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第四十話・特殊部隊

 エドは、おかっぱの少年ヨナ・カトリンと、女性っぽい体付きと声のテオ・アンデルスに挟まれて椅子に座り、居心地の悪さを感じていた。


 くしゃくしゃになった資料を読み終えたレオ・ゲオルク軍曹が、椅子を引きずりながら渋い表情で近づいてきた。エドらの前に椅子をおいたレオは、それに座り、腕組みをして三人を品定めするように眺めた。


「ようこそ戦場へ。俺はレオ・ゲオルク軍曹。君達三人は俺の指揮する特殊部隊に配属されることになった。隊長は俺で、隊員は君達三人だけだ」


「特殊部隊……。どういう任務なんですか?」 エドが言った。


「塹壕戦をしている兵の間を駆け抜け前線を斬り開く。最終的な目的は、パリ攻略だ」


「パリ、攻略――」


 資料を見ながらレオは話を続ける。


「ヨナは投擲が得意、エドは銃や武器の扱いがうまい、で、テオは魔法が得意、と――」


「え、魔法?」 ヨナが驚いて目を丸くした。


「魔法……?」 エドも驚いた。


「冗談だと思うよな? 俺もそう思った。だが軍の上官のサインがいくつもされている。彼は魔法が使える強力な助っ人なので、丁重に扱い決して傷つけるな、とね」


「ま、魔法じゃない。私は自然や動物と会話したりできるだけ。戦争にはあまり役には立たないから――」


「加えて君はライフルの腕が凄いらしいな」


「そ、それは空気や風とお話が出来るから、うまく的に運んでもらえるだけだから」


さっきまでするどい目つきで周囲ににらみを利かせていたテオが照れている。


「じゅ、充分すごいよそれ」 エドが言った。


「ライフル――、それならグレネードよりも安全に戦えるね」 ヨナはうらやましそうだ。


「塹壕戦では、ライフルもグレネードもどちらも欠かせない武器だ。新兵でそういう武器に長けている者なんてそうはいない。だからまあ、君達が敵の弱い部分を攻撃して突破してくれれば、戦況は確実に有利になる。ところでエド――」


「は、はい――」


「君は何か隠してないか? これでも俺のカンは当る。だからこの歳で軍曹になれたんだ。俺を生かしてきたのはカンだけだと言っても過言ではない。そんな俺のカンが俺に告げるんだ。君が何かを隠している、とね」


「そ、それはどういう……」


「根拠かい? カンだから根拠はないんだがね、強いて一つ上げるなら、アンティーク伯ご推薦の君が、ただ武器の扱いが得意、っていうだけなのがどうもせない。何か隠してるカードがあるんだろう?」


「い、いえ、そんな……」



その時、エドのリュックの雨よけがぱさりと開き、ポケットが開いてセファが目をこすりながら顔を出した。



「エド……、そろそろ目的地には着いた?」



大あくびをしたセファは、自分を見つめる4人の目に気づいて、しまったという表情になった。


「はっ!」



「エ、エド、なんだこれは」 レオが顔を引きつらせながら、絞り出すように言った。


「こ、こんなかわいいお人形を戦場に持ち込むなんて、あなた変態なの?」テオがおねえっぽい言葉でさげすむように言った。だがその目は少しうらやましそうだ。


「ち、違う、これは人形じゃないんだ」 エドは顔を赤くして弁解する。


「人形じゃないだと? じゃあなんだというんだ」


レオはセファを右手でそっと捕まえようとした。それに気付いたセファが慌てて叫んだ。


「や、やめてください、サファイアに知られたら大変なことになりますから!」


「サファイア?」


「ええ、あたしの友達よ。お願いだからサファイアを怒らせないで」



レオ、エド、ヨナ、そしてテオは、セファの足元のリュックの暗がりに潜む黒くおぞましい生き物の姿を見た。生き物は静かに、しかしどすの利いた声でレオに言った。


「セファを、いじめる、許さないィイイイ、フシュルルル、ウンギギギギィイ」


 レオはそれを見て慌てて手をひっこめ、ハハ、ハハハと笑った。さすがの叩き上げの軍人も、戦闘形態となったサファイアのグロテスクな姿には、動揺を隠せなかった。


 ざわつくレオ達を見て、エドは到着早々セファが見つかってしまうなんて、最悪の事態だと思った。だがその反面、どうせ隠し通せるものでもないし、今見つかったのはむしろ幸運だったのかもしれないとも考えていた。


 サファイアに戦闘形態を解除させたセファは、舌を出して頭をかきながら自己紹介をした。


「あ、あたしはセファ。エルフの末裔にしてホワイトニンフの、セファ・オランジェ。よろしくね、てへ」


(エルフ?)


(ホワイトニンフ、だと?)


誰かの声が、セファとサファイアの心に響いた。


(これは、思考共有? 誰?)


セファは天井を見上げた。剥き出しのはりの上にいる、3匹の小さな生き物が見えた。天井は暗くてよくは見えないけれど、その生き物は、目が赤く光っていた。



(続く)


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