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島は、マングローブ?

ーゼン視点ー


じっと手の甲を眺める。

蜘蛛が私の手の甲で蠢いているように見えた。


いや、確かに動いている。


『吾が力を貸すのだ。その方も吾に魔力を与えよ』


あの瞬間に、そう聞こえた。

空耳かと思ったが魔力の減少を感じたので、現実だと気づいた。


身体の中の暴発しそうな魔力が薄まっている。

生まれこの方あった、暴発の危機から初めて救われたのだ。

その事が、私の何かを変えたと思う。


何故なら、今の状況すら愉快に思えるからだ。



島と言うにはちょっと烏滸がましい小さな小さなこの島へ逃げて数時間が経つ。

(ザサールがまたも味方してくれたのだ。

コウ殿恐るべし!)


突然の噴火予兆に、船へ戻る時間すらなかった。

だからこそ、船へ戻る道を今相談している。


「ですから、俺が泳いで船へ戻ります。

これでも泳ぎは得意ですから!」


身を乗り出してバリーが前に出た。

確かに、それ以外の方法が見つからない。

火魔法の遣い手である私は、水は苦手。

カリナ殿とスタン殿は全く泳げないようだ。

名案に見える。


だが…


「私は反対です。海を侮ってはなりません。

バリー殿のように川で身につけた泳ぎは海流を知らない。この海流こそが誠に危ない!」


「しかし…」


バリー殿の反論もそれくらいで引き下がる。

海の怖さは、ご存知のようだ。



「それにしても、コウ殿は熱心ですね。

あの穴からは、何も釣れないと思うのですが…」


カリナ殿の声に、振り返れば熱中しているコウ殿の姿があった。


この島へ来た時に、コウ殿が見つけた穴は確かに海に繋がっているようだ。

だが、小さい。

まるで水溜りのように見える…もしかして?


「ええ。ゼン殿の恐らく想像通りかと。

アレは単なる水溜りです。

何故なら塩辛くはありませんから。」


カリナ殿の諦めたような声にプッと吹き出す声がした。


バリー殿かと思いきや、スタン殿?

張り詰めた空気が一瞬で、緩んで行く。

これも、コウ殿効果。



「つ、釣れたーー!!」


「「「「ええーー!!!」」」


ポンと、はね飛ぶ糸の先には青い何かが…


「あれ?翡翠??」


ヒスイ??

ヒスイとは、リョクの事だろうか?

光る姿は確かに石のリョク。

コウ殿の手の上で、半透明な青色の石が、キラキラ光っていた。


「あー。何だよ。宝石とか今はいらないし。

美味しいものを食べて欲しかったのに…」


肩を落とすコウ殿に、リョクを見ていたカリナ殿が呟いた。


「美味しいものなら、先ほど頂きました。あの『チュウカガユ』。干貝柱入りで力がモリモリ湧いてきましたから!」


確かにあのニーハ村の干貝柱は美味しい。

大評判らしく、オリド殿がいたく喜んでいたから。


「えー!また、力湧いたの?

ふー、何で俺だけちっとも湧かないんだよ。」


え?コウ殿の声が小さくてなんと言ったのか聞こえなかったが。



とにかく、テントを張り夜を越そうと言う事になったが。

テントの中で、やたらとコウ殿がリョクを見つめていて気になる。


「うーん。中に魚が見えるんだよな。

しかも、泳いでるように。何だろう」


何か言ったのか?と尋ねようとしたその時!!


外から悲鳴がしてテントを飛び出した。


な、な、なんと!!

島が沈んでゆくではないか!!

慌てても、段々と増えてゆく水嵩に逃げる術すらない。どうすれば。


あぁ、こんな時、船へさえあれば…


すると、後ろから現れたコウ殿がボソリと呟いた。


『これは、マングローブの島。

夜には沈んでゆくのが当然。さあ、俺たちも出発しましょう』


!!!

なんと?

きっぱりとしたコウ殿の声に全員の目が一斉に集まった。


コウ殿?

目の色が、青いような…


そんな戸惑いの中いる仲間を振り返ることもなく

ズンズンと進むコウ殿。


慌ててふためいて、全員が急いでついてゆく。

揺るがないコウ殿の歩み。

全く迷いのない歩きは、明らかにコウ殿のものではない。


もしや…あのリョクでは?



『ほら、迎えが来たよ。アレに乗っていけば大丈夫だから。』


コウ殿が指差した先に見えたのは、海面の光る様子で。


こんな時でなければあまりの美しさに暫し見惚れたとも思うが。

とにかく、既に膝まで浸かっている現状ではそれどころじゃなく。


近づいて何が光っているのかと見れば、ルー?


『そうだよ。海月。

コレが乗せってくれる。さあ、行くよ』


かなり大きなルーだから、乗れない事はないが。

こんないつものコウ殿でないのではと、躊躇われる。


「お願いします。いつものコウ殿をお返し願いたい。このまま信じてついてゆく事は出来ません」

スタン殿の落ち着いた声に。


『何故?姿は変わらないのに』


「いえ。その中身こそ我々の仲間のコウ殿です。

お願いです。コウ殿をお返し願いたい」


スタン殿が深く頭を下げた。

続いて私も。無論バリー殿やカリナ殿も続く。


『うむ。人間も変化したのか。

吾は今この身体から出る訳には行かぬ。

この者もそれを望まぬよ。お前たちを助ける為に自分のエネルギーを分けてくれているのだ。


さあ、時間がない。

この者の真心を無にせぬ事だ。急げ』



一緒、ほんの一瞬目がいつものコウ殿に!


必死のその瞳に、まずは、私がルーに飛び乗った。


「信じよう。コウ殿ならばどこまでも、な。

さあ、スタン殿。ここはかけてみましょう。

どうせ沈みますから」


私に続いてスタン殿・バリー殿。そしてカリナ殿が明らかに強張った表情で乗り込んだ。



海に出来た、一筋の光る道は船まで続いていた。

無論、光はルーの放つもの。



奇跡は終わった。


光の道は、我々の船へと続いていたのだ。

そして、ルーは揺れる事もなく我々を船へと戻した。


ため息以外何も出ない。

そんな不思議なこと時間だった。


程なく船に戻った我々は山の煙が更に増しだのを見て、急ぎ海へと漕ぎ出した。


かなり島から離れてホッとした頃、突然コウ殿の身体が海へと乗り出した!

無論バリー殿が防いだが。



ぴちゃん…



コウ殿の身体から、1匹の青い魚が海へと飛び出した。



フラッと、揺れたコウ殿がその場に倒れた!!



カリナ殿がサッとコウ殿に近づいて治癒に当たれば、「疲れているだけで、問題はありません。暫しは寝て体力の回復をした方が良いかと」との事。




コウ殿の懐から、溢れ落ちたリョクを拾ったバリーが固まっていた。


「どうした?何かあったのか?」

声をかけるとリョクをこちらに寄越した。


な、なんと!


リョクは、その色を変えていた。

青かったリョクは、透明へと。



その中央には、魚の形に空洞があったのだ。



私は、手の甲を再び見た。


いつも通り蠢いている蜘蛛を。

その時、海の中から青い魚が飛び跳ねたのが見えた。




そして、その方向から一つの石が飛んできた。

それは、真っ青なリョクだった…





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