狐の怒り?
ーマーラ視点ー
真っ暗闇に佇むも、身動きひとつ取れないままで不安も高まる。
コウ殿は?皆んなは?
考えるも、光の大切さを思い知るばかりで何も出来ずにいたら…
ボウ。
リーが光を灯したようね。
光は、我々の心を支えるのかもしれない。
ようやく周囲を見渡しす余裕が出たもの。
でも、ここは、いったい…
狐の行列は既に無いが、見渡せるのは周囲2.3mくらいで不安解消には覚束ない。
どうしたのだろう。
リーの出した光が届く範囲が限定され、周囲の景色を見る事が出来ないとは。
彼女は大変器用な魔法使いで光を灯すことなど簡単であるはずなのに。
我々の周りは未だ真っ暗闇のまま。
あぁ、そうね。
私達は主様に見通す能力を封じられいるのだわ。
だって、あの時の狐の行列からはコウ殿に対する主様のお怒りを感じたもの。
異空間である行列が割り込んだ為、爆発的風圧が生じてウィンゲルドではきっと被害が出ているわ。酷くなければいいけれど…
まぁメルセデス王がおられたから、事態の収拾はついているわね。
ラオやウェスさんは、周囲を伺っているわ。
リーはコウ殿の側にしゃがみ込んでるけど。
ジッとして動かない。
どうしたのかしら?
まさか…コウ殿の身に何か!!
急いでコウ殿の側にしゃがみ込んで聞こえてきたのは。
グーグーグー。
え?イビキ?
私の目には、地面の上でニヤニヤ笑いながら寝ているコウ殿を発見したわ。
もちろん、イビキ付きで。
ふー。びっくりした。
何よ、リー。笑いを堪えてたの。
びっくりさせて!!
我々の警戒が緩まったその時を狙ったかのように主様の声が響いた。
「起きるが良い。コウ。こら、起きよ、コウーー!!ええい、いい加減にせい!!
我の言葉を応えて起きよーーー!!」
。。。
最後には、主様の怒りが爆発してたわ。
あれば本気の怒りだと思うの。だって、私の身体中の毛穴が一斉に開いたから!
ところが…
「もう、食べれないよ…ふふふ。」とコウ殿。
…寝言なのね。
ここに至っても、やっぱりのマイペース。
時を選ばない。空気を全く読まない。
コウ殿は変わらずね。
「起きよーーーーー!!!!」
主様渾身の叫びに目をこすりながら、半身を起こして寝ぼけたコウ殿が一言。
「もう朝なの?
俺…眠いんだけど。」
あれはまだ寝ぼけているわ。
不味いわね。主様の怒りの波動が増したわ。
息が苦しいもの。
殺気を感じたのか、リーもラオも構えているわ。ウェスさんは、さすがの暗部出身。
気配が全く無い。
「クゥー!!
お前には今の現状が分かっているのか!!
まぁ良い。聞いておらずとも約束を破ったお前を許す訳にはいかぬ。
まぁ、許しを請うつもりがあればこの森を抜けて参れ。
その時ば少しば考えでやるわ!」
焦れてるような声色の主様の気配が消えた。
私達はやっと息を吐き出し、肩を落とす。
凄まじい気に触れ、皆疲れ気味だ。
でも…
最後までお姿は拝見出来ずじまいだったわ。
それだけ、怒りが強いと言う事なのかしら?
主様の気配が消えた途端、ようやく周りの風景が見えたわ。
森のようだけど、尋常じゃない力を感じる。
危機感から全員が戦闘態勢に入ったその時、コウ殿がようやく目を覚ました。
「うーん。よく寝た。
あれ?
何か怖い夢見たような気がするけど。
そう、狐の行列とか…やっぱ夢オチかぁ。
ねえラオ。何でここにいるの?後の皆んなは?
あーー!!
利き酒大会は?」
ラオ殿が粗方の説明をした。
不服そうな顔で説明を聞いたコウ殿はポツリと言ったのを私は聞き逃さなかった。
『なんだよー。狐め。寂しがり屋なんだから。
なぞなぞ出すなんて、お茶目か?』
ナゾナゾ??
寂しがり屋??
