本日、サボり魔は受け付けておりません
まあ、確かに今のオリガがああなったのは彼女の祖母が原因と言っても過言ではないのだが。とにかく、もう十年以上経った今でも未だに、オリガはこういう悪天候を苦手にしている。
何かきっかけでもあれば、変わるのかもしれないのだが。
「ねえ、シェーラ。そういうのに効く薬とかって、魔界にないかしら?」
「うーん、精神的なものだからねー。幻覚を見せたり、混乱させたりすることなら出来るけど……やっぱり、根本的な解決にはならないと思うの」
シェーラが困ったように笑う。ううむ、正論で返されてしまった。だが、彼女の言う通りか。
「そうよねぇ、いくら幼馴染とはいえ……これはオリガの問題なのよねぇ。ま、最近は昔ほど酷くないし。死ぬような問題じゃないし、放っておいても良いか」
それに、彼女も勇者なのだ。そろそろ過保護も止めるべきかと考える。すると、その時。医務室に誰かが慌ただしく入ってくる声が聞こえてきた。
「おい、しっかりしろ!」
「ううーん……気持ち悪……」
「シェーラちゃん! シェーラちゃん居るかい!?」
「あ、はーい!」
自分を呼ぶ声に、シェーラが慌てて診察室を飛び出して行った。思わずメノウも彼女の背中を追いかける。
一昨日、初めてこの部屋に入って来た時にはサボっていたり、シェーラ目当てでベッドに寝転がっている者ばかりであったが。今日はどうにも様子が違う。
「わあ! エレズくん大丈夫? 薬は飲んだの?」
「うう……飲んだ、けど」
「ごめんよ、シェーラちゃん。コイツ、確かに朝はちゃんと薬を飲んだんだ。でも、何だか効いていないみたいで!」
「イアンさん、エレズくんが今朝から何を食べたり飲んだりしたかわかりますか?」
大柄な獣人が、小さなドワーフを背に担いで飛び込んできた。担がれているドワーフは、素人のメノウが見てもわかるくらいに顔色が悪い。顔見知りなのか、シェーラが注意深くエレズという名のドワーフを診ている。
いつになく真剣なシェーラの姿に、思わず目を見張る。無理もない。メノウが荷物を運んでいる間に見かけただけでも、体調を崩して運び込まれる者が後を絶たないのだ。
今日、医務室に居るのは本物の患者ばかり。回復して仕事に戻った者も居るが、ベッドは半分以上が埋まっていた。
「ごめんねぇ、メノウちゃん。お茶は後で煎れるから、ちょっと待って――」
「シェーラちゃん、居るか!? 外で怪我したやつが居て、見て欲しいんだ!!」
「おい、一人で歩けるって……いてて!?」
シェーラの言葉を遮るようにして、またもや聞き慣れない声が医務室に飛び込んできた。今度は二人組のエルフだ。
片方がもう片方に肩を貸してやりながら、ぎこちなく歩いている。二人ともサギリ同様、少女のように可憐だがどうやら二人とも男らしい。
「わわ、ブラナーさんどうしたのぉ?」
「外で荷物の運搬中に、荷物が崩れてきたんだ。それで、ディルが荷物の下敷きになってしまって……」
「た、大したことない……いっ、たぁ!?」
「と、とにかくそこに座らせて!」
空いているベッドにディルを座らせて、シェーラが診察を始める。どうやら擦り傷と打ち身が多く、骨折などは無いようだが。
「うーん……右足をくじいちゃっているみたい。骨には異常は無さそうだけど、固定した方が良いわねぇ。ちょっと待ってて、エレズくんに新しい薬を作らなきゃだから――」
「あら、それならワタシがお手伝いしても良いかしら? 足のテーピングくらいなら、オリガに何百回もしてあげたし。出来ると思うわぁ」
忙しないシェーラに見かねて、気がついたらメノウは無意識にそう申し出ていた。昔からお転婆だったオリガの手当をしたのは数知れず。薬を調合するのは無理だが、足首を固定するくらいならば出来る筈。
メノウの言葉に、シェーラが表情を花のようにぱっと明るくさせた。
「本当!? ありがとう、メノウちゃん。それじゃあ、お願いしても良い? あ、この湿布薬は捻挫によく効く薬草を塗り込んであるからこれも貼ってあげてー」
「ええ、わかったわ」
「おお! 噂の人間のオネーサンに看病して貰えるだなんて。羨ましいなー、おい?」
「ちょ、ちょっと……茶化さないでくださいよ」
「うふふ、どんな噂になっているのかしら。気になるわぁ?」
シェーラから渡されたオレンジ色の湿布薬と、包帯を手にしてエルフ達の元へと向かう。ディルの怪我以外に具合が悪いところはないのか、メノウの姿を興味深そうに見つめている。
クスクスと笑ってみれば、ディルが赤面して視線を逸らす。何とも可愛い反応だ。
「いやー、変な噂はないですよ? でも、皆言ってます。おれたちは子供の頃から、勇者とその仲間は野蛮な奴らだって、習ってきたんだけど。でも実際の勇者さんは優しくて強くて頼りがいがあって、しかも相棒さんはこんなに別嬪さんだなんてな。なー、ディル?」
「な、なんでボクに話を振るんですか!」
「あー? だって、お前って乳のデカいオネーサンが好きだって――」
「うーわー!! 何のことですか、何のことですか! 記憶にございません!!」
「うふふふ、そんなに褒められても何も出せないわよ?」
やれやれ。魔族も見た目が色々なだけで、人間と同じだな。メノウはにこにこと笑いながら、慣れた手付きでディルの足を湿布と包帯で固定してやった。




