第十一話・クレーマー三番勝負(2)
クレーマー3人の怒りをしずめよ、というステージ3のお題、その1人目の怒りをしずめた富樫であったが、2人目はそう簡単にはいかなさそうだった。店内をうろつく2人のうちの、金属バットを持つ巨漢、まるでゴーレムのようなその男が、どや顔で富樫に見せつけている食材……、それは某メーカーの超人気のアイス、ガ〇ガ〇君だ!
「あいつ……、某ユーチュバーのようなことしやがって……、許せん……」
「ト、トガシ……、どんなことがあってもお客様対応は、冷静にね」
「ああ……。俺は冷静だ。俺の生き方にあらがう奴は、この俺が極めて冷静に、ぶちのめしてやる!」
予想外の富樫の言葉に、慌てるセファ。
「このゲームは知育ゲームだから、暴力は禁止だよ、どんなことがあってもね!」
「はあ? 暴力禁止? 拳銃や金属バットを持ちだしておいて、よくいうぜ! 俺はこの素手で勝負するんだ。むしろ俺の方が弱者だぜ?」
「トガシ……、素手で金属バットに勝てるっていうの? 無理だよ。なにより、このゲームの趣旨と違うから!」
「趣旨? それを言うなら俺の気持ちも知らず何の意見も聞かず、俺をこんな牢獄に閉じ込めたお前の方が、俺の都合を尊重してないだろ! 俺は決めたんだよ、このゴーレム野郎をぶちのめすってな。その後のことは、その後考えるさ!」
「ト、トガシィ!!」
セファにとってこの予想外の展開は、なぜ起こったのか。その理由の一つは、富樫の戦闘能力を、なめていたことにあった。富樫は確かに、体力もなく、学力も大したことないニート野郎なのだけど、ちょっとだけ人にほこれるものが、3つだけあったのだ。
一つは異常聴力。意識を耳に集中し、耳たぶをひくひくと動かすだけで、常人の二十万倍もの小さな音を、聴き取ることが可能となるのだ。これを人に誇らずして、何を誇れるというのだ!
二つ目は、普段眠らせているけれど、異常事態には驚異的な分析力・計算能力を発揮する頭脳である。まあこれは、普段はずっと眠らせているため、何の役にも立たないのだが!
そして三つ目が、格闘において、ごくごく一般的な技、肘打ち(エルボー)であった。ある格闘家によるエルボーに心酔した富樫は、毎日1時間とちょっとは練習し、その毎日の鍛錬が、世界中のどの格闘家よりも多彩な肘打ちスキル、『七色のエルボー』を、富樫に習得させていたのだ! そのたぐいまれな格闘能力に、富樫自身、うすうす気づいていたのだ。「俺はワンチャンあれば、世界最強の格闘家さえも、俺の肘打ちで、一発でマットに沈めることが出来る!」、そう富樫は常々思っていたが、それはあながち、過信とは言えないくらいの実力を、富樫は持っていたのだ!
「どんな武器を持ってこようとも、死ななければどうということはない。やられる前にやればいいだけだ。俺をなめるな! こいよ! ゴーレム野郎!」
「な、なんなのよゴーレムって。このゲームはそういうのじゃないから!」
「格ゲー?」
「そう、これは格ゲーじゃなくて、知育ゲームだから! おかしなことはやめて!」
「セファ、お前の気持ちはわかる。自分の作ったこの世界を、お前の想定外の能力で破壊されたくないというお前の気持ちはな。だがな、俺は気付いたんだよ。この世界のルールに、穴があることに! 俺はそんなお前の作ったこの仮想世界のルールに、致命的な一撃を与えることの可能な会心の一撃を、与えることが出来る可能性のあることになあ、ホワッチャアアアアアア!!」
富樫が、空手の「猫足立ち(ねこあしだち)」のようなポーズをきめて叫んだ。その瞬間、セファは考えるのをやめた。こ、これはこれで面白いかも、がんばれトガシ……と、セファは思い始めていたのだった。
「おもしろいわ、やってみなさいトガシ!」
「ふふっ! そうこなくっちゃな! 見ていてください、三沢センパイ!」
(続く)




