副隊長を拝命した俺の独り言…
ールスタフ視点ー
「副隊長!副隊長!!
さぁ、やるぞ。
えーと。え?わかってるって!!
『水産む岩』を助ける為にだよ。目標も分からなかったら、隊長じゃないじゃん!」
コウ殿。
ツッコミ放題ですよ。
ホントに。
そんなにも『隊長』でテンション上がってますけど、こんなんで解決出来るのか甚だ疑問だ。
コウ殿の隊長らしい振る舞いを眺めながら(ただウロウロしてるとも言う)
俺は昨夜のスタン殿からの説明を思い出していた。
『ゼン殿のご説明の通り、恐らく『水産む岩』は水に関わる精霊かと思います。
岩達が、コウ殿とルスタフ殿だけに見せた姿からも、お二方が特別だと一目瞭然です。
ですから、この精霊救助の隊長を是非ともコウ殿に。そして副隊長をルスタフ殿にお願いしたいのです』
ふ、副隊長…しかも隊長はコウ殿。
間違いない。
これまで犯してきた罪の償いの時が来たんだ。
暗部として、様々な事に手を染めて来たからな…
もう。隊長になりきっているコウ殿のせめて通訳として頑張らねば!
そんな事を思った時もありましたよ。
2人での会議がもう何時間も続いていなければ。
進展がない。
他の皆は船を降りて近辺の調査をしているようだ。
予定外の展開の為、色々と後手に回っているらしい。船が川を遡るだけでも近辺の村や町は大騒ぎになるのに。
「とにかく、甲板に出よう。事件は現場にあるんだよ」
じ、事件って…。
あ、ため息ついてる場合じゃなかった!!
「コウ殿。忘れたのですか?
スタン殿から『ここから動かないで下さい。特に甲板には我々が帰るまで登る事無く待っていて下さい』と言われて頷いたじゃないですか?」
えー?
笑ってる?
どこに笑う要素が??
「ルスタフ副隊長は、知らないんだな。
隊長は、独自の判断をするものなんだよ。
まぁ、慣れないから知らないのも無理はない。
さぁ!付いて来いよ!!」
ダメだ。
甲板へサッサと上がって行くし、止めるのも諦めた。まぁ…
これも通常運転だからな。
「副隊長!
見てくれよ。この岩の数。
ほらほら、まだやってくるし!俺の予想通りに甲板に岩は集まってたじゃん。
隊長は臨機応変じゃなきゃな」
唖然とする景色。
少し、身震いもする景色だ。
甲板には、大小様々な岩が転がり込んでいた。
その上、ゴロンゴロンとコウ殿の近くへと転がりだしたし。
あ、危ないよな。
一面の岩の中に、明らかに違いのある一個を見つけた。
苔を身に纏っているのか緑色になっていた。
綺麗とも言えない微妙な色合い。
コウ殿も気づいたようで、近づいて行くと。
『迎えに来た。我々に付いて来て欲しい』
ま、不味いぞ。
スタン殿達に黙って出掛けたら。
俺が焦って前に出ようとしたら、コウ殿が。
「それは無理。
だってさ。仲間達を置き去りにするのは隊長のする事でないから」
良かったぁ。
隊長に憧れてるだけあり、きっぱりと断ってる。
隊長の名前もたまには、役に立つんだなぁ。
「それより、何処に向かう予定か教えて欲しい」
『それは、住処だ』
「だからそこの場所だよ」
『そこは、『水産む岩』の住まう場所』
「だから。そこに行くにはどの位時間がかかる予定なのか?」
『行くまでの時間がかかる』
。。。
た、隊長ですらお手上げ状態にさせるとは…岩は勇者だな。
そこに、バリー達の帰ってきた音が耳に入る。
よし。
あと少しだな。
その油断がいけなかったんだ。
岩達がバリー達の気配を悟った結果。
誘拐事件発生したんだ!
そうだよ。
俺も。です…
岩に連れ去られるとは。
だって、何らかの精霊である岩に攻撃が出来ないだろ!!
そ、そのせいだよ…。たぶん…。
我々はアッサリと、岩の上で。
ゴロンゴロンと転がりながら、俺達は何処へ行く?
結論は、山!!
『水産む岩』の場所へ行くのに、まさかの山とか。
我々の本来の目的地とは全く別の道。
山登り中…
「ルスタフ!無事か?」
コウ殿の方を必死に見れば、
な、なんと!!
優遇措置だ!
だってさ、コウ殿は、あの苔岩たった一個の上に乗ってる?えーーじゃ楽だよな。
しかも岩自身が跳ねて先へと進む時にも、滑らかさがあり優しさを感じる。
それでも、飛び跳ねる岩の必死に齧り付かねば振り落とされるだろう。
俺の方は容赦がない。
ガンガン、転がる。
で。尻が痛い。
だがそれ以上の大問題として仲間が誰も追いつく事は無い。
それが一番の気がかりだ。
なぜ追いつかないのか?
何処へ行くのか誰も知らないというのもある。(まあ、そう言う俺だって全く分かって無いけど、ね!)
山。
あの川の側には山など無い…はず。
今登ってる山は何処から来たのか?
回答は、無いまま。
俺達は、山頂を目指す(してるらしい)
考え事をしていた俺が具合が悪くなったと誤解したコウ殿が袋から取り出そうとしているのは
あ・の・・・『気つけ薬』
昨日ソレを使ったザッパ殿は未だ意識が戻らない。(身体は問題がないらしい…が!)
蓋を開けたゼン殿の顔。
申し訳ないけど一生忘れないと思う。
「コウ殿。考え事です!!全く問題ありません」
必死の俺の訴えは確かに届いた。
「そうか。無理しないで必ず言ってくれよ。用意は出来てるから!」
安堵の俺に、コウ殿が一つの飴を放り投げてくれた。
この匂いは…
「そうだよ。
『気つけ薬』の飴バージョンだよ!!」
「あ、ありがと…う…」
一言でも言えた俺を褒めて欲しい。
その後、どんな道を取ったのかは不明だ。
(それは気絶してたから、だけど…)
そして、気づけば滝壺に来ていた。
それは見た事もない水の色で…
その水の色は『灰色』