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第四十二話・ゲオルク軍曹とエイス大尉

 天井のはりから落ちてきたその物体は、淡いブルーの水晶であり、中には小さな生物が閉じ込められていた。それを取り囲み、ざわついていた十数人の軍人達は、部屋の隅から自分達に近づいてくる、セファとサファイアを見てさらに驚いた。


「い、一体――、なんなんだこいつらは――」


「敵の新兵器か? いや、生物兵器では?」



 レオ・ゲオルク軍曹が、床に転がる透明の立方体に近づきしゃがみ込む。その中に閉じ込められた生物は、外に出ようと透明な壁を叩き、蹴り、もがいている。エドは軍曹の横にしゃがみ、同じくその生物を眺めようとした。そこに、立派なヒゲをたくわえた、一人の軍人が近寄ってきた。


「おいゲオルク、一体なんだこれは。それにあの二匹は」


「ん?」 ゲオルクは傍らに立つ軍人を見て、さらに彼が指さす方を眺め、そして言った。


「ああ、あれは我がドイツ軍の新兵器です。心配いりません。こちらの物体の中の一匹とともに、今の所極秘事項であり、我々Mチーム以外の接触、および情報の漏えいは固く禁じていただきたい。よろしいですかな?」


「新兵器、だと? それにゲオルク軍曹、貴様、上官である俺に命令を?」


 その軍人、カール・エイス大尉はこの司令部およびザールブリュッケンの部隊を任されている、強い権力を持つ指揮官であった。だがその指揮官による言葉にも、ゲオルク軍曹はひるまない。


「ええ。私はこのチーム及び、それにまつわるあらゆる処理に関しての特権を、本部より頂いています。今お願いしたのも、そういった事情にまつわる必須事項です。あなたが命令しないのであれば、私がこの場の全員に命令させていただいても構わないのですが?」


「ぐっ!」



 エイス大尉は言葉を詰まらせた。この場の最高の指揮権を持つ自分を差し置いて、ゲオルク軍曹がこの場に命令を発するようなことがあれば、それは軍の規律を乱すことになり兼ねない。大尉としては、それはなんとしてでも避けねばならない。


「わかった……、おい、この場にいる全員に告げる。ここに転がる物体と、そこにいる2匹の生物のことは、見なかった事にして、決して口外してはならない。いいな! わかったら各自仕事に戻れ!」


ゲオルク達の周囲に集まりざわついていた軍人達は、これを聞いて一斉に口を閉じ、素早く自分の持ち場に戻った。


「ありがとうございます、エース大尉。これらの生物については今後調査し、お伝えできることは大尉にもお伝え致します」


「う、うむ」

エース大尉は悔しそうにヒゲをいじりながら、自らも自分の席に戻っていった。




「軍曹殿が大尉殿にご命令とは――、我々のチームは、強い権限を持たされているのですね」


エドが明るい表情で言った。




「ああ。あまりに強すぎて、俺には扱いきれないのではと不安に感じるほどのな。だが心配はない。お前達が不安を感じることがないよう、俺は最大限の努力を払うつもりだ」


ゲオルク軍曹は、去っていくエース大尉の背中を見送りながら言った。その後、振り返ってエドの顔を見た。


「エド、お前はヨナとテオと一緒に、あそこにいる男、マンティス伍長から話を聞いてくれ。壁にもたれてこちらを見ている男だ。お前達から話を聞き、今後の作戦を今晩中に決める。俺は彼がお前達と話している間に、この生物と、お前が連れてきた二匹に尋問をする」


「じ、尋問ですって? それは危険です。セファはまだ生まれて数日のニンフで、この時代のこの世界のことを何も知りません。そしてもう一匹のサファイアは、片言でしかしゃべれないため、意志の疎通が難しいです。また、サファイアが何より危険なのは、セファを守るためには相手を殺しかねない点です。僕なら彼らのことを、少しですがわかっています。ぜひ僕もその尋問に参加させてください!」


ゲオルク軍曹は、腕時計をちらっと見て少し考えた。


「あまり時間がないが、しょうがないな。まあ情報共有の手間は省けるし、逆に効率はいいかもしれない。エド、ヨナとテオに、椅子を持って俺の机まで来るようにと言ってくれ。君もだ、いいな?」



「はい――、あ、マンティス伍長はどうしましょう?」


「彼のことはいい。まずは俺が伝えたことだけをやってくれ」


「は、はい」



 エドは立ち上がり、ヨナ、テオ、そしてセファとサファイアに、ゲオルクからの命令を伝えた。ヨナとテオは神妙な顔でうなずき行動した。そんな二人を見ながら、セファが不安そうな表情でエドにたずねた。


「エド――、尋問って、あたしたち、やっちゃいけないことをしちゃったの?」


「いや、大丈夫だセファ。あの人はたぶん、セファとサファイアを、どう戦争に生かせるのかを確認したいだけだと思う。使えるものは何でも使わないと到底達成できない、そんなとんでもなく難しいミッションを、彼は任されているんだ。そのプレッシャーはきっと相当なものだろう。僕達は、彼を信じて彼に協力する、それだけだ。セファもサファイアもそうして欲しい。いいね?」


「うん、わかった」セファが笑顔でうなずき、サファイアもクルクルと回転してエドに応えた。



「エド、椅子を持ってきてあげたわ」 テオが2つ下げてきた木製の椅子の一つを、エドに差し出した。


「あ、ありがとう」


「いいえどういたしまして。かわりにセファは私が預かってあげる。おいで、セファ」


「え?」



 セファは舌をぺろっと出して困った表情をした後、差し出されたテオの腕に、うれしそうに取りついた。サファイアもその周囲をクルクルと飛び回った。


「うーーーん……」 複雑な表情を浮かべながら、エドはテオから椅子を受け取った。


(つづく)

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