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ドルゼ村のある少女の証言より

 ードルゼ村のある少女の証言よりー


 本当なんです!!


 あれは、この辺りに闇影獣が出たせいで街道の封鎖が始まった時の事です。

 運悪く、村では風邪が大流行して倒れる人が沢山出ました。

 更には街道の封鎖により食糧難になり。


 母がある朝私に言いました。


「ベレッタ。貴方の今日のご飯は無いの。

 明日になれば、きっと。」


 私は驚きました。

 何故なら、もう3日も1日一回の食事。

 しかも、とても少量でお腹が空いていたからです。


「お母さん!きっと明日も無理よ!!」

 半泣きの私に宥めるように母が言いました。


「いいえ。バレットさんが街道を封鎖している兵隊さんに事情を説明して買い出しに行ってくれるから。」


 バレットさんは、村長さんのご長男。

 私は、僅かな希望を胸にぺこぺこのお腹を抑えて我慢しました。


 しかし、私はその後驚くべき体験をしたのです。


 バレットさんは、何故か旅人と一緒に早々に戻って来ました。

 駄目だったんだ。

 村中の落胆の声が聞こえた気がします。


 その上、旅人まで。

 宿屋も閉まっていて、ご飯も足りないのにどうするのでしょうか?



「あー、こりゃ大変だ!

 カリナ。まずは風邪の治療からだな。

 俺はお粥やその他元気な人達の食べ物を出すから。」


 旅人の中でも、ひときわ若く小柄な青年がとんでもない発言をしました。


 ふふふ。

 この村の人数を知らないのかしら。


 私は少し可笑しくなってしまいました。



 ところが…。


 旅人達は、手慣れた様子であっという間に村中のご飯を次々と魔法のように出して行きます。


 そのご飯の美味しい事!!!


『おにぎり』と言うかご馳走を食べた私の目には、自然と涙が溢れてきました。


「これ!お味噌汁がなきゃ美味しさ半減だよ!」

 そう言ってお椀を差しだしたのはあの青年です。


 可愛らしい笑顔でお椀を配っています。

 グゥー。とお腹が鳴ったのも聞かないふりをしてくれました。


『おにぎり』と『お味噌汁』のセットの美味しさを私は生涯忘れないでしょう。

 飢え死を何度も考えた日々。


 旅人はそれだけではありませんでした。

 お連れの大柄の女性は、な・ん・と!!


 神官様!!


 私など一生お目にかかる機会とてないと思っていた方です。

 治療を次々とこなす様子に、カッコよくてつい見とれてしまいます!!


 しかし、まだ我が村の悪運は続いていたのです。


 闇影獣の襲撃です。

 しかも、大量の闇影獣。


 このような小さな村の場合。

 大抵は…全滅。


 この世のものとも思えない美味しいものを食べた後なのに、なんて皮肉な世の中。

 悔しくても、怖くてもなにも出来ない自分がいます。


 ところが。

 奇跡がまたも村を救ったのです!!



 旅人さんは、なんと騎士やギルドの方など大変な方たちだったのです!!


 絵本やお話では何度も何度も読みました。

 カッコいい騎士の英雄譚。

 ギルドの冒険記。


 それが今、目の前に。

 恐怖を忘れてただ見つめていると、戦いの状況を見ていた村の若者からこんな言葉が。



「おい、不味いぞ。

 大量過ぎて、手に負えないかもしれない。

 アイツら普通と違ってどこかおかしい。

 狂ってるみたいな戦い方なんだ!!」


 固まって避難していた村人の顔色が一斉に悪くなりました。

 チラホラ聞こえていた話し声も一切なくなり静まり返り、悪い想像ばかりが皆の脳裏に浮かんでいました。

 もちろん、私もです。



「終わりましたよ。さあ、もう出ても大丈夫です。」


 えっ?

 何の音もせず、一瞬で終わった??


 キョトンとしたのは、私だけではありません。

 しかし、本当に戦いは終わっていたのです。

 そして、


 お別れの時が来ました。

 村人打ち揃ってのお見送りです。


 命の恩人。

 我々は、決して忘れる事はありません。


 ところが、この話には続きがあったのです!!


 それはお土産にと、頂いた『入浴剤』『防虫煙玉』です。

 しかし、この話はあの方々が再びこの村を訪れてくれた奇跡に比べれば微かな事かもしれません。



 コウ様御一行。



 ご到着の喜びが村中を駆け巡りました。



 ーコウ視点ー


 あー。疲れた。

 最初はさ!『ダンゴムシ?』の踊りで少しは笑えたけど後の乗馬は辛かった。


 まぁ、ラオに頼んで乗せて貰ってる身で言い難いけど、さ!


