聞き酒大会って字が違うから!
ーコウ視点ー
『ウィンゲルドー聞き酒大会ー』
。。。
俺は今、この看板を見上げながらどうしてこんな大ごとになったのかと考えていた。
だいたい、字が違うし!
何?聞き酒とか?利き酒だって説明したのに、オリドさんが曰く…
「ネーミングセンスが皆無ですね。
いいですか?
『酒の声を聞く』
この不思議感が心を揺さぶるんです!!」
おかしいでしょ!!
最初は、ゾーケルさんとオリドさんの仲直りの為だったのに。
「何でぇ。意味不明だなぁ。ちゃんと喋れよ!」
って言うゾーケルさんの失言に俺は必死に言い返したよ!!
利き酒の意味は、様々なお酒の紹介を兼ねた楽しいものだと。
そしたら…
うん。忘れてました。
ゾーケルのオヤジは無類の酒好きだという事を。
あー、それにオリドさんは無類の商売好きなんだと。
そして、何故だかメルセデス王も参加すると言う国挙げての大会に…
あー、ヤケクソだーー!
もう俺の果樹酒を一挙大公開と行く。
例え、王様のお口に合わなくても、
盛り上がらなくても責任はオリドさんでOKだね。
。。。て、思った俺もいました。
ふふふ。
もう昔の話です!!
だってさ。何…この群衆は?皆さん、どちらから見えました??ウィンゲルドだけじゃ絶対ないよね!
それに、この大歓声とかも恥ずいし。
しかも、参加者に知り合いが大勢見えるんですけど。
まずはゾーケルさんとオリドさん。
続いては、無双騎士団から参加者数人。
(何でも選りすぐりらしく、勝ったら二階級特進とか…マジか…)
そして!
極めつけはメルセデス王でしょ。
(普通は審査員っしょ!)
そして、懐かしい隠れ里のフィオンとハリソン。
もう、びっくりしたよ。
どうしているのか尋ねたら…
何でもウィンゲルドに取れた果実を売りに来たとか。久しぶりだね!って近寄ったら急に抱き着かれて潰れるところだった。
相変わらず怪力…。
そしてなんと!ヨーゼストからマーラさんとリーさん。
追いかけて来てくれたらしい。
ゼンさんが来たかったらしいけど、まだ新種に対する警戒してるとか。
その他に、俺の仲間達も参戦してる。
ラオと、ウェスさんだよ。
さぁて。出すぞーー!!
木苺酒・レモン酒・バリー酒・桃酒・林檎酒・プラ酒(蜜柑)・びわ酒など。
その他、ビールや日本酒も用意して。
それぞれのツマミは、有料だよ。
参加費は、オリドさんに断固反対して無料だよ。
試飲ってそんなものだよ。
。。。
あれから2時間。
予想通りです!!
単なる飲み会になりましたよ。
名乗り出た皆んなは、めっちゃ酒豪ばかりで空き瓶を袋にしまう手間が大変!!
あれ?
キャーって悲鳴が聞こえて来た??
何?
もしかして、アルコール中毒?
急いで駆けつけて、俺は絶世の美女に出会いました。
もしかして運命的な出会いとかかなぁ。
真っ赤になる顔を押さえながら俺は考えた。
どこから来たのかとか、ちょっと声掛けてみようなかぁとか。
。。。
あー、そうです。
忘れてました。俺りゃヘタレだった。
無理!声かけてなんて、む…?
「だからコウ。聞こえてるか?
この二人はマーラさんとリーさんだよ。
あの木苺酒の効果なんだとカリナが言うんだから間違いない。
お前…若返りの酒作ったのか?」
振り返れば、ラオだ。
えー?
何か筋肉がマシマシの様のラオは、男前な感じもマシマシで…う、羨まし…くなんて無い!!
「コウ殿。これはベリー酒の効果です。
この果樹酒はどうやら不思議なこと効果があるようで。但し、一定量飲まないと無理の様です。」
カリナが耳元で囁く。
マジか…。
しかし。あの美人があの二人とは…。
俺の夢の時間を返してくれー!
しかし、二人は本当に美人だったんだなぁ。
よくマーラさんが「昔はとびっきりの美人だったのよ!」と自慢してたのは、単なる昔の幻では無かったのか…。
二人は嬉しそうだなぁ。
しかし、何であんな効果とか付いたのか?
「コウよ。オメェこの酒は凄すぎるよ。
こりゃ聞き酒どころじゃねぇよ。」
??
「あのー。どなたですか?」
「馬鹿やろう!俺だよ。何だよ、お前までよー。
俺ワカンねぇとか。クーパーが馬鹿なだけじゃねぇのか?」
えーー!!!
まさかのゾーケルさん??
この美丈夫のイケメンが?
混乱して頭を抱えていると、歓声が突然消え去った。
まるで、誰も居なくなったように…。
振り返って俺は固まった。
聞き酒の会場は見当たらないとか。
皆が倒れてるとか。
それは小さい事だった。
何故なら、目の前に左右に真っ赤な行燈が灯った一本道がまっすぐ伸びていたからだ。
まるで神社の入り口のように…だ。
しかも、その場に立っていられたのは俺の仲間のみで。無論、誰も動かずにだが。
すると…
カンカンカン。
道の向こうから、音がして来た。
怖い。本能的に怖さに身が震える。
だが、そんな俺をよそに音は段々と近づいて来る。
逃げ出した気持ちはあれど身じろぎひとつ出来ずにいた。
音が近づくと、何か見えてきた。
あれ…何?
それは…
赤い尾籠を担いだ狐の行列。
まるで俺に向かって進んでいるように見え、俺は、ショックで腰が抜けた。
座り込む俺に、先頭の提灯を提げた狐が言う。
『お迎えに参りました』
ゾゾゾ。
背中に寒いものが走って、後ずさりしたけどそんな事は相手にされず。
そのまま狐に担がれて、赤い尾籠に!
あぁ。
良かった。
このままブラックアウトで…。
俺は、籠に乗せられる前に夢の中へと逃げ出したから知らなかった。
この行列が踵を返して、戻る最中に体が動いたのはラオとウェスさん。そして…マーラさんとリーさんの4人だ。
やがて、帰って行く籠と共に提灯も消えて。
後には大会の残骸と倒れた人々が残った。