらふらしながら、
「お腹空いてますか?食べ物なら有りますけど」
と言うとお爺さんの目がカッと見開いたからびびったし。
ガイコツっぽかったのに。
更にガイコツ化したような…。
「老人を揶揄っちゃいけませんや。ここらの村は孤立してだいぶ経つ。食べ物などある訳が…
あぁーー!!
た、食べ物!!
み、皆んなぁ!食べ物だぞーー!!」
えーー!
話しを聞いて、慌てて袋から食べ物を出しかけたらお爺さんが大声で叫びまくったし。
し、心臓に悪いよ。
うー。
でも。その声を聞いて村のあちこちからまたもや、ヨロヨロな人が出てきた。
アレ?
結構な人数がいる。
でも。老人と子供ばっかりとか。
その間も、俺はサンタクロースに変身して忙しい。
サンタクロース役の俺が出す料理を、ノーマやバリー達が受け取っては配ってくれるから俺からは直接渡さない。
いやね、
勢いがさ。怖いんだよ!!
目が血走ってる人が、枯れ木のような手を出して食べ物を受け取ると齧り付く。
ケッコーホラーっぽいんだ。
その上
子供達なんか、食べてるのか泣いてるのか不明だし。
は、鼻水といっしょだよ!
サンタクロース役の俺以外は、子供の世話にも追われてた。
ふぅー。
もう、ピクニック状態だよ。
いや、パニック状態かな。
それにしても、
ショック療法って効くねぇ〜。
俺の船酔い一発で治ったし!
やっと落ち着いたから、最初の老人に話しを聞いてその内容に驚いた。
「あれは数ヶ月前の事。
闇影獣が川に架かる橋を暴れて壊した事からはじまりました。
川向こうの村や町は皆んな攻撃を受けて。
人々は必死にこちらに船で逃げ込んで。
その内に、都の騎士さん達が来て闇影獣を倒してくれたんです。
でも。この川の橋は無いまま。
船も、流されて一隻もない。
助けてを呼ぼうにも被害を受けた向こう岸の人々は余裕が無い。
やがて、食料が尽き始めて。
若い者は森の奥に食べ物を探しに行き、今も誰一人帰りません。
我らに、為すすべもなく。
あぁ。我らが救い神よ。心からの感謝を捧げます」
老人の涙ながらの話しに、俺の鼻水も反応して。
え?
目からも何か出てる?
いや、これは。その…目にゴミが!
(ふ、古過ぎたか!)
食べ終わった人は皆んな顔色も良くなったみたいで、元気を取り戻して周りに集まっていた。
でも…な、泣いてるし。
あぁ、そうか。
森の奥に行った人を心配してるんだな。
でもさ。
森の奥と言えば…闇影獣がいて…。
もしかして…と、悪い想像がまたもや、村人の涙となる。
俺も、お握りを齧りながら何とかならないかと思案してたら…。
ポコ。
?
ポコポコ?
え?
おぉ。いつの間に?
ダンゴムシ?達が集合してるし。
もしかして、お前達…そうか、頷いてるもんな。
よし!
大盤振る舞いで今日は煎り大豆をやろう!
お?
ポコポコ凄いぞ!
ダンゴムシ?達は一斉にモグラの勢いで土を掻き分けて八方に散ったし。
「おーい。頼んだぞ。あ!これも持って行って!」
俺が投げた飴をスーパーキャッチしたダンゴムシ?のリーダーっぽいのが、飴を背負うと森の奥へと消えていった。
よしよし。
これで行方不明の人は見つかるだろう…。
ん?
なに?この視線の痛さ!
え?
老人達が猿団子のように固まって拝んでる?
まさかの俺ですか??
や、やめてくれよ。
え?
もしかして、ダンゴムシ?にか。
。。。
ま、不味いぞ。
自分だと思うなんて…痛すぎる俺。
ちょっと、居たたまれなくて、下を俯いてモジモジしてたら、隣から声がかかった。
「しかし、橋は困りましたね。
船で渡して行くのは簡単ですが、今後の事を考えれば橋は必ずいるし」と言うスタンさんの声に、やっと我に帰ったよ。俺。
橋かぁ。
橋…
あー。流された船さえあれば、アレが作れるのになぁ。
ゴロン?
ゴロンゴロンゴロン!!
ええーー!
今度は岩なの?
何?
え?
船見つかるって??
岩達が、今度はボチャボチャと川へと向かうし。
しかし、この世界の岩とかって働き者なのか?
その前に、岩が生きてるなんてさすが魔法の世界だよな。
え?
もしや、また拝んでる?
振り返ったら。
あれ…誰もいない。
「ええ。帰ってもらいました。
行方不明な者たちが戻るから、準備を各自でして欲しいと。
皆、張り切って帰って行きました」
ま、不味いんじゃない?
だって、見つかるとは…
「いいえ。コウ殿が動いたのです。
必ずや見つかります」
だ、断言って。
時々、スタンさんが故障する。
困ってゼンさん見れば、仏様の微笑みとか。
もう、いいや。
とにかく、一休み。
……とは行きませんよね。
その前に、
船がドッと戻ってきたからさ!
は、早過ぎない??
岩…超高スペック!!
船が沢山集まったから、俺は計画をスタンさんに伝えた。
舟橋の作り方を。
舟を横に並べて、ロープで固定。
その上に板を乗せて渡る。またもや前世の単なる記憶っす!
ルスタフが代わりに絵を描いてくれて説明は無しさ!
ただ…人手が…
あ、足りました。
ダンゴムシ?まで高スペックか?
ダンゴムシ?の上に沢山の人が?
でも、皆疲れ切ってふらふらだ。
ここはアレだな。
よーし!『気つけ薬』を…
えっ?ルスタフ、要らないのか?何慌ててるんだよ。
分かったよ。
うーん。でも食べ物はいるだろう?
煮込み料理はどうだ?
ルスタフってば、そんなに喜ぶなんてな。
レイバンだけじゃなくて、ルスタフも煮込み料理好物だったんだな。
食べ終わった人が暫く休んだ途端、元気に復活して来たからビックリしたよ。
川沿いの村人の体力半端ないな。
それから村人総出で舟橋作りに勤しんだ。
数日後、舟橋完成したよ。
俺は、その間は子供達に料理教室とか開いてた。
この辺りで取れるサツマイモっぽいものの料理をな。
そう!『焼き芋』だよ。干し芋なんかも、な。
大学芋や芋ご飯。
天ぷらや甘煮。サラダも美味いし。
沢山作って、働いてる皆んなに配ったら大好評ださ。作り方はちゃんとメモ残して来たよ。
そう。
出来上がりを待って船出したから。
だってさ。
プレストンさんが待ち草臥れてるから悪いよね。
別れ際に、子供達から貰った宝物が嬉しかった。
ドングリ。
食べれないけど、俺の宝物。
それにしても、ちょっと困った事が最後に起こったんだ。
それはこの村が名無しの権兵衛さんだって分かり、名付けを頼まれた事で。
迷いに迷って…
『サツマイモ村』
ルスタフがため息ついたけど、村人は喜んでくれたし!
(その後、サツマイモ村は舟橋で有名になり別名『舟橋』と呼ばれた。
そして、いつのまにかそちらが定着したとか…)