メルセデス王の告白
ーメルセデス王の告白ー
王となるべくして、生まれその任を果たさんと懸命なる努力をすれど突然の『石化』に抗う術もなく。
もし、誰ぞにうつる病なら…と思えば大切なものを遠ざけるしか方法とてなかった。
マデリン。
スタン。
そして無双騎士団など。
誰も近づく事を許さないまま、『石化』は進む。
だが、良く考えれば分かった事だ。
あのスタンがそのまま引き下がる訳もないと。
スタンならば、必ずや私の身に起きた事を嗅ぎつけそして、諦めはすまいと。
その頃の頑な私にはそれすらも理解出来なかったのだ。
そして…奇跡は起きた。
そう、全ては『コウ殿』のお陰で。
『石化』から解き放たれた私は、この国の為に全力を尽くすと改めて誓い、まずは豊かにする為にと作物の栽培を始めようとして。
緑溢れる大地に出会う!!
それでは、民の防寒対策として乗り出せば。
様々な新しい防寒対策に出会う!!
それでは、経済を豊かにと願い商人を集めれば。
あの『ラクゥド商会』が乗り出していてキヌルとの貿易まで盛んになり、テーブルに並ぶキヌルの特産品と出会う!!
少し肩を落としても、仕方ないと思う。
と、同時にどれほどの感謝を込めてコウ殿を思った事か。(全て事にコウ殿が関係していたのだ。まさに驚きそのもの)
ある日、そのコウ殿が再入国したと報告が上がったのだ。
無双騎士団と共に総出で出迎えようとしたら、何やら食べ物の大会を開催するとの噂を聞いた。
そこでわたしは、参加して盛り上げコウ殿に多少なりとご協力をと考えたのだ。
(後ほどこれを後悔することになるのだが…)
しかし、コウ殿の料理だ。
単なる料理のはずもない。
なんと『若返り』『筋肉増強』など種々様々な効果で人々が騒めいたその時、事件は起きた。
爆発したのだ。
いや、正確には主様がコウ殿御一行を連れ去ったのだ。力ずくで。
突然の爆発は、主様の怒りだとカリナ殿から聞いた。
でも、コウ殿達の事は心配ないと。
コウ殿は、主様に愛されている身だからと聞いた。
では、怪我人をと見渡すと。
??
何故か怪我人がいない?
これは聞き酒の効果とか。
なんと…さすがはコウ殿!
驚きと凄さに唖然となるも、事の収拾に当たらねば!と無双騎士団に指示を飛ばす。
有り難いことに、被害は物だけなので短期間で事なきを得た。
ところが…。
本当に恐ろしい事態はこの後に起こったのだ。
それは、無双騎士団が駆けつけて知ることになるのだ。
彼は言った。
『…城が地面に沈みました』と。
始めは信じられなかった。
しかし。彼らの顔色は確かに事実と示している。
まさかと駆けつけて見れば…
ただの更地があるだけで、
城の姿は何処にも見当らない。
こんな事が。
本当にこんな事が起こるなんで。
唯一の救いは、城内の者達が逃げ延びて無事だった事くらいか。
何でも、沈む前に土地神様から通達があったとか。
土地神様は、皆が逃げ延びたのを確かめた後、城を沈めたと聞いた。
土地神様のお慈悲に有り難さを感じるも、コウ殿の料理を先に食べ怒らせた我が身が口惜しい。
なんたる失態。
だが、城は再び建てれば済む。
何も我らは豪華な場所に住まずとも。
そんな考えさえ浮かぶ。
様々なことを考えていれば、コウ殿御一行がお戻りなったと聞いた。
あぁ、スタン。
そのように乱暴にコウ殿をお連れして。
とは言え、心配してくれる従兄弟に感謝を寄せつつも、コウ殿の助太刀をと心は迅る。
しかし、実際売何も手出し出来ないままでいると。
怒りの矛先は、コウ殿の料理にまで向いた。
とっさに身を乗り出そうとしてカリナ殿に止められた。
どうも、巫女姫の立場から王である私を諌める役目を買って出て下さっているようで。
未熟者だが、何とか我が身に変えて怒りを納めて頂ければと願うも。
「見ていてください。コウ殿の本気はこんなものではありません。」と、カリナ殿。
なんと。
あれは…大地の精霊『ザサール』様では?
でもあんなに沢山…。
なんと!!
城が。城が浮上して…
『ザサール』様の言い伝えは、本当だったのだ。
こんな事が。
コウ殿が楽器を取り出されたようだ。
なんと。コウ殿ならばどれほど素晴らしい演奏かと耳を傾けようとすれば、スタンが青い顔をして物凄い勢いで私を城へと追いやるではないか。
何故。
私は、コウ殿の演奏をき……。
痛い!!
耳がこんなにも痛むとは。その上、胸焼けまで。
外にいた全員が駆け込んだのを見たが、もしや、『ザサール』様のお怒りをコウ殿が受けるのでは!と気づく!
慌てた私をラオ殿(コウ殿のお付きの方だ。と言ったらは激しい抵抗に遭った。謎だ…)が疲れ切った様子で。
「大丈夫です。と、言うかあのザサール達はあれが目的だからタチが悪いんですよ。
あれを聞かされた身にもなって欲しいですよね!」
なんと…私はそのまま絶句した。
その後、工芸家ルスタフ殿(これも違うと否定される。どうも分からない…)が作った耳栓の素晴らしさに、さすがはコウ殿御一行だと感心したのだ。
しかし、翌朝池の周りでコウ殿と土地神様のパーティが開かれて、気を良くしたコウ殿が再び演奏したらまたもや『ザサール』様が現れた上、踊り城が少し沈下したのは肝が冷えた。
反省したコウ殿が。くどくど『ザサール』様に説教をしていたが、学んだ私はそれをスルーした。
隣でスタンが良くできました的な笑いを浮かべていたので、苦笑いとなる。
コウ殿特製の朝ごはんの席での事だ。
因みに、浮上した城の中は全て真新しくなったのにはさすがのスタンも驚いていた。
『恩返しに終わりなし』
この諺を思い返しながら、王たる勤めを果たそうと改めて決意を固めた。