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第四十六話・サファイア、はじめてのおつかい

「うっぴいいいいいいいい!」


 サファイアは、エドがかけてくれたトートバッグを大事に小脇に(?)抱え、光速にもせまるスピードで、ドイツの夕暮れの空を疾走した。途中で一度、カラスに激突しそうになったが余裕で回避した。高い高い上空から、サファイアはハイデルベルク城と、故郷の泉の場所を確認し、まずはハイデルベルク城向けて急降下した。出発してから数秒のちに、サファイアはハイデルベルクの時計塔の窓辺に到着していた。


「やあ! サファイア君、待っていたよ!」


窓の近くで書きものをしていたアレクが、すぐさまサファイアに気づいて声をかけた。


「うっぴい! 通信士、手紙持ってきた」


「さすが僕の見込んだ通信士だ。ありがとう、見せてもらうよ」


アレクはトートバックから、小さくたたまれた手紙を取り出しながら、トートバックの縫い目に視線を止めた。


「よく出来たトートバックだな。頑丈な造りだ。エド君の作かな」


「そう、エドが作ってくれた。あと、セファが補強してくれた」


「なるほどセファ君の魔法か。それなら光速にも耐えるはずだ。名コンビだな」



たたまれた手紙を開き、しっかりと書かれた文字をアレクは読み始めた。



「ふむ……、童顔だが筋肉質で投擲の達人のヨナと、女性っぽい身体を持つテオ・アンデルス……。テオはエルフの末裔であり風の魔法も使える、と……。え?」



 姿勢を正して、食い入るように手紙を読み始めたアレク。その時、一階からノックの音がした。


「ダミーとエリスだ。ちょうどいい時に来たな。二人にもこのことを知らせてあげよう。サファイア君、もう少しここにいられるかい?」


「ぴい、たぶん、大丈夫」


「三十分後に作戦会議再開、だったね。それには間に合うようにしよう。おいで」



 アレクはサファイアを肩に載せ、一階へのはしごを素早く降りた。慣れない者にとっては危険なこのはしごだけど、毎日昇り降りしているアレクにとっては、地面を歩くのとそうは違わない。扉を開けると、エリスが待っていて、サファイアを見付けて声を上げた。


「おかえりサファイア! エドとセファは無事?」


「うっぴいいい!」エリスに飛びつき、頬ずりするサファイア。




「二人は元気らしいよ。それより新たな事実が続々だ。エド君を軍隊に送るのは苦渋の決断だったけど、それはすばらしい判断だったと自分をほめてやりたいよ」


「え? 何を言ってるの?」


エリスはアレクの差し出した手紙を受け取り、歩きながらそれを読み進めた。




 時計塔のアーチの下に置かれた白い丸テーブルは、まだ朝のままで、アレクとエリスとダミーは、今後もそろってここで食事をしようと決めていた。エリスはテーブルにたどり着くと、食事の用意をしていたダミーに手紙を手渡し、イライラした顔でアレクに言った。



「エルフの末裔に、風魔法に、ダークニンフに、トロール、ですって? なんで一日でこんなに新しい悩みの種が出てくるの? 私はこの怒りを誰かにぶつけてやりたいわ!」


「別に怒ることじゃない。特に新たなエルフの生き残りの発見はうれしいニュースじゃないか。十数年前、ドイツ国内にホワイトニンフらしき存在が確認されたという噂があった。この女の子のようなエルフの少年というのは、それと何か関係ありそうな気がする」


「そりゃあ、エルフの生き残りのアレクからしたら、うれしいのはわかるけど、今重要なのは戦争の行方よね? こんなおかしな状況になったら、これまで計画していたいろんなことを、考え直さないといけないんじゃない?」


「いいや、僕はそうは思わないよ。共創兵站コ・ロジスティクスは、状況が変っても基本は変わらない。ただ、補給経路を充実させ、各拠点で軍隊も不可侵の調達のための民間施設を配置する、という案は、トロールによる虐殺や破壊を想定に入れたら、少し考え直さないといけなくなるかもしれないね」


「そう、それよ! 共創兵站は、人間対人間の、しかも理性ある人間同士の戦争を想定してのアイディアよね。怪物相手だと、そんなの蹴散らされるだけよ」


「まあ、ね。ダミーはどう思う?」


「それよりまずお食事を、スープが冷めてしまいます」


「ああ、そうだね。あまりのニュースに興奮しすぎた。そうだ、サファイア君もヒールしておこう。あと、これをエド君に届けて欲しい」



 アレクは、小さな紙にさらさらとつづった手紙を折りたたみ、エリスに渡した。エリスは折りたたまれたそれを一度開いて中身を確認した後、サファイアの提げているトートバックに入れた。


アレクとエリスが食事を始めると、ダミーが静かに言った。


「私としては、やはり早期のパリ攻略が可能かどうかというのが最大の関心事です。セファ様やサファイア様が、ドイツのMチームとやらの強力な武器となって、初めてそれが実現可能となる気がしておったのですが、その最後の最後で十体のトロールと激突となると、ちょっと厳しい気が致します。いや、トロールという生物がどういうものかは、あまり存じ上げませんけれども」


「まあ、そうだな」 アレクは食事の手を止めて、何か考えていた。


「アレク、それより暗くなるから、早くサファイアをヒールして、帰してあげて」


「そうだった! おいでサファイア君」


「ぴい」


アレクはサファイアにヒールをかけた。


「だめね。星の数が一つのまま。セファのハイパーヒールじゃないと、星の数は戻らないのかしら」


「それはどういうことだい?」アレクが尋ねた。


エリスはセファのハイパーヒールによって、サファイアの周りを回ってる星の数が、3つまで増えることをアレクに伝えた。


「そうなのか、やっぱり僕はハンパ者のエルフだな。魔法もろくに使えない」


「そんなコトナイ、アレクはいいエルフ。セファのダイジな人」


「やあ、そう言ってもらえるとうれしいよ。サファイア君も優しくていい精霊だ」



 三人に見送られ、サファイアは再び上空に舞い上がった。周囲が暗くなりかけていたけれど、泉までは一瞬だ。多くの仲間たちに歓迎されながら、サファイアはセファのために泉の水を汲み、自分も水面に口をつけた。一つに減って点滅までしていたサファイアの星の数は、一気に三つにまで復活した。


(サファイア、またきてね)


(明日またおいで)


(うっぴいいい!)



 サファイアは泉を後にして、ほとんど闇に包まれた空から、ザールブリュッケンの町の灯りを確認し、急降下した。泉の水を届けたときの、セファのうれしそうな表情を想像して、サファイアはうれしくなった。そんなサファイアを、セファが想像通りのまぶしい笑顔で出迎え、抱きしめてくれた。


(つづく)

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