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第六十三話・ダミーの秘密任務

「今すぐに? でもどうやって!」アレクが富樫の背中を起こしながら叫んだ。


「ふっ、魔法だよ、さっき記憶の扉が教えてくれたんだ。『紫龍曳航ドラゴンフライ』という魔法を。それは周囲にいる仲間と一緒に、イメージした場所に飛べる魔法なんだ。「魔獣転送トランスファー」と違って、人間や、それ以外の生物も一緒に瞬間移動できるすぐれ魔法だぜ!」


「ほう! そんな魔法が!」


「アレク、私もいく必要あるのかしら。私は魔法は使えないし、体はちっちゃいし、力も全然ないんだけど?」


「エリス、君もいくんだ。君は生まれたばかりのセファ君の、数少ない友達なんだ。きっとセファ君の力になれる。それに二人で作った魔法銃エムガンもある。君も戦うんだ」


「わかったわ、しょうがないわね」


エリスは腰に下げた魔法銃を取り上げ、にやりと笑った。


「アレク様、私もいかねばならないのでしょうか?」今度はダミーが疑問を発した。


「もちろんだよダミー。ドイツ軍の勝利を心待ちにしていた僕と君が今前線に行かずして、いつ行くというんだい?」


「そ、それはおっしゃる通りですアレク様」 目を閉じて礼をするダミー。


「よし、じゃあ準備をしよう、みんなそこのヘルメットとリュックを持って、トガシ君はそこの魔法銃を一丁持って。それが終わったらここを出よう。その後必要な荷物を整えて、そして出発しよう」


「ああ、俺の魔法、ドラゴンフライでな!」


「私は特に準備は必要ございません。必要なものか全部この執事服の裏側に」


ジャラリ、という音をたてて、ダミーが執事服をめくった。そこにはショットガンやら投げナイフやら、非常食やらメモ帳やらが取り付けられていた。


「さすがダミー、準備がいいね」


「アレク、私はお泊りグッズとぬいぐるみとセファへのお土産を準備してくるわね」


「お土産?」


「ええ、セファが私の部屋に泊まった時、セファのスケッチをしたんだけど、それを清書して色を塗ったの。友情の印に、セファにプレゼントするの」


「はは、それはいいね」


エリスはアレクとの会話を中断し、富樫に向いてにこっと笑った。


「そうだ、トガシにもセファの絵をあげるわね、失敗作だけど」


「あ、ああ、友情の証だな、うれしいよ」


「そう、今日、出会えたトガシへの、友情の証」


微笑みを表情から消し、じっと富樫を見つめるエリス。そんなエリスの様子に意味深なものを感じながらも、その正体が何なのかまではわからず、戸惑うばかりの富樫だった。


 善は急げとばかりに階段をのぼるエリス、それに続くアレク。残された富樫に、神妙な表情でダミーが言った。


「トガシ殿、さっきの魔法、『精神捕縛ブレインキャプチャー』でしたか、私の秘密にしている思考も、読み取れましたかな?」


「あ、ああ。あんたはドイツ軍上層部にやとわれた、アレクの監視役。いつも携帯している銃は、アレクやエリスがドイツを裏切った時に備えての、銃殺用。そうだよな?」


「え、ええ。やはりエルフの魔法とはすごい。それでトガシ殿、そのことをアレク様やエリスには内密にはしていただけないでしょうか?」


たらり、と頬に冷や汗を流しながら、ダミーが静かに言った。その顔を笑顔で見つめていた富樫であったが、目を閉じて言った。


「大丈夫、問題ない。俺はアレクに告げ口なんてしないし、そもそもだ。アレクはあんたの正体を知ってるっぽいぜ。それを知っててアレクはあんたに感謝してる。ちらっとだけど、そんなアレクの気持ちがさっき見えたぜ」


「そ、そうなのですか?」不審げな表情でダミーは富樫を見る。


「まあほんの一瞬だし、俺の勘違いかもしれない、この戦争が無事終わったら、アレクに直接聞いてみるといいぜ」


「そうですね」


階段をのぼる富樫、ダミーがそれに続く。


「重ね重ねのお気遣いに感謝します、富樫殿」


「なあに、お礼はドイツ軍が勝利してからでオッケーだぜ」


「そうですね、ぜひとも」


こんなに近くで、いつも一緒にいる仲間なのに、相手の腹を探りあっているアレクとダミー。戦争なんてなければこんな関係もうまれなかったのかもしれない、と考え、少しだけ暗い気持ちになった富樫であった。


(続く)

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