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コンビニ転生・ニートだった俺がどうやって業務用電子レンジを使いこなせるようになったか  作者: 超プリン体
第1章 ハイテク・プリズン『電子レンジ地獄』
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第十話・クレーマー三番勝負(1)

「いっくよーーー! ゲーム、スタート!」セファが叫んだ。


「ま、待ってくれえええ、うわぁあああ!」


 『ROUND3 クレーマー3人の怒りをしずめよ!』


ゲームが開始され、富樫は再びコンビニの制服を着て、レジの前に立っていた。


(嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ! うわああああ!)


 富樫は元々は、人見知りとか人間が嫌いだとか、人付き合いが苦手とかいうわけではなかったが、親元を離れ、ひとりニート生活を送るようになってからは、人付き合いが超苦手になってしまっていた。かろうじて心を許せるのは、可憐な見た目に地味な服装、地味な性格のあまちゃんだったため、あまちゃんがいる時間を狙って、コンビニに向かう毎日だった。ただ、富樫自身は、そんな自分のあまちゃんへの気持ちには気付いてなかった。そう、このコンビニ地獄に拉致される前までは!


「お、俺があまちゃんを大好きってのは認める。だから俺を殺すのはあまちゃん以外のNPCにしてくれないか。何度もあまちゃんに殺されてると、トラウマになる。悪くすれば俺は発狂する!」


「そう? 確かにそうね。わかったよ」


 ぱちっという乾いた音が、富樫の耳に聴こえた。異常聴力を持つ富樫にしか聞こえない程度の、かすかな音である。


「あなたを殺すのは、あまちゃん以外の人にしたよ。どっちが怖いかはわからないけどね、えへへ」


 コンビニの入店音が響く。見るといかにも半グレといった風貌の、黒いパンツに黒い革ジャンの三人の男達が、見るも怖ろしい武器を手にして入ってきた。一人は鉄パイプ、一人は金属バット、もう一人は拳銃である。


「こ、こええよ、どれも嫌だよ、痛そうだよ、死にたくねえええ!! って、まさかクレーマー役もこいつらかよ! そっちはあまちゃんでいいから!」


「はいはい、注文多すぎ。あんまりワガママ言うと、ゲームオーバーにしちゃいますよ? ちゃんと対応すれば大丈夫だから、この設定でがんばって」


 三人の半グレ達は、入店こそ一緒だったが、その後はそれぞれ好き勝手に、コンビニ店内をうろつき商品を眺めている。富樫は、ぶるぶる震えながらその三人の様子を観察した。やがて鉄パイプを持った男が近づいてきて、ポテトチップスをカウンターに置いた。他の二人はまだ店内を物色中である。


 鉄パイプの男が言った。


「うっす、これ電子レンジであたためてくれっす」


「え、ポテチを温め、だと?」


「お、おい、なんだその言葉づかい。俺お客さんっすよ! 神様っすよ!」


「すみません、でもポテチを温めなんて、聞いたことなくて」


「そうなの? 俺、いつも温めてもらうんっすよ。ホットポテチ、おいしいっすよ? 知らねっすか?」


 男は持っていた鉄パイプで、カウンターをごんごんと叩いた。明らかにイラついている様子である。富樫は小声でセファに助けを求めた。


「おいセファ、どうすりゃいいんだ、わかんねぇぞこれ!」


「あ、ごめん……、これはね、電子レンジでの温めOKっていう、特殊なポテトチップスをうまく対応できるかっていう問題だったの。パッケージを見ると、レンジでの温め方が書いてあって、それを見てうまく対応できれば正解、のはずなんだけどね」


「ふむ……」


富樫はポテチの袋を手に取って確認する。


「ほんとだ、電子レンジでの温めOK! って書いてある。こんなのあるんだな」


「うん、でもね、今調べてみたら、その商品、発煙・発火の恐れがあるから、メーカーが全部回収したんだって! びっくりだよね。メーカー大損害だよね!」


「し、知らんわ! でもそれって……、この状況自体がゲームとして成り立ってないんじゃねえか! 断っても不正解、温めても不正解だろ!」


「そ、そうだよね、あははは、あははははは!」


 再び、ぱちっという乾いた音が聞こえた。セファが慌てて設定をいじった音だ。その途端、鉄パイプを持った男の態度が急に弱気になった。男は見せつけるようにカウンターに置いていた鉄パイプを、慌てて後ろ手に持って隠し、小声で言った。


「あ、おにいさん、ごめんっす。俺、自分ちでそのポテチ温めるから、返してくれっす。で、おいくらっすか? あと、ちょっとメタな話になっちゃうけど、これで一人目のクレーマークリアっす。おめでとうっす」


「むう……、あ、ありがとっす」


 富樫は手にしていたポテチ袋をリーダーで読み取って値段を告げた。白く小さいレジ袋にポテチを入れ、お金を受け取り商品を渡す。お釣りとレシートを手渡すと、それを丁寧にうけとった鉄パイプ男が言った。


「ありがとうっす。2人目、3人目のクレーマーにも気をつけるっす。俺は三人の中では、最弱っすから! がんばれっす! おにいさんがーんばれっす!」


「あ、ありがとっす……」


 ポテチの入った白いコンビニ袋を手にして、コンビニを出ていく鉄パイプの男。お、おい、お前達三人、仲間じゃなかったのかよ、と心の中で突っ込みを入れながら、富樫は再び店内に視線をもどし、他の二人を観察した。その瞬間、金属バットを肩にかついだ、ゴーレム風(?)の男と目があった。


(ふふ……。あの鉄パイプ野郎は、俺達の中では最弱。だが俺は違う。俺様の氷系魔法のような攻撃を、受けてみるがいいわ!)


 富樫の脳内に、金属バット野郎の心の声が響いたが、富樫は動じない。富樫は笑いながら、金属バット野郎の目を見据える。だが、そんな富樫の余裕も失せるような事態が生じた。金属バット野郎が、近くの商品を取り、富樫に見せつけるように、差し出したのだが、その商品があまりにも予想外だったのだった。


(な……、それをあっため、だと? ふざけてるのか? 正気じゃねえ!)


(ふふ……、怖いなら尻尾を巻いて逃げ出し、スタッフルームでがたがたと震えているがいいわ! 軟弱者め!)


 二人の思いが激突し、ゴゴゴゴゴオッという重低音が、コンビニ店内を不気味に震わせているように、富樫は感じた。


(続く)

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