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第五十一話・衝撃のリモートクラッカー

 ゲオルクとヨナが、塹壕に向かうトラックで揺られていた頃、マンティス伍長とテオは、オートバイに乗って、最前線後方の、砲台の設置された高台に到着し、双眼鏡で前線を眺めていた。


「セファから連絡がありました。今、塹壕に到着したそうです。これから最前線に向かうそうです」思考共有で連絡を受けたテオが報告した。


「ふむ」マンティスが応えた。


「しかし、風の精霊の力を借りて、大砲の弾を誘導するなんて、本当に出来るのかい?」


「わかりません、でもやってみるしかないでしょう? もし駄目なら私がここから、ライフルで敵の砲手を狙撃します」


「ハハ、狙撃って、ここから敵の塹壕や砲台までは、七キロ近くあるよ」


「大丈夫です。精霊が本気さえ出せば、無限の距離の先にある的にだって、当てられます」


「ふむ、それはすごい」


 信じられない、といった口ぶりでマンティスはそう言った。なかなか本心を見せない男だ、セファがこの男にも、精神捕縛ブレインキャプチャーを試してみればいいのに、とテオは思う。きっととんでもない事実が数多く発覚するに違いない。


「この砲台の砲手との連携の準備は、もう万全なのでしょうか」テオは言った。



 その連携とはこうだ。まずセファが精神捕縛ブレインキャプチャーで索敵、重要ポイントに、新魔法・遠隔花火リモートクラッカーを打って場所を示す。それを見た砲手は、そのポイントに照準を合わせ、準備が出来たらマンティス伍長に合図。最後にマンティス伍長が、3、2、1、0と掛け声をかける。ゼロで砲手が砲撃、それに合わせてテオが風の魔法で命中精度を高める。


「うん、大丈夫だ。なんならもう一度練習しておこうか」


「そうですね」



 マンティス伍長は砲手を呼び、手順をもう一度説明した。テオも加えて、三人で掛け声や合図をしながら予行演習する。その息はばっちりと合っていた。


「準備OKだね、君、ありがとう、持ち場に戻ってくれ」


「はい、あ、あの、マンティス伍長……」


「なんだね?」


「あの人かわいいですね。なぜあんなかわいい女性が戦場に?」


「ふむ、君もそう思うかね? だがね、彼女は男だ」


「ええ?! そうなんですか! でもあんなにかわいい人なら、男でも、俺――」


じっとテオを見つめる砲手は、テオと目があって頬を赤く染めた。


「まあ、気持ちはわかるがテオに見とれて合図を見逃さないようにね」


「は! そうでした! すみません、持ち場に戻ります!」


 遠くから二人をちらっと見ただけのテオであったが、どのような会話がされていたのかは大体わかった。テオはそういうのは慣れっこだった。再び双眼鏡で、前線を眺めるテオ。テオはセファの気配を探しながら、縦横に掘られた塹壕を探した。やがて七色にきらきらとした光で塹壕の壁を照らしながら進む一団が目に入り、テオは思わず声を上げた)



(セファ!)


(見えた? えへへ)


双眼鏡の中の、セファがこちらを見て手を振ったような気がした。あまりに小さすぎて、それが本当なのか気のせいなのかはテオにはわからなかった。


(敵の攻撃はどう? うまく防げてる?)


(うん、砲撃の音や銃声がしたら、硬殻シェルターで防御ね。最初うまくいかなくて、トラック一台やられちゃったけどね、てへ。でもその運転手さんは、あたしがヒールで助けたよ)


(そう、よかった。でも無茶はしないで)


(うん。あ、最前線に着いたみたいだから、索敵してみるね)


(ええ)


「セファが最前線に着いたそうです。これから索敵開始します」


「わかった」マンティス伍長が攻撃準備せよの合図をした。



 しばらくして、セファから連絡が入った。


(テオ、敵の広場に砲台があって、人もいっぱいいて、そのすぐそばの倉庫に、大量の弾薬が置かれているの。そこを攻撃するといいみたい。そこに向かって花火を撃つから、大砲でそこを攻撃してね)


(ええ、わかったわ)


(いくね)




 テオは双眼鏡で観察する。セファらしき小さな光が塹壕の上に浮かんでいる。その小さな光からフランス軍の塹壕めがけて、小さな花火が放物線上に飛んでいった。その直後――。


  ドオオオオオオオオおおおおん!


    ドドドドドどおおおおおおん!



(きゃあああああ!)


セファの悲鳴が聞こえた。テオはマンティスに言った。


「い、今花火が上がりました。でも攻撃は少し待ってください。様子がおかしいので」

テオが報告する。


「あ、ああ。いや、大体状況はわかった。セファの花火で誘爆したんだな。ありゃあ、町一つ吹っ飛んだな」


「ええ?!」




 テオが双眼鏡から目を離してフランス軍の塹壕の少し奥を眺めると、火炎と巨大な黒い雲が地面から上がり、空まで届いていた。


「花火、すっげえええ!」砲手が興奮して叫んだ。


テオの心に、ひっくひっくというセファの泣き声が聞こえ、やがてそれは号泣となった。


(テオ、どうしよう、町の人達が消えちゃった。うわあああん!)


(大丈夫、大丈夫よセファ。あなたのせいじゃない。しょうがないの。それが戦争なの。あなたはよくやったわ)



 だが、セファの号泣はしばらく収まらなかった。初めて人を殺めてしまったセファの、ショックは大きかった。


(つづく)

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