助けて下さい?
ーコウ視点ー
青々とした緑が鮮やかな、この場所にある滝壺?
確かに滝はある。
滝壺?らしきものも。
俺がグレーの滝壺?に戸惑ってたら、ルスタフが目覚めて驚いてた。
全く…副隊長の癖にのんきなヤツだよ。
あの揺れる岩の移動中に寝てるなんて。さ!
まぁ、そこがルスタフの良いところなのかもな。
俺も一番気楽に付き合えるから。
『早く。助けてくれ』
苔岩のヤツ。
無口なのか、話が全然通じないし!
助けろって言ったって。
俺に、岩の診察なんて出来ないよ。まあ、獣医さんでも出来ないかもだけど。
あ!
アレ!
落ち着いて周りを眺めて俺は、ウホウホになった。
なんとこの場所は、薬草の宝庫だからだ。
滝壺?の周りに生えてる草の殆どが希少種の薬草ばかりだよ。
まぁ…最近、薬作りにも精を出している俺には、その違いが分かるからな。
(いやぁ。薬作り…本気で始めるつもりじゃなかったけど、皆んなの熱い期待が、な!)
とにかく、ここに落ち着くならと袋からテントや寝袋など並べたらルスタフが慌ててる?
「コウ殿、ここに落ち着くつもりですか?」
「副隊長。何度も言うけど『た・い・ちょ・う!!』だから。
だって、苔岩の言う助ける方法とか全く分からないし。
そのうち、スタンさん達も来るだろ。
その時まで、隊長としてやるべき事をやらないと!」
ん?
何を頭を抱えてるんだ?
「ですから!山に登って来ましたよね。山とか近くにはなかったでしょ。だからスタン殿と言えどこの場所に来るのは…」
ククク。
困った副隊長だ。
山が見えない。それ即ち『霧』だよ。
え?
霧とか出てない??
ふふふ。
俺には見えてたよ。
そーだよ。『心の目』なんだな。
とにかく、ルスタフにテントその他を任せた俺はとにかく薬草取りに精を出した。
わぁお。
これって、『気つけ薬』を更に強化出来るやつかも。
これもだよ。
は!
そこで俺はある事に気がついたんだ。
薬草がある場所には、その必要があったんだと。
あれ?
じゃあ。何で今は『水産む岩』は水を産まなくなったんだ?
「『水産む岩』は、全ての母体である。
その身から出す水は特別で、我々の生きる糧である。だからお前に頼んだ」
??
全く、苔岩との話は疲れるよ。
えーと。
母体…生きる糧…
そうか!
『母乳』なんだな!!
前世で聞いた事がある。母乳の出が良くなる食べ物があるって。
えーと。
確か…餡子だったよな。
なんだよ。簡単じゃん。
『ぼた餅』だよ。見た目も岩のっぽいし。
俺が閃く事が、スタンさんには分かってたんだな。
よーし。
袋からぼた餅を出した俺は、滝壺?に投げ込んだ。
苔岩が暴れてる?
いや、ルスタフと戯れてるのか?
「ですから、アレがコウ殿流のやり方です。もう少し、もう少し様子を見て下さい!」
とルスタフが苔岩に抱きついて言ってる。
でも…違うし。
やり方とかじゃないだよ。『閃き』!
俺は、更にプレゼントとして『気つけ薬』を取り出して今摘んだ薬草と合わせて最強の『気つけ薬』を作り始めた。
ゴホンゴホン!!
何?
ルスタフが咳き込んでる?
ゴロンゴロンと岩達まで動き出した?
ははーん。
この薬の匂いに酔ったな。
強力な薬だから、単なる匂いではなく効くのか。
いやぁ。自分の薬草の才能がどんどん増えてきて怖いよ。
さあ。コレもぽちゃんと!
ドドドドーーー!!
ドバーーン!!
水柱。
滝壺?の水全てが空に向かって正に、柱のように噴き上がった!!
えーーー??
何?
ルスタフが近くに来て俺の前にいた。
いつの間に…。
そんな俺達を横目に、ゴロンゴロンしていた岩はほぼ全部滝壺?に飛び込んだ。
苔岩も。
やがて、水柱がパシャン!と音を立てて滝壺?に戻ると水面が鏡のように変化した。
『気つけ薬』のせいか?
鏡面のようになった滝壺?には、船の上の仲間たちが写ってる?
