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第七十話・富樫、衛生兵として活躍する

 倒れたトロールを、ドイツ軍の工作兵が太いワイヤーで縛り上げているのを見ながら、富樫とヨナは、セファが戦っている中央のトロール目掛けて走った。


「セファ!」富樫がセファに声をかけた。


にこっと笑って振り返ったセファ。その全身の輝きは、さっきよりだいぶ薄れてきている。マナが尽き始めている証拠だ。セファは続けて言った。


「ヨナ、サファイアを助けてあげて。あたしは怪我をしている人に、ヒールをかけて回るから」


ヨナは巨大なトロールと戦っているサファイアを見上げてうなずいた。


「わかった!」ヨナは腰に下げた手りゅう弾を取り、トロールに向かって走っていった。


「ヨナを助けてくれてありがとう」、セファが言った。


「いや、俺は何もしてないよ、あいつが自分で倒したんだ」



 疲れた表情で、再びにこっと笑ったセファが、後方に寝かされた怪我人たちに向かってよろよろと飛び始めた。富樫はセファが心配で、その後について行った。富樫が言った。


「セファ、さっきより光が弱くなってるけど、大丈夫なのか?」


セファは両手をあげて、それをちらっと見た。


「ええ、大丈夫よ、泉の水を飲めば、マナは回復するから」


 セファは腰のトートバッグを開いた。大量の空の水筒の中から、セファはようやく水の入った水筒を見つけ、その中身を少しだけ飲んだ。


「泉の水、もうこれが最後だわ、大切に使わなくちゃ」



 うめき声をあげる怪我人たちのそばにたどり着き、セファがヒールを唱え始めた。セファがピンチだ、俺がなんとかしなければと思った富樫は、ヒール魔法の習得を願いながら、「記憶の扉」の魔法を発動させた。一瞬の暗闇、その後富樫は、ヒールを使う大量のエルフ達の記憶を見せられ、瞬時にしてヒール魔法を習得した。


「セファ、治療は俺がやるよ。だからマナは大切にしてくれ」


「あなたが? ヒールは使えるの?」


「ああ、今覚えた。やってみるよ」


富樫はしゃがみ込み、足を骨折した若い兵士の足に手をかざし、ヒールを唱えた。


「あ、ありがとうございます!」痛みにうめいていた兵士が起き上がり、足をさすりながら富樫に礼を言った。富樫はうんうんとうなずいた。


「ホントに使えるのね、助かるわ。じゃあみんなをお願い。マナが尽きかけたら、遠慮せずに言ってね」


「ああ、まかせとけ!」



 中央のトロールに向けて飛び去ろうとしたセファが停止して、富樫を見た。


「そうだ、ヒールが終わったら、テオを助けてあげて。テオも最近ずっと様子がおかしいの、お願い」


「わかった、心配するな!」


「うん」



 セファが去り、富樫は数百人を超える負傷者の治療を始めた。ホワイトニンフのエリートであるセファのヒール魔法には及ばないものの、富樫の唱えるヒールも強力で、あっという間に浅い傷から深い傷までを癒していく。


 富樫は半分ほどの兵士の治療を終えた。そこで富樫は、見慣れた顔のドイツ兵が、顔面と、肩から胸にかけて大量に出血して横たわっているのを見た。それは、チーム・オランジェの隊長、レオ・ゲオルク軍曹だった。彼はヨナの援護をしていたが、トロールの巨大な斧をまともに食らい、重症を負ってしまったのだ。富樫は祈るような気持ちで彼にヒールをかけた。腕をとって脈をみると、まだゲオルク軍曹は生きていた。富樫はほっとした。


「軍曹、お疲れ様、そこで少し休んでいてくれ」


 さらに根気よくヒールを続けた富樫は、ようやくすべての負傷者の治療を終えた。また、新たに運び込まれた負傷者にも簡単にヒールを施し、ようやく頼まれた仕事を終えた富樫は、ふう、と汗をふいて東にいるトロールを見た。


「あそこにテオが。しかしあの冷静沈着な、かわいこちゃんがおかしいってどういうわけだ?」


富樫は右手を軽くあげ、テオの記憶を読むために、「精神捕縛ブレインキャプチャー」の準備を始めた。


(続く)


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