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バリー視点

ーバリー視点ー


ほんの少しのはずだった。

ここは、閉ざされた場所だとの認識を皆で確認したからこその探索だったのだ。


だが、僅か数時間の間にコウ殿の姿は消えていた。ゼン殿によれば、この不審な家の『イロリ』にいたく感激していたらしい。

ゼン殿がコウ殿に頼まれて火をつけた、とそこまでは足取りは掴めた。

恐らく、料理をしたのだろう。


ただ、本人の姿がどこにも見えないのだが。



それから、皆であらゆる場所を探しまわった。

元々、閉じ込められた場所である。

そんなに行ける場所もないはずなのに、コウ殿の姿は一切見えないまま…2日が経った。


闇影獣が出ない場所とは言え、2日も経てば嫌な想像が頭を埋め尽くす。


…コウ殿…


落ち込む俺の肩に手を乗せて慰めてくれる。

スタンさんだな。


なんて、有り難い…。


ん?

今の声は?



あーーー!!!


コウ殿ーーー!!!



コウ殿は何故か俺を慰めているが、何故俺がこんなに悩んでいるか知らないのだろうな。

いつもの笑顔だから、全く気づかない通常運転だな。


行方不明だった時の話を聞いているうちに、何やらきな臭くなってきたぞ。

は?ゼンさん達に会った?


まさか…。

俺の想像はコウ殿の想像と同一のようで。

危ないぞ…あ!やっぱり。


倒れ込んできたコウ殿を滑り込んで抱き抱える。

この手の話に滅法弱いからこうなると思った。



気絶したコウ殿を寝かせた後で皆で話し合う。


「恐らくこの島の何かの精霊だろう。

しかし、何も俺たちの姿でなくてもいいだろうに。それにしても話の内容をどう考える?」


スタン殿の言葉に頷いたゼン殿がため息をついた。


しかし、この方は変わった。

いや、姿形や能力では無い。何か吹っ切れたように感じるのだ。


「コウ殿の話が本当なら、この島は火の島なのだろう。そして『オミキ』なるもので我等は何かを一つクリアをしたのだ。

コウ殿が目覚める前に変化したものを探すぞ」


それぞれがスタン殿の指示に従って散る。


俺だけは、コウ殿の側に。

目を離せば、この人は何処へ向かうか分からない。不安は尽きない。



間も無く皆が戻ってきて判明した事は。


火魔法が使える事。

周りの森や村の中に生き物の姿が見える事。


そして…


遠くに見える山!!


高く聳え立つ山の頂上部分からは煙も見える。


あの山が霧で見えない筈はない。

コウ殿がこの島に選ばれたのだ。この人なら想像もつく。



起き出したコウ殿は、


「竃。竃に捧げるって、無表情スタンさんが言ってたし。捧げるとなると、やっぱ。アレでしょう」

一人まくし立てていたが…。


アレ?

嫌な予感がするんだが。


「バリー。風魔法で木を切ってきてくれよ。

うーんと、なるべく太い木でよろしく!

ゼンさんは、花火作りをして貰って。

俺は、これから竃料理をするから。さ!

えーと…カリナ手伝えるかなぁ?」



やる気に満ちてるコウ殿の指示に従って木を切り出す。

戻ると、コウ殿が次なる指示を。


えーと。

輪切りの上、木の皮を剥いて。

中をくり抜いたら、スタン殿と協力してケニの皮を張る。


コウ殿の袋からレイバン殿に貰ったケニの皮が出てきたのだ。

レイバン殿は、違う用途で渡したと思うけれど。


「ひっ!」


短いが確かに悲鳴がした。

あれは、カリナ殿だったような。


もしや、コウ殿の身に何か!!!



家の中に駆け込んで、全員が固まっていた。


この状態は何だ?

そ、それよりコウ殿が話している相手は誰だ?


「あ!この家のお爺さんだよ。

今ね、竃の掃除の仕方とか、竃に供える料理を教えて貰ってたんだ」



『貰ってたんだ』って。


お爺さんは、間違いなく蛇では?

