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コンビニ転生・ニートだった俺がどうやって業務用電子レンジを使いこなせるようになったか  作者: 超プリン体
第1章 ハイテク・プリズン『電子レンジ地獄』
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第五話・異能力を発揮した俺が感じとった違和感

 コンビニ妖精セファが、ゲーム再開を宣言すると、再び巨大な文字が浮かんだ。


『STAGE2 レジ打ちをしてお客様から代金をゲットせよ』


「それほど難しくないから、落ち着いてがんばって! あと、補助ラベルを電子レンジに貼るのも忘れずにね」


「――おっと、そうだった……」


 富樫は手にした「補助ラベル」を確認すると、それを電子レンジの前面に、慎重に貼りつけた。


「この電子レンジがすべての鍵を握るからな。出来るだけ見やすく、――と」


 ラベルを張り終えた時、店内に入店音が響いた。振り返ると地味な色のコートをきたあまちゃんが、寒そうに肩を抱きながら入ってきた。


「またあまちゃんか! って、さっきと違って冬らしい服装だな。さっきの露出の多い服装が、俺は好みだ」


「そんなエッチなこと言ってると、また難易度あげるんだからね!」


「エ、エッチなもんか! 俺の個人的好みを言ったまでだ! 夏でも冬でも、女の子はさわやかな薄着に限る、ってな!」


「――その差別発言にマイナス1ポイント。難易度が1ランクあがりまあす」


「お、おい! どこが差別発言だよ!!」


パチ――、と火花が散るような音がした。


「なんだ今のは」


「え? なんのこと?」


「今パチッっていう、小さな音がしたぞ。何が起こった?」


「……」


セファが黙り込んだ。


「おい! 答えろよ」


 店内を歩く、お客のあまちゃんに聞こえない程度の声で富樫がささやくが、セファは答えない。耳をすます富樫の耳に、今度はあまちゃんのささやき声が聞こえた。


「今日はドリアに……、かな。新製品、シーフードカレードリア……、いいかも」


 パチ……、また火花が散るような音がした。今度は富樫は何も言わなかった。何も聞かなかったそぶりをし、鼻をほじってその指をレジテーブルになすりつけた。その間も、ずっと自慢の耳はすませたままだ。


「今、トガシの様子がちょっとおかしい気がしたけど……、気のせいだったかなぁ?」


――ささやくようなセファの声。


 異常な聴力を持つ富樫でなければ、聞き逃していただろう。だが富樫は耳たぶをぴくぴくと動かし、そのセファの、蚊の鳴くよりもずっと小さな声を聞き取った。だが富樫はセファの声は聞こえない振りをし、ぼうっとした表情であまちゃんの姿を追った。


 そう、富樫は気付いたのだ、自分の異常な聴力が、このコンビニ地獄をブレイクするのに、少しでも役立つことに!


 富樫は心の中でささやく。

(フフッ。さっきの音は設定を変更した音だな? 俺の異常な聴力。セファには気付かれていないようだ! このチート能力を、思う存分、有効活用させていただこう!)


 富樫はさらに耳をすます。あまちゃんの、静かな息づかいさえ聞こえるほどに! あまちゃんの声が、ごくごく小さな音を発した。それを富樫は、聞き逃さなかった。


「そうだ、あの人の分も、買っていこ……」


(え?)



 富樫は動揺した。あの人、だと? 誰だそれは。コンビニでいつも暗い顔をしてお客様を待つだけの存在。彼氏どころか趣味も生きがいもない、ただただレジ打ちとレンジを使ったあっためをするだけの存在であるはずの、あのあまちゃん。


 そのあまちゃんに、「あの人」、だと? 富樫の、わりとすごい頭脳は混乱した。


(お、おいあまちゃん、お前はいつも暗い顔をして孤独にさいなまれるひとりっこだろ、高校の時などは、トイレでお母さんに作ってもらった冷たいお弁当を、かちゃかちゃとお箸を鳴らしながらわびしく食す、さびしっこだったはずだよな? いや、それは俺がいつものお前の態度を見て、推理していた、いわば俺だけの『あまちゃん像』、だったのかもしれないけど、でもお前は俺を裏切らないよな? 俺の両親が俺を裏切ったみたいにはな! そうだろ? お前は、お前だけは俺の味方だよな……?)


 ひく……、と眉間に皺を寄せた富樫。そんな富樫の様子には全く無関係に、ほっこりした笑顔でドリアを品定めするあまちゃんと、おかしな発言をした富樫の様子を疑いのまなざしで観察するセファ。ちょっとした緊張感がこの三者を包み、それぞれの感情を、それぞれが気づかない程度の、微妙な感じで増幅しようとしていた。


(続く)


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