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レイバン視点

 ーレイバン視点ー



 テーレントは、確実に狙い撃ちとなっていた。


 ま、そうだろう。

 俺たちトラッドは、かなりの戦力を有するが元々遊牧民である各部族はバラバラであるがゆえに狙われやすい。


 防虫煙玉を配るも、対処能力不足により幾多もの部族に被害が出ていた。

 しかし、我がトラッドとて例外ではない。

 長く続く戦いは、移動の連続でしかも成果は薄い。

 敵は何処からでも沸いて出るからだ。


 希望の見えない戦いは不味い。

 不味いが、だからと言って手もない。



 そんな時だ。


 新種が突然、戦い方を変えてきたのだ。


 それは戦力の分断。

 トラッドの仲間達がバラバラにされ、狙い撃ちになるという事が続くではないか。


 その度に『厖』の気を放ち防いではいるが、それもいつまで保つか…。



 そして、遂にその時が来た。

 後手後手に回る体制が、最悪の事態を招いたのだ。


 それも向こうの作戦だっただろう。

 幾晩も連続して戦い、疲労困憊していたところを狙われたのだ。


 そう。俺狙い…。


 新人を庇っているうちに、俺だけが取り残される事態に!


 この好機を敵も逃す筈もなく、かなり大型の闇影獣に囲まれて『厖』を放ち続ける羽目に陥る。

 かなり疲労困憊していたが、隙間が見えチャンスと思ったその瞬間!



 それは起こった。



 あれは、緑のフワフワした闇影獣だったと思う。

 何故かソレに囲まれた途端に意識が遠のいた。


 不味い…このままでは攻撃を避ける事が出来ない!!


 幾多もの打撃に身体が悲鳴を上げる。

 そして、痛みが更に状況を悪化させる。


 俺は…ダメなんだ。


 生命の危機的状況は許されないんだ!!



 だが、緑の奴らがその思考をも奪う。



 痛い…このままでは…。




 あーーーー!!!!



 決定打が入り俺の意識が完全に途絶える瞬間に



 ピィーーーーーーー!!!



 その声は…ザルドだった。

 声が聞こえて、微かに意識が戻る。


 もしや、コウ殿が近くに?

 希望は力を与えてくれた!



 身体中の気を込めて…。


 放ったのは…『満』!!!



 最大の攻撃である『満』なら闇影獣は殲滅出来る。

 但し、その代償は大きいが。



 命の炎を使い尽くすこの『満』に殊の外満足してそのまま倒れた。



 これでいい。これで…(終われる…)




 次に目が覚めて、身が震える程の恐怖が襲う。

 何故なんだ?

 何故目が覚めたのだ!!俺はあのまま…(終われるはずだったのに)



 側にある主様の気配を感じるも、既に目を開ける事も叶わない身となり『獣への覚醒』を防ぐ手段とてない。


 あぁ。

 やはり、親が俺を殺そうとしたのは正しかったのか。

 獣となって同族を、人間を襲うバケモノとなるのか。



 必死の修行も、育ててくれたトラッデの前の長の思いも、全てが無駄とは…。



 絶望感は覚醒を早めると理解しても、どうしても湧き出る。


 もし、御神木さえあれば。御神木のお力を貸りて我が身を!



『レイバン!待ってて』



 ??


 この声は、まさか…


 封印されたこの空間に届いた声は…


 コウ!!!



 時折聞こえるコウの声に最後の理性を振り絞る毎日となる。


 主様が時折、

『お前もダメなのか。お前ならもしやと期待したが。』と呟くも意味は理解出来ない。


 それほど覚醒の時は迫る。



 そして最後の夜…

 コウに礼をと、思うも力が足りない。

 言葉は届いただろうか?



 間に合わない俺を。

 トドメを刺して欲しいと辛い願いを隠して礼をしたつもりだ。


 届くと良いが。

 せめて、一言だけでも…。人間である間に…。


 コウに牙を剥く自分を想像し恐怖したその時、完全に意識が消え失せた。




 真っ赤に燃えるような焦燥感ばかりが身体中を駆け巡る苦しさを踠いていた俺は、ある時自分の爪から熱い何かを感じて、我に返った。



 我に返った?

 そんな…あり得ない!!!



 目を開けて見たものは、酷いものだった。


 本性のみと成り果てた俺は、予想通りコウの足を爪で傷つけコウの足からは、血が流れていた。



 コウ!!


 コウを傷つけたショックよりも、血の熱さが身体を駆け巡り意識が保てる事に気づいた。



 これならば…


 御神木の気配を感じ希望が灯る。

 あそこは行けば…コウを傷つけない。


 俺は、『獣』にならない!!



 必死に歩くが身体が重く思うように動かない。


 必死なコウの叫びを聞くも止まる選択肢は無い!!


 ♪♪♪〜



 あの音は?



『モーリフ』



 我が分身のモーリフの音がする。


 トラッデの長に代々伝わるその楽器は、長く俺の苦しみを助けてくれた。



 最後に聞けた喜びに俺が浸っていたら身体中に痛みが走る!


 何が?

 どうしたんだ?



 御神木に身体を貫けたのか?

 もしや…主様か?



 気がつけば俺は、『俺』だった。



 それは…

 夢にまで見た『獣への覚醒の克服』!!


 テーレントの夢!!


 長い間の選ばれた者達全ての夢!!



 は!!コウは?


 人の足で懸命に怪我をしたコウへ駆け寄るも暫し、戸惑う。


 。。鷲の姿で襲いかかった俺を忌避するかもしれないと。。


 近づいて良いものか。


 笑顔を作りゆっくりと近づいて、コウを見て固まる。



「レイバン!」



 喜びいっぱいのコウの笑顔とその呼びかけに、俺の笑顔の強張りも解けた。




『ありがとう。』



 その言葉以外の何も持たない。



 全ての思いを秘めて、俺はコウへと近づいた。




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