しかも、大蛇。


カリナ殿が青ざめる筈だ。

こちらをチラリと見た蛇の目は三日月のようで、全く笑っていない笑顔のような。


冷や汗が背中を流れる。

コウ殿は、次々と料理に打ち込みながら、またも皆に指示をした。


俺とスタン殿とコウ殿で、カマドの掃除。

カリナ殿とゼン殿に畑から『イチゴ』摘みや芋掘りなどの収穫を、と。


「お爺さんいい人だよな。

畑から取り放題とか。夢のようだよ。

あーー、苺かぁ。苺のケーキに苺ムース。あ!アレアレ。苺大福も作ろうっと!!」


興奮気味のコウ殿は、収穫するまでの間に掃除をした。

まず、灰を掻き出し埃を払う。

煤で黒く汚れたコウ殿に苦手の水魔法で綺麗にと思ったらコウ殿が急に笑い出した?


「バリーの鼻の頭に煤がついてるし!」


馬鹿笑いのコウ殿へ近づいて拭こうとすれば、コウ殿が急に駆け出した?

なるほど。ゼン殿達のお帰りだな。


おー。

豊作だなぁ。


各種芋類・苺・栗・そして何故か魚?


小川が近くにありカリナ殿はそちらで釣りしてたようだ。


コウ殿が小躍りし出した。


蛇が何か囁いたようだ。


「えー、本当?

悪いなぁ。ま、有り難いけどさ!

じゃあ、早速作ってみるよ。」とコウ殿が言うなり竃へと向かった。


竃の掃除を終えたばかりなのだが、コウ殿は袋から何かを取り出した。


あれは確か『赤酒』。

か、掛けたぞ!!


カ、カマドに水物って。いいのかなぁ。

か。煙!!


火もないのに煙とは?


誰だ!煙の中から誰か現れたような!!


じょ、女性??


どこから来たんだ?

危険なのではと、スタン殿を振り返れば微かに頷いている。

またも。何かの…。



「あー、皆んな。

お爺さんの家族だって。へへへ。母さんみたいだなぁ。え?ふくよかだから、言った訳じゃないよ!」



『ふくよか』って。

あのナイスバディの美女を?

俺とコウ殿では、まるで見えているものが違う。


カリナ殿の呟きが聞こえた。


「えっ?あの小さな子供を?お母さん??」

子供…。


その一言で身体の毛穴がバッ!と開いた。

もう。自分の認識では、間に合わない。


カマド料理をご機嫌にするコウ殿を呆然と眺めるだけで。


しばらくして、出来たご馳走は凄いもになっている。



串に刺して芋や魚を焼いたり、鍋料理もある。

イチゴのお菓子らしきものも。

あの白いものも、イチゴなのか?

『イチゴダイフク』ってなんだろ?

(後で食べて大ファンになった。まぁファンは多いが)


竃では、もち米を蒸した。

コウ殿が『ダイフク』を作って並べた。

お握りの仲間だろうか?

(これもまたもやファンに。ただ自分はイチゴダイフクの方が好ましいが…)


とにかく見たこともないものがズラーッと並んだ。



「これで、後は太鼓だな。

ゼンさんに花火を頼めば『祭り』の出来上がりだよ。

ほら『おまつりをする』って言うだろう?

だから、盆踊り大会を参考にしたよ」



またもや、不明な事だらけだが、理解した事もある。

あの美女が首を捻ってる事。


何かズレてるんだろうな。たぶん…(いつも通りで)



外のタイコをコウ殿が叩いた途端!!



空気が振動した。

周りの木々も森も皆んな振動していた。


なんと言う迫力。

力強い音の響きに感動していたのが不味かった。


太鼓…音楽…と、くれば。



あーーー!!


モ、モーリフ。

レイバン殿に貰ったあのモーリフ。


んー。これは…。

せっかくの捧げものが台無しでは?



『ははは。お前にこだわっては馬鹿を見るな。

何も通じないとは、何とも虚しい。

村の軛は解放しよう。だが、五大食材は見つかるかなぁ?あと3日のうちにこの島を出なければ、火の山は、本来の姿を見せるだろう』


家から飛び出した蛇と美女の姿が滲んで巨大化してゆく。

霞のようになる巨大なソレにコウ殿は、手を振って別れを惜しんでいた。



「沢山の美味しいものをありがとう!!」



その夜、コウ殿の作ったご馳走を食べた全員(コウ殿を除く)が身体強化を身につけたのを知るのは翌朝で。



コウ殿の。


「ずるーい!!」と言う抗議を受け続ける事になるのも、翌朝で。



朝日にうっすら蛇の姿が透けて見えたのは、気のせいと思いたかった…けれど。


蛇の目は今度は笑っていた気がした…


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