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第八十二話・にゃおーんのポーズとあまちゃんコピー

「お、そうだ」


 富樫は背中のリュックに刺した筒を取り出し、その中にエリスからもらった2枚の証状を入れた。ついでに、中に入れてあったセファの絵を取り出して、エリスとセファに見せた。


「これ、ハイデルベルク城で、エリスからもらったものだ、懐かしいだろ」


「そ、それは! にゃおーんのポーズ!」セファが顔を真っ赤にしてうろたえた。


「にゃおーん? なんだそれ」富樫は絵をまじまじと観察した。



 その絵のセファは、裸でベッドの上に座っていた。膝をついて、両手を猫みたいにあげて、にゃおーんっと叫んでいるかのようなポーズが、とてもかわいくかけている。空中には、羽衣とリボンをつけたサファイアも飛んでいる。セファの髪は赤く美しいショートカットで、ぎりぎり肩までかぶさっている。その胸はまるで少女のようにつるぺただが、さわやかなエロスを感じさせる。視線を下に移動すると、そのつつましい股間には……。



「エリスったらトガシにあんなものを! もう! エリスったら! エリスったら!」


 セファは恥ずかしさのあまり顔を伏せて土下座のようなポーズをし、エリスの肩をぽかぽかと叩いている。


「い、いや、かわいくていい絵だと思うよ。俺の宝物だ」


はっとした表情で顔を上げ、さらに真っ赤になって顔を伏せて土下座のポーズをするセファ。かわいそうになってきたので、富樫はあわてて絵を筒にしまって、リュックに戻した。


「さ、さて、帰る準備はできたし、そろそろ現実世界に戻してもらおうかな?」


「あ、待って。ここに来るときに来てた服に着替えてね。ドイツ軍の制服とリュックは、記念に持って帰っていいわ」


セファが富樫に、黒いジャージと黒いコート、黒いスニーカーを渡した。



「お、おいお前ら、ここで着替えろっていうのか。かわいい幼女とかわいいニンフの目の前で」


「大丈夫よ、見かけは幼女でも百歳越えてるから」エリスが言った。


「そうよね。あたしも百歳越えてるから」セファが言った。


 正確にはエリスは百十四歳、セファは百六歳であった。おばあちゃんであった。


「くっ! こういうのにあんまり、年齢って関係ねえんだよ!」


 軽く赤面しながら慌てて着替えをすませる富樫だったが、残るはあと靴下一足のみとなったとき、動きをぴたっと止めて言った。



「これが終わったら、もうセファやエリスには会えないのかな」



「そ、そんなことないよ! あたしはあのコンビニをいつも巡回してるから、見かけたら声をかけてくれればいいよ。エリスに会いたかったら、ハイテクプリズンに入ってもらえばいいし。大丈夫だよ」


「そうか、よかった」富樫は靴下を履いて、立ち上がった。



「セファ、エリス、ありがとうな、本当に勉強になったよ」


「お疲れ様、トガシ」とエリス。


「お疲れ様。向こうにもどったら真っ先にあまちゃんに謝るんだよ。店長さんにもね」とセファ。



「ああ」


「じゃあ富樫をハイテクプリズンから退出させるね。オラオラオラオラオラアア」


 セファが両手を軽く上げ、パラパラ(死語)のような不思議な踊りを踊った。すると富樫の周囲に、レモン色に輝く光の帯がまとわりつき始めた。


「そ、そうだセファ、その踊りは魔法と関係あるのか? 俺は踊らなくても魔法を発動できたんだけど」


「関係? ないよ! 踊りはただのサービスだよ」


「さ、サービスだったのか」苦笑する富樫。



 空間がねじれ、富樫の周りにゲートが出現する。そこに富樫の身体は引き込まれていく。


「じゃあね、富樫!」セファとエリスが敬礼した。


「ああ!」富樫も笑顔で敬礼を返した。




 と、そこで富樫は思い出した。このコンビニ地獄で、富樫に親切にしてくれたバーチャルな生き物、あまちゃんのコピーのことを。富樫はあまちゃんコピーの言葉を、思い返した。



「私はニセモノ。あまちゃんをモデルに作られた、この仮想世界でしか生きられないバーチャルな生き物」


「私は現実のあまちゃんを完全再現しているから、記憶もあまちゃんと全く同じなの。人間のような、感情までは持ってないけど、あまちゃんが何を考えていたか、どう感じていたかくらいは、私にもわかるの」


「駄目よ、私に謝っても。私は絶対に許さないから。現実に戻った後で、本物のあまちゃんに謝って。だって私の記憶や意識は、あなたがゲームをクリアしたら、消えちゃうからね」


「私はこのゲームで、あなたに課題を与えるために作られたNPC。あなたがこのゲームをクリアしたら、もう用済みなのよ」



 あまちゃんコピーは富樫が現実に戻れば消えてしまう存在。だったらどのような思い出を作ろうとも、彼女にとっては無意味なのかもしれない。だがそれでも富樫は、最後に一言ありがとうと言っておきたかった。


(トガシ、聞こえる?)セファの思考共有が聞こえた。


(セファか!)


(うん、こっちの世界のあまちゃんに、トガシのお礼を伝えておくね)


(ああ、よろしく!)


(あと、こっちの世界のあまちゃんは、消去せずにずっと働いてもらうことにするよ。富樫が遊びにくるかもしれないからね。その時にまた会ってあげてね)


(あ、ありがとう! ありがとうセファ!)


よかった。これでこっちの世界の問題はすべて解決だ。あとはあまちゃんに謝るだけ。まってろよ、リアルあまちゃん! と富樫は身構えた。


(続く)

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