表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/83

第六十二話・ラスボス、だと?

「記憶の扉ですって? なんてうらやましい」エリスがむすっとして、心底羨ましいといった口調で言った。


「ふふ、まあ記憶の扉はピンチにならないと開かないようだけどな。なので俺は、ピンチじゃなくても唱えられる、ブレインキャプチャーを唱えてみるぜ」


「なぜ、その魔法を?」アレクが尋ねた。


「ふふっ、ブレインキャプチャーは、その魔力に応じた範囲で、周囲の生命体の思考を読むことができる。さっきの地震の原因は、西の方にあるんだったな」


「そ、そうだけど、ちょっと無茶じゃない?」

「トガシ君、危険だ。ホワイトニンフというエリートであるセファ君でさえも、最前線から近くの町の間をキャプチャーしただけで、マナを使い果たしたんだ。危険すぎる!」


「大丈夫だ、この世界に転生させられた時点で、俺はもう死んだようなものなんだ。それに俺はセファの作ったプリズンで何度も死んだ身だ。いまさら1回や2回余分に死んだってどうってことねえぜ。うおお、いくぜブレインキャプチャアアアアア!!」


富樫は右手をあげ、3つの魔素をその指に集めた。その3つとは、「光」、「水」、「陰」だ。発動された魔法、「精神捕縛ブレインキャプチャー」は、富樫の体から四方八方に渦のように放たれ、周囲の生物の思考を富樫に知らしめた。


様々な思考を、富樫は把握する。それは神だけが持ち得る視点であった。


(くっ、思考を指で触れられている感触、これがブレインキャプチャーか!)

(何なのよこの子、私やアレクをびびらせるなんて、許さない)

(思考を読み取る魔法? まずい、この思考を読み取られては)

(リリリ、リリリリリ)

(ワンワン、ワワワン)

(おかあさん、地震怖いよ)

(ニャア! ニャアア!)

(ちっ、いい所でトイレだと? 俺の心をもてあそぶ気か)

(はあ、めんどくさいお客だね、裏口から逃げちゃお)

(くそっ、このドイツ帝国が負けるだと? この非国民め)

(神様、あの人が無事にかえってきますように)

(あ、この曲は!)

(もうすぐクリスマス、彼女へのプレゼントは何にしようか)

(こんな夜に警備だなんて、はあ、帰って酒を飲みてえ)

(くっ、僕がこんなやつにチェスで負けるとは!)

(ぶう! ぶうう!)

(死ね、死ね、死ねえ!)

(ふふ、ここで寝るのが気持ちいいのよね)

(ありえねえ。こいつ、イカサマしてるのか?)

(お父さん! やめて、やめてええ!)

(今日の収穫、芋五千個、これでしばらくは遊んでくらせるぜえ)



数千人もの思考が、富樫の脳に流れ込む。だが、ここまでまだわずかに1ナノ秒にも満たない時間。そのわずかな時間を富樫は1時間にも感じていた。だがまだまだこれからだ。フランスの平原、戦闘の最前線までスキャンするためには、あと何千倍もの思考を、富樫は読み取らねばならなかった。それはまさに永遠にも等しい、地獄のような苦痛だった。


「ぐああああああ!」


絶叫する富樫の脳を、幾千、幾万もの思考が通り過ぎる。そしてついに富樫は、セファの思考を捕らえた。


(助けて……、誰か)


「セファ!」


(ま、まさかこんな夜中に!)

(神様! お母さん!)

(あの巨大な影、ダークエルフが言っていたトロールか!)

(だめだ、あたしが何とかしないと)


「セファ! セファアアアア!」


さらにスキャンを続ける富樫の脳に、ぞっとするような冷酷な声が響いた。


(ふふ、ドイツ軍め、私の召喚した悪魔の軍隊を前に、震えながら絶命するといいわ)


声とともに、その声の主のイメージが、富樫の脳に突き刺さる。それはフランス軍の軍服らしきものを着た、金髪の悪魔であった。それは空中に浮かび、赤い目を光らせ、夜の平原のその先を見つめていた。その視線の先に、セファの所属する、チーム・オランジェが潜む最前線の塹壕を見て、富樫は再び絶叫した。


「セ、セファ、逃げろ、セファアアアア!」


勢いあまってひっくり返った富樫は我に返る。駆け寄るアレクとエリスを呆然と見つめながら、富樫はつぶやくように言った。


「いくぞ、前線へ。今すぐに。セファは、俺が助けるんだ。待ってろよ、セファ」


(続く)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