森の外れの食堂で
新しく投稿始めました。
視点がよく変わる作品となっております。
よろしくお願いします。
俺の記憶があるのは8歳からだ。
なぜなら、高熱を出して前世とやらの記憶を取り戻したからだ。
だが、記憶と言ってもその世界の常識や風景くらいで何処の誰とか、なんで転生したとかは思い出さなかった。
俺に両親はいない…らしい。
拾い親のラドフォードがそう言ってたからそうなのだろう。
8歳の癖に、あまり寂しく思わなかったのをラドフォードが苦笑しながら眺めていた。
俺とラドフォードは、二人で森の外れに暮らしていた。
何か事情がある様子のラドフォードに詳しくは聞いた事もないけど人里離れた場所が良かったようだ。
そんな訳でここは近くの町から馬なら1時間・馬車なら3時間の場所にある。
現在18歳になった俺は、ここで食堂を開いて暮らしている。
そしてラドフォードは、食堂を開いて間もなく旅に出てしまった。必ず帰ると言い添えて。
ひとりぼっちだが、毎日通ってくれる素敵なお客さんに囲まれて何とか食堂を続けて行けるのだ。
遠くまで来てくれるお客さんを今日も感謝で迎えよう。
朝一番乗りは、いつものプレストンさんだ。
69歳と言う割に、今だ現役風の美中年のプレストンさんは開店当初から通う大事な常連さんだ。
「おっ。今日は紅茶だな。うーん、いい匂いだ。」
プレストンさんのお気に入りは、カウンターの一番奥。
5席あるカウンターには常連さんがいつも決まって座る。
あっ!もう来た!
奥から順に紅茶とパンケーキを出す。
あまり甘くしないのが俺流だ。
ハムやサラダもつければ今日のモーニングの出来上がり。
プレストンさんの隣には寡黙なレイバンさん。
凄く無口だけど食材を分けてくれる大切な人なんだ。
その隣が仲良しお婆さんのマーラさんとリーさん。
最後の席は、可愛らしいナット少年だ。
皆んなが幸せそうに頬張る瞬間が俺の朝の風景だ。
─プレストン視点─
「やれやれ。朝一からこれは濃いな。」
わしの一言にマーラが食いつく。
「あんた、文句があるならその席を譲りなさい。
どれだけの人間が待ってると思ってるの!」
コウが居ないとマーラの本性が出る。
いつもはお人好しのお婆さんらしく見せてるがな。
「お主も感じておるだろう。
このパンケーキは回復草の三倍。紅茶は気力増強。
更にハムもサラダも付加ありだ。
今日は一段と凄いではないか?」
この店の店主コウの作る料理は『付加料理』
そのスキルは本来なら、国宝級。
だが、本人は何度話しても笑い話と聞き入れない。
そこで我らがこの店に入る人間を厳しく吟味してコウを守ろうと決めたのだ。
まあ、コウは全く関知してないがな。
その為、カウンター5席は『スペシャル指定席』と呼ばれておる。
おっ、そうだ。
美味しさでも、レパートリーでもコウは随一の料理人だがな。
訳あり客がまた、やって来たわ。