表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/83

第四十三話・ダークニンフへの尋問

エド、ヨナ、テオの三人、加えてセファとサファイアは、ゲオルク軍曹の机の周りに椅子を置いて座った。ゲオルク軍曹は、机の上におかれた四角い水晶の中の生物を見つめていた。



生物は抵抗するのに疲れてしまったのか、水晶の床にあぐらをかいて座り、荒い息をしている。それは美しい女性の顔立ちをしていて、黒髪には角が生え、黒い毛皮のコートを身に着けている。



「お前は何者だ」ゲオルクが静かに尋ねた。


生物は、ゲオルクの顔を見据え、にやりと笑いながら応えた。


「ふふ――、俺がそう簡単に答えると思ってんのか?」


「いや――、だがお前が敵ではないのであれば、早く口を開いた方がいい。我がドイツ軍には、血に飢えた拷問部隊がお前を待っているからだ」



「拷問ねえ。でも俺はこうやって、あのニンフの量子監獄プリズンとかいう魔法で閉じ込められているんだ。この硬い壁を通して、俺を傷つける方法なんてあるのかねえ。あるなら教えて欲しいね」



そういって生物は、透明の壁を思いっきり蹴飛ばし、セファをにらみつけた。



「はっ、そ、それは――」


「なんだその顔。もしかしてお前、効果も知らずにこの魔法を使ったのか?」


「そ、そういうわけじゃ……」



セファと生物との会話に、ゲオルクが割り込んだ。


「おいお前、迂闊うかつにこいつと話をするな。情報を引き出して、魔法から逃げ出そうという考えかもしれないからな」


「あ、はい」


セファが口を閉じた。そんなセファの心に、さらに生物が「思考共有」を使って話しかける。



(セファとか言ったな。お前も幻想世界の住人で、しかもホワイトニンフだろ? 俺たちとは仲間じゃねえか。なぜこんな魔法で俺を閉じ込めた?)


(仲間? 確かにサイズは似ているし、思考共有も使えてるから、そうかもしれないけど――)


(だろ? 実は俺もニンフなんだ)


(えっ!)


そうか、この生物はダークニンフかもしれないと、セファは気付いた。ダークニンフについては、ハイデルベルク城で、アレクから少しだけ聞いたことがある。と言っても、セファはその言葉を夢うつつで聞いただけなのだけれど……。アレクは確かこう言っていた。


『ダークニンフっていうのはね、ホワイトニンフと違って魔法で転生したものじゃなく、人間や世界に恨みを持って死んでいったエルフが転生したもの、だそうだよ。ただしあくまで理論的なものであって、エルフの数学によって導かれた、可能性だけの存在、だそうだ』


(あなた、ダークニンフなの?)


(ふふ……、そうだよ、俺は――)


(セファ、やめなさい、ゲオルク軍曹が質問してる。彼にまかせましょう) テオの思考だった。セファが生物に共感してしまうのは危険と感じての制止であった。


(はっ! ご、ごめんなさい)


(ちっ、もう少しだったのにな、邪魔しやがって)


テオは右手に腰かけるセファの身体に、そっと左手を置いた。セファは両手をその人差し指にそっと置いた。



「おい、さっきから上の空だな。それとも黙秘か? もう一度尋ねよう。お前はフランス軍に属する者なのか、そうじゃないのか」



そうだ、重要なのはそこなのだ、とセファは思った。ニンフ同士とかそういうのは関係ない。大切なのはドイツ軍なのか、フランス軍なのかということだ。でも、本当にそれって重要なことだろうかとも、セファは思った。セファの心が揺れていた。セファは生物をじっと見つめて、その答えを待った。生物は静かに言った。



「俺がフランス軍の者じゃないって言ったら、あんたはそれを信じるのか? それに、あんたにとってのこの世界の中での敵というのは、フランス軍だけなのかい?」


「ぬ……、尋問しているのは俺だ。余計なお喋りはするんじゃない」


「ああ、じゃあ答えてやるよ。俺はフランス軍の者ではないし、協力もしていない。ただこの司令部をたまに覗きにきてるように、フランス軍の司令部もたまに覗いてる。その程度の関係さ」


「ほう……、おい、こいつの言ってるのが本当かどうか、確かめる魔法はないのか。いや、それよりこいつに自白させる魔法はないのか?」


ゲオルクがセファを見た。続いてその場の全員が一斉にセファを見る。セファが困ったような顔で言った。


「わかったわ、いい魔法がないか探してみます。ちょっと待ってね」


セファは目を閉じた。


(それだ、その能力! お前一体、何をしている!)


生物が思考共有でセファに語りかける。しかしセファはその思考を遮断し、「記憶の扉」に集中する。




 この人のことが知りたい……


   この人の名前が知りたい……


     この人の本心が知りたい……


       この人と分かり合いたい……



           教えて……、先祖の記憶よ……。




セファは扉が開くのを静かに待った。だが今回はなかなか開かない。


(どうして? これまではすぐに音がして、魔法のイメージが頭に流れこんできたのに。そんな都合のいい魔法なんてないということなの?)


すこし焦り始めたセファの思考は、真っ暗な空間をただただ落ちていく感覚。だがその先に、何かが見えた。その物体が急速にセファに近づいてくる。警戒するセファの心。


(あれは、何?)



(つづく)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