第四十一話・魔法戦
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ザールブリュッケンに到着した途端にばれてしまったセファの存在、そしてセファとサファイアの脳に響く、何者かによる悪意を感じる思考。セファにとって、あまりいい状況とは言えない。
どうするべきか。薔薇紐で捕獲してみるのはどうか。でも彼らが思考共有を持つ幻想世界の住人である場合、バインドローズは通じるのだろうか。そうだ、他にいい魔法はないか、記憶の扉で調べてみよう――。セファは目を閉じた。
(――ん? 何かする気かしら?)
(――あの娘かわいいね。ねえ、アイツ、オレのペットにしていい?)
(――うるさい、だまってろ)
頭の中に三匹の声が響く。セファは集中してその声を排除し、得体のしれない鼠のような三匹の影を捉えるイメージをしながら、記憶の扉を叩いた。
放たれる魔法が……
相手を捕えて……
無力化する……
教えて……、先祖の記憶よ……。
カチャリ。再びセファの頭の中で、記憶の扉が開いた。あふれ出たイメージは、人間を、闇の幻獣を、そして愛する者を閉じ込める、時と光を止める水晶の欠片、量子監獄の魔法であった。
セファは目を開け、迷わずその魔法を唱えた。必要な魔素は硬、光、時の3つである。セファは右手を前方に差し出しながら、三本の指でそれらの魔素を集め、瞬時に練り上げて前方に放った。
「量子監獄――」
(な!)
(ちぃっ!)
魔法が一匹を捕えた瞬間、他の二匹は即座に反応した。彼らは寸前で魔法の効果範囲を逃れたのだ。
(た、たすけてくれェ)
淡いブルーの、高質化された水晶に閉じ込められた一匹が助けを乞うた。彼を救うかどうかで一瞬迷った二匹を、さらに別の魔法が襲い掛かった。
(蒼色疾風)
(え、なに?)
驚くセファの頭上を、強烈な風が吹き抜けた。それはテオの放った風魔法だった。空間を一瞬にして切り裂くその風魔法を、柱の上の二匹は寸前の所でかわした。
(まずい、逃げるぞ)
(ああ)
仲間を放置して撤退することに決めた彼らの一人が、胸の前に赤い魔方陣を描いた。輝く赤い光がその者の顔を明るく照らした。それは鼠ではなく、セファと同じ小さな女性の姿をした何者かだった。紫の髪を持ち顔色は青く、露出度の多い魔女のような黒い服を着ている。その者が魔法を詠唱しようとした瞬間――。
「ウッピィイィイイ!」
今度はサファイアが攻撃を仕掛けた。戦闘形態でないとは言え、光速に近い精霊の移動スピードと強靭な羽の切れ味は、触れれば軽傷では済まないだろう、だが――。
(なんだ!)
魔法を詠唱する一匹の顔面を狙ったサファイアの攻撃も、紙一重の所でかわされた。長い紫の髪の毛が、切断されてはらはらと空中に舞う。怒りに赤く燃える目でちらっとサファイアを見て叫ぶ。
「覚えていろ貴様達。次に会った時には殺す。魔獣転送!」
赤い輝きが、三匹を包み込む。瞬間、二匹の姿は消えた。プリズンで捕えられた一匹には、魔法が効かないらしく、赤い光は弾かれて消えた。
こうして、セファにとっての初めての実戦が終わった。それは時間にして一秒にも満たない瞬時の戦闘であった。部屋にいた多くの者達は、ゴトリ、という重い何かが床に落ちたような音を聞いて、初めて異変に気付いた。ざわつきながらその周辺に集まる兵士達。レオ、エド、ヨナもそれを見るために部屋の中央に向かう。
セファは右後方をちらりと振り返り、テオの顔を見上げた。テオはセファの視線に気づき、にこりとほほ笑んだ。
「テオ? さっきの魔法はあなたが? あなたは……、あなたも幻想世界の人なの?」
「ええ、たぶん。私は数少ないエルフの生き残り。極秘事項だけどね」
セファは息を飲んだ。エルフの生き残りはアレクだけではなかった。他にもいたのだ。
「さあ、私達も敵の顔を見に行きましょう」
テオは手の平をセファに伸ばした。セファはうなずいて、その手につかまった。
(続く)
おまけ。
今回のお話を書くために作ったプロットです。今回は新たに「選択」という項目を加えました。
「魔法戦」プロット
・ストーリーの進展:敵の正体
・定番の設定・イベント:蘇る記憶。
・軽い展開:問答無用の魔法合戦
・迫力、驚き、感動:量子監獄と風の魔法「蒼色疾風」
・わかりやすく目をひくガジェット:赤い魔方陣
・期待感:敵の一人を捕獲、エルフ
・空気を共有:
・コミカルなエンディング:
・選択:バインドローズか記憶の扉か。
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