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第七十二話・富樫の必殺技

 富樫は東にいるトロールに向けて走った。遠くから見れば豆粒のようにしか見えなかった兵士達の顔がやがて見え始め、その中に富樫は、テオ・アンデルスを発見した。


「テオ!」


 自分を呼ぶ声に振り返ったテオは、富樫の顔を確認するなり不機嫌そうな顔になって言った。


「誰なの? 今は戦争中よ、邪魔しないで」


「あ、ああ、わかってる、俺は助言をしに来たんだ、あの怪物の弱点は、口の中だ、あの口の中に……、って、え?」


 富樫は怪物を指さし、怪物の口を見上げたがその直後絶句した。


「な!」


 怪物は、巨大な鋼鉄製の兜をかぶり、開閉可能なそれを、深々とおろして口と顎を守っていた。テオがまるで解説でもするように、冷静に言った。


「さっきヨナが口の中で手りゅう弾を爆発させて、気絶させたようね。それを警戒して、あいつらは口を兜で隠してしまったようね」


「そ、そうなのか……、意外と賢いんだな、あいつら」


「まあ、あれだけ思考をおもらししていては、気づかない方がおかしいわね」


「おもらし? お、俺の思考共有のことか」


テオの言葉に恥ずかしくなった富樫は顔を赤らめた。


「ええ、でも、セファも最初そうだったから大丈夫、恥ずかしがることはないわ」


 テオは富樫に辛辣な言葉を浴びせつつも、氷魔法でトロールの関節を凍結させたり、風魔法で顔を攻撃して気をそらせたりしていた。しかし――。


「どの魔法も致命傷にはなりそうにないな」と富樫。


「そう言うあなたには、何ができるの?」テオが皮肉で返す。


「俺にか? 俺は、そうだな!」


 何かを思いついたらしき富樫の声の変化に、テオは意外そうな顔をして富樫を見た。富樫は魔法、「紫龍曳航ドラゴンフライ」を唱え、紫色のゲートを地面に出現させた。


「え? 何を?」ゲートに飛び込む富樫を見て、テオが叫んだ。


 ゲートの出口は、トロールの頭上数メートルの所に設定されていた。突如トロールの上空に出現した富樫は、落下エネルギーをため、トロールの頭頂に得意のエルボーをお見舞いした!


「エルボー、スイシーダアアアア!」


 ごきっというものすごい音がした。トロールの肩の上で、富樫が右腕をかかえてうずくまる。


「ぐ、ぐおおお!」富樫は叫んだ。


 直後、しばらく動きを止めていたトロールが、富樫のエルボーによる脳へのダメージにより失神し倒れた。傾いていくトロールの肩から滑り落ち、富樫は地面に向けて落下する。その富樫の身体を、ふわりと風が優しく受け止め、そして富樫はゆっくりと地上に降ろされた。地上にはテオがしゃがみ、富樫を優しく抱きとめた。


「す、すごいわね、エルボー一発であの怪物を」感心した様子でテオが言った。


「へへ、エルボー・スイシーダは、俺の師匠にしてニッポン最強のレスラーの必殺技だからな!」


 そう答える富樫の右腕がおかしな方に曲がっているのにテオは気づいた。


「あ、骨折してる。まってね」


 テオは優しい声でヒールを唱え、富樫の骨折した部分に手をかざした。やわらかい緑色の光が富樫の痛みを和らげ、患部を回復させていく。


「セファみたいに強力なヒールじゃなくてごめんね」


「いや、大丈夫だ、ありがたいよ」


 富樫はテオに抱かれ、安らかな気持ちになっている自分に気が付いた。顔を赤くした富樫は、テオに気づかれないようにそっぽを向いた。


「なんだろう、不思議な気持ちだ」


「え?」


「い、いや。もうヒールはばっちりだ。あのトロールを倒そうぜ」


 富樫は礼を言って立ち上がり、中央に残った1体のトロールを見た。


「残るはあと一匹!」


(続く)

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