「そろそろ休みにしますか?」

 ラオの声にスタンさんが答える。


「この先に、以前泊まったドルゼ村がありますから今日はそこに泊まりましょうか?」


 あーー、有り難い!!

 やっと強行軍の鬼スタンさんが、優しくなったよ。


 俺の尻の状況を知ってたか?

 もう、限界だって。


 はー。宿屋は魅力的。

 野宿の数倍、いや数百倍素敵だ!!


「はー。コウは相変わらず大袈裟だな。」

 む!苦笑いのラオに腹立つけど馬の上では不利!


 今度嫌いな物を食事に混ぜて…あ!

 好き嫌いなかった…くっそー。

 完全無欠型、イケメンめ!



 しかし、ドルゼ村とは懐かしい。

 入浴剤作ったよなぁ。


 そうだ!びわ茶をご馳走しよう!

 お土産に貰ったのを俺が手作りしたんだよ。

 そうそう、ジャムやコンポートもあるし。


 村の女の子達は、素直に俺の料理に感激してくれるから、ちょっといい気持…いや、違うよ!

 ヨコシマとか、イヤラシイとかじゃないから!


 はー。はー。


 そんな馬鹿な事を考えていると村の入り口が見えてきた。

 見えて…???


 あれ?

 なんか違うな。


 門構えがおかしいよ?



『温泉の町、ドルゼ村へようこそ!』


 何?あの看板??



 中に入って、更にびっくり。


 一大観光地化してた。


「お久しぶりです。コウ様御一行の皆様。

 再びのお越しに村人一同胸を熱くしております。」


 大歓迎だな。

 おー。次から次へと村人が湧いてくる?


 その夜は、村長さんの新しいお家に泊まったよ。

 大歓迎でさ。


 そこで俺はお待ちかねの質問タイムとしたよ。

 だって。


 温泉の町とか、観光地とか。

 どしたの?

 温泉…湧いたのかなぁ。


 そうしたら、村長さん曰く。


「何を仰いますやら。

 コウ殿の下さった『入浴剤』を入れたら、次の日もまた、次の日も風呂の湯は温泉状態になりまして。


 闇影獣との戦いで出来た村の外れの大穴を使って、お風呂を作りましたのです!!


 そこへ『入浴剤』を投入した訳ですよ。」



 な、なんとーー!

 ふふふ。

 そんな訳あるか!!


 まぁ、恐らくその穴に温泉が湧いてたんだ。

 いやぁ、偶然って恐ろしい。


 まぁ、皆んなの夢は壊さないで、と。

 お?保身?違うってー!


 まぁ、その夜俺も温泉に浸かったよ。

 物凄く〜いい湯だった。


 と、なればあれ!


 俺のびわ茶などを出して。

 観光地には、名物は必然よ。


 あの後、俺の真似をして葛湯を作ってる村人を見て思いついた訳。


『わらび餅』でしょ。

 ここは!!


 温泉の後に『わらび餅』も良いじゃない?


 物凄く喜ばれたから、ちょっと尻の痛いのも忘れたよ。



 だから調子に乗って、鬼のスタンさんに言ったんだ。


「この後さぁ。あの山の中の宿屋にも行こうよ。

 女将さんの山菜蕎麦食べたいなぁ。」って。


 完全に油断してたんだ。


 鬼瓦。まさにそんな感じにスタンさんの顔が変わって、即出発!!

 しかも違う道行くらしい。


 うーん。

 何故かラオまで大賛成とか。


 なんでだ?

 もう、俺のお尻の思い遣りタイム終了か?


 はー。

 ボルタ。めっちゃ遠いよ。



 別れ際に女の子からお花貰った!!


 おー?ま・さ・か・の??


 モテモテタイム??

 おお??


「このお花は、食べられるものです。

 良かったら旅の途中でお召し上がり下さい。」


 ガッカリしてもいいよね。

 ははは。


 とにかく、女子に花を貰った事実はある。


 俺は開き直って「ありがとう!」

 と激しく手を振って別れた。


 ラオの同情的な目なんて見ないから!!




 そんな俺には女子の交わす会話は全く聞こえなかったのだ。



「ほら、やっぱり伝わらないじゃない。

 思い切って告白すれば良かったのに。」


「無理よ。大恩人にそんな事。

 村に伝わる言い伝えをちょっとしただけよ。」


「あーあれ?確か…『旅人に花を贈る時、旅人の無事を祈る者なり。その花を受け取った旅人は幸福な旅を約束される。』だっけ?」


「続きがあるのよ。

『その旅人。再びかの地を訪れる者なり』って。」


「。。。」


「。。。」


「。。ま、次にかかる気合は良かったわよ?」


「。。う、うん。」



 コウは、その後『花のジャム』を作ってそれが大評判になったのは、まだ先のお話。


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