コウ殿の通常運転に触れ、吹き出しそうになった私の肩の力が抜けたわ。
でも。この森は人間にはかなりの圧を感じる場所。
まあ、コウ殿以外はだけど。
そのコウ殿ときたら…
「よーし!狐のお誘いに乗って楽しもうよ。」
だもの。
お陰で皆んなの肩に掛かった重圧が消え失せた様ね。
それでも、魔力を感じる私達の警戒心は最高値であるのは変わりないけれど。
「そうだ。何かお腹空いたから食べながら歩こうよ。俺、食べ歩きにぴったりの料理を開発したんだよ。」
コウ殿が取り出したのは、ヒラヒラした何かだ。
『クレープ』
説明は聞いたけど、さっぱり理解出来ない。
更によく聞けば。
「だから!
小麦粉を薄ーく焼いて色々なものを挟んで食べるんだよ!持ち歩きに便利だろ。
ほら、食べてみてよ!!」って。
理解出来ない私だけど、コウ殿の料理は絶対の正義よ。もう、食べてみるに限る!!
見たことのないヒラヒラを口に入れたら…
甘い!!
果物を挟んで食べるそれは、格別で。
私…これも大好きかも。
ラオ殿のは、肉や野菜を挟んでいるようで「美味い!美味い!」を繰り返している。
は!こんな場合じゃないのに、またもやコウ殿に巻き込まれているわ。
グォーー。
何!!
不気味な音が辺りに響き渡りハッとした。
よく見れば周りの木々に異変が!!姿を変えている??
しかも常識ではあり得ない姿に。
何と、木に目と鼻があるように見える?
。。。
目が動いたわ…
い、生きてるの??
あちらこちらの木が目覚めるように、目を開けこちらを睨む。
目線の先には…
コウ殿が…危ない!!
危機感の全く無いコウ殿が木に近づいたその時、木が大口を開けた!
一斉に攻撃体制に入る。
リーが氷魔法を!
私が火魔法を!
そして、ラオ殿とウェス殿は剣を構えて!!
しかし、なんと襲いかかった木は、コウ殿が取り出した串焼きをコウ殿と間違えて食べたのだ。
うぐっ。
苦しげな声がした。
え?もしかして串焼きで?やっつけたの??
こちらを見たわ!!
来るか!!
ウェス殿がコウ殿の前に立ちはだかり庇う姿勢になる。
まぁ、ご本人は袋を覗くのに忙しくて周りの状況に気づかないけど。
あっ!
次から次へと袋から食べ物が飛び出してる。
(整理整頓が苦手なコウ殿は度々やっているのをみるけれど。)
すると、
何と周りの木々がどっと近づいて来て溢れた料理に食いついてる??
本当よ!木が歩いて近づいて来てはパクンと。
まさかのファン増産なの?
コウ殿の料理にやられた仲間なの?
(どこまで人を魅了すれば良いのかしら?最近は人以外もドシドシ魅了してるみたいだしね。)
あー、完全に懐いたわね…
まあ、予想通りと言うか…異常事態と言うか迷うけどコウ殿の料理が木を生まれ変わらせたのね。
お陰で、主様の怒りの波動もだんだんと弱まっているみたいで。
「あれ!マーナあれを…」
周りを伺っていたリーから声を掛けられて横を見れば、またもや景色が一新していた。
そう。
探し物が見つからないコウ殿が唸っている間に、まるで左右の木々が花道のように開いて。
出口の光が見える、大きな道が出来ていたなんて。
木々は枝を伸ばして、我々を導くように先へと誘う。その頃にはすっかり元の木に戻っていたが、その様子からは親しみすら感じられ戸惑いも覚えて。
「あー。やっぱり見当たらないや。
ここは、ミルクティーだと思ったんだけどなぁ。」
ぶつぶつ言いながら顔を上げたコウ殿は先が見えたのを見て「あ!見つけたよー!出口だ!」と言うなり駆け出した。
ラオ殿がすかさず、後を追う。
ラオ殿…やっぱり慣れているわね。
やっぱりコウ殿の手綱を握れる男は、ラオ殿ただ一人ね。
出口から先の拓けた場所に狐がポツンといるのを見つけたわ。
その様子は、怒れる主様と言う雰囲気は全く無く、コウ殿が言われた『寂しい』と言う単語を思い出した。
「ただいまー!
お土産持って来たよーー!」
コウ殿が主様目掛けて手を振っているのが見えた。