第八十三話・最終話・ちいさくて大きな幸せ
いつもお読みくださっていた皆様、どうもありがとうございました。この作品執筆を通して、人間的にも物書きとしても、少し成長できたような気がします。この経験を生かして次回作でも頑張りますので、これからもよろしくお願いします。
ゲームをクリアし、現実世界に戻った富樫は、自分がコンビニの自動ドアを出ようとしている瞬間であることに気づいた。
「も、戻ってきた!」
背中にはリュックを背負い、右手には冷たいお茶とアツアツおにぎりの入った2つのコンビニ袋、左手にはドイツ軍制服の入った手提げ袋を持っていた。
「そうだ、あまちゃん!」
振り返ると、レジの前であまちゃんが顔を手で覆って泣いている。店長がその横でおろおろしていたが、富樫の視線に気づいてびくっとした。富樫はレジに歩み寄り、店長とあまちゃんに言った。
「あ、あの……、すみません、ちょっと言い過ぎました。ごめんなさい」
深々と頭を下げる富樫。そんな富樫の変化に、一瞬驚いたあまちゃんであったが、彼女は大人の対応をした。
「い、いえ、元はと言えば、おにぎりをちゃんと温めなかった私が悪いんです。すみませんでした」
逆にあまちゃんに謝られ、頭を上げた富樫が言った。
「あまちゃん、いや、天木さん」
「はい」
「俺のおにぎりを二度とあっためるなって言ったけど、あれは忘れてください。明日からもずっと、俺のおにぎりをあっためてください」
泣き顔だったあまちゃんが、一瞬ぽかんとした表情になり、その後笑顔になった。それは富樫が初めてみた、リアルあまちゃんの笑顔であった。
「あは、なんだかプロポーズみたいですね」
照れくさそうに頭をかきながら、今度は店長さんに向いて謝る富樫。
「店長さんも、すみませんでした。俺、コンビニのこと全然知らなくて」
富樫のあまりの変化に驚いていた店長だが、その富樫の言葉でピンと来たようだ。笑顔になって言った。
「そうか、コンビニ妖精のセファちゃんに色々教えてもらったんだね。それはよかった。今バイトが足りてなくて困ってるんですよ、よかったらうちで働いてください」
「は、はは、考えときます」
瞬間、あまちゃんの顔がぱっと明るくなった。うれしそうなあまちゃんの期待に応えるために、ここで働くのも悪くない、店長の愚痴の聞き役は、もう御免だけどな、と富樫は思った。
最後に深々とお辞儀をして、富樫はコンビニの出口に向かった。クリスマスソングが流れ始め、開いたドアの向こうにちらちらと白い雪が見えた。魔法を駆使して戦争を平和に導いた富樫。そういった世界平和も重要だけど、一人ひとりのちいさな幸せも、同じくらい大切なのだ。業務用電子レンジマスターとなった富樫は、これからどう自分の幸せを築いていくかを考えた。
「そうだ、久しぶりに親父とお袋に会ってこよう。その次に履歴書を書こう。あと、あまちゃんへのクリスマスプレゼントを準備だな」
コンビニを出て、歩き始めた富樫を、上空からセファとサファイアが見つめていた。冬用のサンタ服に着替えたセファは、うんうんとうなずきながら、富樫を見送った。
「さあ、クリスマスに向けて、コンビニとあたしたちも忙しくなるわよ!」
「うっぴいいいいい!」
(終わり)