おお。
まるでビデオみたいだ。
ビデオとか…懐かしい…。
バリー達がイライラしてるみたいだ。
お?ゼンさんと言い争ってるっぽい。
もう。隊長を迎えに来ないで喧嘩してるとか。
ダメ隊員だな。
ほら。これでもくらえ!!
喧嘩の仲裁に俺は水を掛けられないから、『気つけ薬』をボチャと掛けた。
おや?
ユラユラ鏡面が。
み、見えないよ。
どうなったのかなぁ。
「コウ殿。コウ殿。
乗り出すのは危険ですからやめて下さい!!」
後ろを振り返ればルスタフが俺の腰をガッチリ掴んで滝壺?に落ちそうな俺に叫んでた。
「え?だって皆んなが喧嘩してたろ?」
身を乗り出すのをやめた俺の方を見たルスタフの間抜けな顔。
もう。こんなんじゃ副隊長解任するぞ!!
え?見えない??
すると、突然殺気を出したルスタフが俺の前に立ち塞がった?
「コウ殿。後ろに下がって下さい。絶対、前に出なで下さい!」
なんだ?
いつのまにか、真っ赤に色を変えた岩達に取り囲まれてた。
苔岩も、赤に変身してる?
『よくも。我々の母なる『水産む岩』を攻撃したな。この報いを受けさせる!』
え?
怒り狂う声なのか。
地を這うようなもの声が聞こえてきて、身体が勝手に震える。
こ、攻撃とかしてない…
だけど。俺の声はもう届かない。
岩の出す唸るような声。
真っ赤な岩岩。
敵対しているとはっきり理解したのは、ルスタフに攻撃した時だ。
ルスタフは、身を翻しながら柔らかく受け流しているけど。
その動きに怒りは増して、更に速度を上げて岩がルスタフを攻撃する。
その間も勿論、俺も攻撃対象になる。
だけど、これもまたルスタフが防ぐ。
ルスタフは更に俺の周りに防御魔法をかけている。
攻撃する気のないルスタフ。
激しさを増す岩岩。
守られるだけの隊長の俺は、手を握りしめる以外にする事もないまま。
ただ、見つめる。
ただ…
ルスタフの額から汗が滴り出す頃には、見つめる俺の手の平からは血が流れていた。
やる事がない。
攻撃も防御も何も出来ない自分が、相談もせず『ぼた餅』や『気つけ薬』を滝壺?に放り込んだから。
責任も取れないのに…。
ポタポタ。と2人の流れるものは違えど地面が吸い込む。
あ!
ルスタフの右肩に岩が当たった!!
強い衝撃に、ルスタフの身体が揺らぐ?
あ、危ない!!
身体がぐらついた所を狙い済まして岩の集中攻撃が!!
「ルスタフーー!!」
叫びは、滝壺?の中にも染み込むほどの大きさになった。
叫ぶと、俺は前に出た。
防御魔法がそれでダメになると理解していた。
それで、ルスタフが必死に掛けてくれた安全地帯が壊れるのも承知で。
でも。
ここで戦わないで。
仲間の為に、戦わないなんて絶対出来ない。
俺が座り込んだルスタフの前に出た。
集中攻撃を予測して、せめてと腕で頭と顔を庇う。
。。。
。?
薄っすらと腕の隙間から前を見ると、アレ?
目の前には、美しい透明度を誇る滝壺が!!
更に飛沫も爽やかな滝が落ちている。
岩は?
岩達は?
岩は、そのまま動かない。
ゴゴゴゴゴーー。
大きな音をたてて、透明な滝壺から大岩が浮上して来た。
ほんの少し顔を出している感じで。
(挨拶してる?)
『やっと声が届いたか。
もう大丈夫だ。心配を掛けたな。
さて。
コウ殿。
お陰様で元どおりになる事が出来ました。深くお礼申し上げます。
この岩達の仕出かした事にもお詫びします。
お仲間には、わが水を差し上げます。
傷もすぐさま治りますから』
もしかして…『水産む岩』?
お母さん的なの考えてたんだけど。
イメージ違うなぁ。
『ふふふ。この姿もは借りのもの。
さて。今から元の場所にお戻ししましょう。
そして、お礼は既に取った薬草にて。あれはココだけの希少種ですから心してお使い下さい。
さあ。行きますよ』
まただ!
グニャとすると感覚。
船が見えて来た気がした…
でも、段々と意識もグニャとし出して。
完全に意識を失う前に聞こえた声は何を言ったか分からなかったが…
『ありがとう。
これで、この世界の全ての川は貴方の味方。
しかし…少々荒治療だったがな。
あの『強化した気つけ薬』は…』