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第三十話・超絶ヒール魔法!

 朝シャワーを終えたエリス、セファ、そしてサファイアは、さっぱりとした表情で、アレクの寝泊りする時計塔へと向かった。塔に着くと、扉の近くに白い丸テーブルと、白い椅子が置かれており、テーブルの上には食事の用意が出来ていた。扉のリングを使いエリスがノックすると、それを待っていたかのようにアレクが扉を開けた。


「おはよう。昨日はよく眠れたかな。そうでもなさそう、だね?」


 エリスとセファは顔を見合わせる。お互いの顔に、寝不足の目のクマを発見して同時にくすっと笑った。


「今日はダミーに頼んで、そこに朝食を用意しておいてもらった。そこで話をしよう」


「はい」


 今日のセファ用の飲み物は、ミルクだった。昨日と違って小さな木製のスプーンが置かれており、セファは手を汚す事なく、ミルクを飲むことが出来た。セファ用の、小さなフィンガーボールも置かれ、水が張られており、セファはそれで手を洗いながら、ソーセージ、豚肉、ジャガイモなどを手づかみで楽しんだ。


「それで、今日の課題の癒し系の魔法、ヒールの習得だが」


「は、はい」


「僕の考えでは、セファくんの持つスキル、先祖の記憶というのは、セファくんが困った時に、それを助ける形で発動するものだと思うんだ。つまりね。ヒールを覚えたいと思うのなら、マナが切れて弱っているサファイアくんを、本気で助けたいと願うだけでいいはず……」


「本気でって……、そんなにうまくいくと思えないです」


「いや、うまくいくはずなんだ。だから今日は、僕はサファイアくんの治療はしないことにした」


「なんですって? そんな!」


 セファの隣で、大人しくしていたサファイアの身体に、微妙な変化が生じた。青っぽい身体の中に1点、赤い光が生じ、点滅を始めたのだ。これは精霊の、怒りと警告の象徴である。


(セファを、いじめる、許さないィイイイ、フシュルルル)


(だ、大丈夫よ、あたしがなんとかするから)


「それだ、その戦闘形態への変化。精霊はその変身によって、大量のマナを消費する。それをやめさせるか、早くヒールをかけないと、サファイアくんがどうなっても知らないぞ」


「サファイア、やめて、あたしの話を聞いて」


(セファ、怒ってるの?)


(怒ってない、怒ってないよ、大丈夫。でも、アレクはあたしのために言ってくれてるの。だから彼を攻撃したりしないで)


(……、わかった)


 サファイアの半透明の青い身体から、赤い光点が消えた。同時に全身の緑色の光も、一段と暗くなってしまったように見える。アレクが言った通り、攻撃への準備をしたことで、残りのマナの多くを使ってしまったのだった。



「ごめん、ちょっと僕のやり方が悪かったね。じゃあ、こうしよう。セファくん、僕がヒールをサファイアくんに使ってみるけど、それを真似して、一緒にサファイアくんに、ヒールをかけてみて。それで駄目なら、お昼にまた別の方法を考えてみよう。それでいいかい?」



「はい、ごめんなさい」


「あやまらなくてもいい。今は魔法だけに集中して。まず右手をこう」


軽く右手をあげるアレク。それにならうセファ。


「次は……、そうだな、自分の全身から出ている水蒸気を、指先に集めるイメージ、かな。サファイアくんが元気になるイメージも、同時に思い浮かべて」


 アレクの右手の平に、ぼうっと緑色の輝きが集まる。それを見たセファは、目を閉じ、心の中でイメージする。その時……。


 カチャリ……


 セファの心の中で、扉の鍵が開けられたような軽い金属音がし、瞬間、セファの脳で、大量の過去のイメージが再生された。それは様々な場面でヒールを使っている、先祖であるエルフ達の記憶だった。水辺で怪我をした子供をヒールするエルフの母親。ペットを、家畜を、自然の動物たちを、そして人間にヒールをかけるエルフ達。戦場で、息も絶え絶えの仲間に、多くの仲間達が泣きながらヒールをかける。火を付けられた家々の中で、煙と炎に巻かれながらも、意識を無くした妻と子供たちにヒールをかけ続ける父親……。


 セファは両目に涙があふれるのを感じた。だが同時に、右手に強いパワーを感じてセファは目を開いた。自分の右手を、アレクのとは比較にならないほどの、まばゆい光が包んでいるのをセファは見た。エネルギーはさらに周囲の空気も振動させ、セファの右手を中心に、小さな竜巻のようなものが起こっていた。


「ふぉおおおおお!」エリスが叫んだ。


「ま、まさかこれほどとは!」アレクも驚愕している。


「できた! できました! 次はこの手をサファイアの上に?」


「そうだ……、しかしそれだけのパワーあるヒールに、逆にサファイアくんが耐えられるかどうか……」


 ごくり、と息を飲むエリスとアレク。セファは恐る恐る、右手をサファイアに近づけた。その手がサファイアの少し上辺りに寄せられたその瞬間、暗くなりかけていた、サファイアの緑色の光が一瞬で強まり、金色の光が周囲に放射され、また星形の光もサファイアの周囲をくるくると回り始め、また、電子レンジにかけた卵が爆発でもしたような、すぱあん、という音がし、さらに驚いたことに、サファイアが声をあげて絶叫したのだ!


「ウッピイイイイイィィィイイイイイ!」


「サファイアが、しゃべったああああ!」


「えええええええ!?」



 右手のパワーを放電しきったセファが、冷や汗を流しながらサファイアに話しかけた。


「さ、サファイア、大丈夫?」


「ビックリシタ、デモモウダイジョウブ」


 サファイアは元気を取り戻し、テーブルの上空十センチほどの所をふわふわと浮遊した。その周囲には、白と緑のグラデーションのオーロラのような光やら、周囲をくるくると回る星形の金色の物体やら、周囲にちかちかと放出される、サーチライトのような金色の光やら、さらにもともと付けていた羽衣とリボンと相まって、まるで後光を持つ神様のように神々しい存在に見えた。いや、もともと精霊というのは神々しい存在なのだけど、転生して更に上位の存在となったような印象だ。


「元気になったわね、よかった!」


「げ、元気というよりも、もう精霊とは別の存在という気が……」


「はは、ホワイトニンフのヒール、恐るべし、だね」


 心配していたヒール魔法の習得もあっという間に完了し、あとはエドとともに戦場に向かうばかりとなった。だが、サファイアをどうやって泉に帰らせるかと、今日の夜にエリスに何をされるか、その2つが、今のセファに残された気がかりであった。


(続く)


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