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第四十五話・幻想世界の巨人

 こうしてセファ達は、捕獲したダークニンフのディザベルから、色々話を聞くことが出来た。結論から言えば、「俺はフランス軍の者ではない」、「ドイツ軍、フランス軍の司令部を覗き見している」、というのは真実だったようで、彼はフランス軍の作戦を、色々と教えてくれた。


だがゲオルクは信じない。彼は言った。


「こちらに有益な情報を提供して、信用させるという二重スパイの恐れがある。セファ、すまないがもう一度だけブレインキャプチャーを使って裏を取りたいんだが、お願いできないだろうか?」


「え、あたしは全然構わないけど、あなたは?」


セファは水晶の中のディザベルに尋ねた。ディザベルはちらっとセファを見たあと、顔を赤らめて言った。


「あと一回だけなら、いいよ」


「ありがとう」


「じゃあ早速だが、次の話の裏を取ってくれ」


ゲオルクは、ディザベルから得た情報の中でも、特に重要と判断されるものを選び出した。


(1)ディザベルとその仲間は、フランス軍とは関わりがない。

(2)フランス軍は、セファ達よりも凶悪な、ある生物兵器の準備を終えている。

(3)その生物兵器はパリ広場に建てられた仮設の施設で待機させられている。


1はともかく、2や3は想像するだけで怖ろしい。あまり気が進まないながらもセファは承諾した。


「わかったわ。いくわねディザベル。他の記憶は読まないから安心してね」


うなずくディザベル。それを確認したセファは、再び精神捕縛ブレインキャプチャーを発動させた。得られた記憶を見たセファは驚愕した。



「こ、これは!」


ディザベルのパリでの記憶――。パリ広場に建てられた極秘の建造物。そこに排水溝から潜入する。蓋を外して中に入ると、体育館ほどの巨大な建物の中で、十体の巨人がくつろいでいた。それは絶滅したはずのトロールであった。それぞれのトロールのそばには、巨大で頑丈で豪華な鎧が置かれていて、トロール達は、たまにそれを眺めたり撫でたりしていた。


「わかりました。全部本当のことです。あと、生物兵器というのは、幻想世界の住人、トロールです」


「トロール? なんだそれは」


セファは記憶にあるままを伝えた。くわえてディザベルが説明した。


「トロールはこっちの世界では絶滅したはずの、幻想世界の住人だ。フランス軍は、どうやったかわからないけど、奴らを幻想世界からこの世界に呼び出したんだ。身長は人間の五倍から十倍くらい。硬い皮膚を持っていて、剣とか槍は通じないと言われている。それが頑丈な武器を持ったら、とんでもない破壊兵器になる」


「なるほど……。しかし幻想世界とは。お前達がここにいなければ、到底信じられない話だな」


 幻想世界とは、この世と重なって存在するパラレルワールドであり、こちらの世界の物理法則などが全く通用しない、一種異様な法則に基づく世界である。その世界に住む様々な種族は、かつてはこの地球にも姿を現し、共に暮らしていたのだが、ある種族の絶滅によって幻想世界とこの世界のバランスが崩れ、ある者は幻想世界に戻り、またある者はこの世界に取り残され、それぞれの道を歩むこととなったのである。こちらの世界で繁殖し、しばらくした後に滅亡した種族にエルフがあげられるが、トロールは、エルフよりもずっと前に滅亡してしまった種族、だったはずであった。


ディザベルがさらに続ける。

「幻想世界とこの世をつなぐ魔法を、エルフは完成させてた。フランス軍はエルフの魔法を使ったのかもな」


「エルフの魔法を、そんなことに使うなんて!」セファは叫んだ。


「いや、そういう可能性があるってだけだ。それに魔法だけでそんなことしたら、いくらエネルギーがあっても足りない。魔法は魔素とマナを消費するからな」


「エネルギー? はっ!」


セファのお腹がぐうっと鳴った。セファはお腹を押さえてごろりと横になって目を閉じた。


「お腹すいた……、魔法使い過ぎちゃった」



はっとしてゲオルクが腕時計を眺めた。


「いかん、もうこんな時間か。いったん休憩して夕食にしよう。三十分後に再開だ。ディザベルが教えてくれた情報も含めて、明日からの作戦を立てる。では解散!」


「ちょ、ちょっと待って。俺も晩飯食わせてくれよ! ここから出せよ!」


セファはぱちっと目をあけ、優しい目でディザベルを見ながら言った。


「大丈夫よ、量子監獄プリズンの中では時間の経過は無意味。食事しなくてもお腹すかないからね」


「そ、そんなあ! 出してくれえええ!」


三十分という短い休憩の間に、エドは食事をしながらアレクへの手紙を書き、小さな水筒とともにサファイアに預けた。


「サファイア、通信士としての出番だ、頼んだよ。この手紙、軍の極秘事項が書かれてるから、絶対に無くさないようにね。アレクさんがこの手紙を読み終えたら、次は泉に戻って、この水筒に水をくんできて。セファと君のエネルギーの源だから、忘れないでね」


「うっぴいいいい! わかった! ボク、行ってくる!」


サファイアは、手紙と水筒を入れたトートバッグを肩(?)にかけ、残像だけ残してあっという間に消え去った。


セファは小さな食器にテオからわけてもらったスープをがつがつと食べ、からっぽになったマナを急速に補充した。セファは幸せそうな笑顔で、テオにおかわりを要求した。テオもまた笑顔でそれに応じた。


楽しい(?)軍隊生活の初日は、まだまだ続く。


(つづく)

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