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第五十九話・魔法銃(エムガン)

 暗くなったハイデルベルク城のアーチの下の、白い丸テーブルでコーヒーを飲むアレク、エリス、ダミー、そして富樫の四名。エリスの横で、サファイアがくるくると回転している。富樫が身を乗り出してエリスに言った。


「ところでエリス」


「ん?」


魔法銃エムガンだったっけ。その銃、戦場で俺に貸してくれないか? 俺も何か役に立ちたいんだ」


テーブルに置いていた魔法銃を手にし、胸の前でそれを抱きしめるエリス。


「まあ、なんて厚かましい! 私のようなか弱いレディーから、たった一つしかない武器を奪おうだなんて!」


「そ、そうか、すまん。エリスの大切な武器だよな」


横からアレクが言った。


「トガシ君、その魔法銃を貸すのは無理だけど、量産型で良ければ、今ザールブリュッケンの近くにある工場で大量に作ってもらっている。僕にも武器が必要だから、明日そこに立ち寄って何丁かもらっていこう。もちろん君の分もね」


「そうか、ありがてえ!」


「そうね、それはよかった」エリスは銀色に輝く魔法銃を、大事そうに撫でた。




 はっと気づいたように富樫がエリスに聞く。


「そうだ、その銃でメテオは破壊できないのかな? パリでの決戦でセファが押しつぶされるはずの、空から降ってくる直径十メートル以上ある火の玉なんだけど。それを防げないと、結局歴史は変らないよな?」



「そう、かもね……。この銃から発射できる魔法については、アレクが一番詳しいの。アレク、何か考えはある?」



 これまで視線を落として静かにコーヒーを飲んでいたダミーが、ちらっとアレクの顔を見た。富樫がそのことに気づいてダミーの表情を読み取ろうとすると、ダミーは一瞬富樫と目を合わせ、すぐにまたテーブルに視線を落とした。



「メテオ――、火の玉――、か、そうだね……、硬殻シェルターで跳ね返すか、冷気系の魔法、銀狼白牙ホワイトファング)でバラバラにするか、かな。セファ君の魔法、量子監獄(プリズン)で封じ込める手もあるけど、あれはセファ君しか使えないからなあ」




 アレクの微妙な答えに、富樫は神妙な表情になって言った。


「アレク、あんたが使える魔法じゃないと、この銃に装備することは出来ないんだな」


「うん、そうなんだ。僕は半端者のエルフだから、あまり強力な魔法は弾丸に封じ込められない、申し訳ない」


一瞬目を閉じて考えた富樫が、すぐに顔を上げて言った。


「アレク、俺にも協力出来ないかな、その弾丸作り」

「君が? まあ、この城にある工房に、魔法を封じ込める前の空の弾丸は置いてあるけど。僕同様に半端者の君に、何ができるだろうね?」




 アレクの言っていることは、正論だった。富樫自身、自分にそんなことが出来ると本気で思っているわけではない。だが明日の列車の始発時刻にはまだまだ時間がある。それまでに、何か自分に出来ることを探したかったのだ。そんな富樫の決意の目をみたアレクは、ふっと笑って言った。



「しょうがない、トガシ君、君を僕とエリスの秘密の工房に案内しよう。くれぐれも言っておくが部屋の中のものはすべてが極秘事項だ。そうだ、ダミー、よかったら君も見学に来ないかい?」


「え?」 これまで富樫に表情を読み取らせることのなかったダミーが、一瞬露骨にうろたえた。


「よろしいのですか? 私などをそこまで信用して」軽く目を泳がせるダミー。


「うん、以前、ダミーには魔法銃の研究を批判されていたから、僕とエリス二人だけで研究してたんだけど、完成したら君も僕達の研究に賛成してくれると信じていた。もし今後時間があったら、色々意見を聞かせて欲しいんだ。と言っても、あと数日で戦争は終わる。そしたら魔法銃ももういらなくなるかもね、ハハハ」


「は、はい――、そういうことでしたら、喜んで拝見させていただきます」


 目を閉じ、軽く頭を下げるダミー。その目にうっすらと涙が浮かんでいる。富樫は、アレクとダミーの関係はよくわからなかったけれど、たぶん二人の間にあった誤解が一つ解けたのだろうと理解した。富樫は白い椅子からゆっくりと立ち上がり、右こぶしを上げて言った。



「善は急げだ。さあアレク! そこに俺とダミーを案内してくれ。俺たち4人で、未来を変えてやろうぜ!」



「ふふ、承知した」アレクが立ち上がった。



「は、はい」ダミーが声を震わせながら続いた。



「そうね、トガシ、もしあなたが本当に魔法を使えるなら、仲間と認めてあげてもいいわ」エリスもニヤリと笑いながら椅子から飛び降りた。



(セファ、待ってろ、俺がお前を救ってやる)



(続く)

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