愛してるよ
くるくるくるくる景色がまわる
ぽたぽたぽたぽた、生ぬるい水が頬をつたう
手が足が心臓が
止まってしまう
叫ぶ、叫ぶ、
声なんてもう出ないけど
伝えたい言葉なんてないけど
何かを叫んで、視界はもう、真っ暗
温かい光が彼女をつつむ。
包むというより、射す。
痛いくらいに射す。
光のもとに行きたいと本能が叫ぶ。
痛いのに、まぶしいのに、外に出たいと。
大声で私はここにいると。
ここは温かいけれど、優しい声もするけど、天も地もなくゆらゆら漂うのは気持ちよすぎてちょっと長く居すぎたけど。
あいたい。だいすき。いまいくから。
くるくるくるくる、体をまわす。光のもとへ
いつも彼女を優しく呼んでくれる声は、今早くおいでとよんでいる。
あいしてる!だいすき!あいたい!あいたい!
喉がかれる。助産婦さんが背中をさすってくれる。痛い、痛い、痛い!男なんてこんな時本当に役立たずだ。パパ覚えてろ、私とこの子一生大事にしなかったらぎたぎたにやっつける。夫婦仲なんてたいしてよくもないけど、私だってそんなに強くないけど。
大切にだけはするから。愛してるから、頑張ってママの所おいで!
ママ!ママ!ママ!
はやくはやくはやくいかなきゃ!
暗くて狭い体中がつぶれそうになりながら彼女は泳ぐように光へむかう。
早くおわれー!痛い!ママここだよ!
私はハンマーでお腹を打たれてるような痛みをやり過ごす。
リラックス効果のある音楽、ラベンダーのアロマなんかに気づく余裕なんてない。なんなら痛さで何度かブラックアウトしてる。
「赤ちゃんもうすぐだよ」
「頭みえてるからね」
「頑張って」
一際狭い暗い場所。通り抜けたら、体をぴゅうと冷たい何かを感じたからびっくりしたら、私の口から大きな声が出てびっくりした。
白い服きた変なのが私とママのお腹をきって、ママの中みたいな温かいところでじゃぶじゃぶしたら、私をママの胸においた。
おぎゃー!おぎゃー!オギャー!
はじめて聞いたこえ!私の赤ちゃん!とか思ってるうちに私の胸に赤ちゃんがくる。赤ちゃんが私の胸に吸い付いてくる
うれしい。かわいい。だいすき。不安。心配。大変。
でも、それより
「初めまして。愛してるよ」
とりあえず抱きしめよう。