第三十九話・ザールブリュッケン到着
今後の方向の決定に苦労しています。ひとまずキャラクターシートが出来上がった所まで執筆。エタらないように慎重に進めねば。
エドはザールブリュッケンへ向かう列車の中で、四人掛けの座席に座り、周囲を確認しながら傍らに置いたリュックサックのトップポケットを開いた。そこからセファが、ひょこりと顔を出した。
「ぷはぁ」
「居心地悪くて申し訳ない。改造してなんとかセファとサファイアの居場所をと思ったんだけど、軍の支給品のリュックだからね、改造はあきらめたんだ」
「大丈夫よ。ホントに息苦しくなったら、透明化を唱えて外に出るから」
「うん。ところで自動車でマンハイムまで送ってもらって助かった。後三十分後だと、同じく戦場に向かう新兵達で大混雑だ」
「戦争って、そんなに大勢の人が戦うの?」
「うん、そしてそのうち8割は塹壕戦に配属されて、何の活躍も出来ず無駄に命を落とす。今回の戦争はそんな感じらしい。国民には伝えられてないけどね」
「――なぜ伝えないの?」
「本当のことを言っちゃうと、戦争反対の声が大きくなるからね。多くの若者が戦場に駆り出され、数日のうちに死んでいく。それでも国民が我慢するのは、戦地の悲惨な状況を伝えてないから。ドイツ軍がフランス軍を圧倒していて、少しずつパリ攻略に近づいていると、嘘を信じさせられているからだ。実際は一進一退の塹壕戦なんだ」
セファはまた疑問に思い始めた。自分がなぜ戦場に行くのかと。戦争や争いが嫌いな自分が戦場に行って、何が出来るのかと。アレクは言った。セファの魔法が戦争の終結を早め、被害を最小限にするのだと。本当にそうなればいいのだけれど――。
「そうだセファ、小さな袋を持っていたね。僕が改造してセファ用のリュックにしてあげるよ」
「あ、大丈夫よ。リュックならエルフの魔法で作れるから。それにリュックはニンフの羽が邪魔で背負えないから、ショルダーバッグにするわ」
「なるほど」
セファはエドのリュックから出て、陽射しの強い窓際まで飛び、魔法の力で白地にブルーの模様の入ったショルダーバッグを作り上げると、それに食器の入った袋を入れた。
「うん、いい感じ」
「魔法ってすごいんだな。もしセファが僕のお店を手伝ってくれたら、これまで人間では無理だったアイテムが、色々出来るかもしれない」
「じゃあ、戦争が終わったらあたし、エドのお店に就職しようかな」
「うん、そうしてよ。きっと楽しくなるよ」 エドが微笑んだ。
列車を乗り継ぎ、お昼を過ぎ昼食のサンドイッチを食べきった頃に、目的地であるザールブリュッケンに到着した。その頃には列車の中は若い兵士で一杯になり、セファとサファイアは、網棚の上のリュックの中で、静かに息を殺していた。
エドは立ち上がって網棚からリュックを降ろし、多くの兵士とともにホームに降りた。
駅前の広場に着くと、そこはすでに百名余りの兵士で埋め尽くされていた。受付案内と書かれた紙の貼られた長机の前に、長蛇の列が出来ていて、エドはその列の最後尾に並んだ。受け付けを終えた新兵は、列から離れて広場にしゃがみ、何かを待たされているようだった。
長かった列が処理され、ようやくエドの受付の番となった。
「エド・バーマスか。君はあそこにある白い建物の2階に行ってくれ。詳しくはそこで説明があるらしい」
「他の人は広場で待機してるようですが、それって僕だけですか?」
「いや。君を含めて数人、だが、どこまで伝えていいのかわからないから、悪いがこれ以上は言えない。さあ、行った行った」
「――わかりました」
エドは広場で座り込む新兵達を横目で見ながら、受け付けに指示された建物に向かった。木製のドアから入ると、目の前に二階へ続く階段があり、左手には広い部屋への入口があった。部屋の中はほこりっぽく、多くの物資や調理器具や食器、武器弾薬等が置かれている。
エドは二階に向かった。一階同様に広い部屋への入口がある。部屋の中には十数人の、軍服を着た男性がいて、それぞれ何か作業をしているようだ。彼らは部屋に入ってきたエドに気づいて顔を上げた。そのうちの一人、体格のいい男が椅子から立ち、手にした書類を丸めて弄びながら、エドに近づいてきた。
「君は?」
「ハイデルベルクから来たエド・バーマスです。ここに来るように受け付けで言われました」
「令状を」
エドは令状を男に渡した。
「君がエド・バーマスか。あのアンティーク伯の推薦ということで期待していたんだが、こんな子供とは。まあそれはしょうがない。そこの隅の椅子に座って待っていてくれ。三人そろったら、君達の今後について説明するよ」
部屋の隅には木製の椅子が三つ置かれており、その一つに金髪おかっぱの、童顔の少年が座ってこちらを見ている。着ている軍服は少し大きめで、そのせいで全体としてだらしない感じに見える。
エドは視線を戻して尋ねた。
「はい、――あ、あの、お名前をうかがっていいですか?」
「これは失礼。俺はレオ・ゲオルク。軍曹と呼んでくれ」
軍曹はそう言って椅子に戻り、書類を開いて眺めはじめた。
エドは背中からリュックを慎重に降ろし、部屋の隅の椅子に向かって歩き、おかっぱの少年に挨拶をした。
「初めまして。僕はエド・バーマス」
リュックを床に置き、エドは少年の隣の椅子に腰かけた。少年が答えた。
「は、初めましてエド。僕はヨナ・カトリン。よろしく」
「よろしくヨナ。ところで君や僕は、他の新兵とは扱いが違うようだけど、どういうことか知ってる?」
「ううん、知らない……」
「そう……」
エドは部屋の中を観察しながら、三人目を待つことにした。そんなエドにヨナが不安そうな声で話しかけた。
「エド、君は何か知ってる?」
「いや。ただ、僕の場合は知人が軍に顔が利く人で、何か軍に口添えをしてくれたらしい。もしかしたら後方支援に回してくれるのかもと思っているけど、どうなるかわからないね」
「そう、なんだ」
それきり二人は無言になり、しばらく退屈な時間を過ごした。その間何人かの兵士が部屋を出入りしたけれど、やがて小柄で赤毛の長髪を持つ軍服を着た者が、階段を昇ってくるのがエドとヨナには見えた。丸みを帯びた身体と端正な顔立ちはまるで女性のようだ。ゲオルク軍曹が立ち上がり、彼に歩み寄って椅子に座るように言った。
長髪の間からちらりとのぞく鋭い目でエドを見おろした彼は、無言でエドの隣の椅子に座った。
「や、やあ。僕はエド・バーマス。よろしく」
黒髪の奥の目で再びギロリとエドを睨み、彼は言った。
「私はテオ・アンデルス 二等兵。あまり馴れ馴れしく話しかけないで」
まるで女性そのもののような甲高い声に驚いたエドは、困惑しながら謝った。
「ご、ごめん……」
そして、その頃セファは――。
長旅で疲れてしまい、エドのリュックの中で、サファイアをクッションにして熟睡していたのだった……。
(続く)




